第2節 高齢社会における在宅介護のネットワークシステム


 プロローグ
 本稿を書くことになったのは、平成8年度の静岡地方自治研究センターの研究テーマであったことはもちろんであるが、以下のような個人的理由にも基づくものである。 筆者は寺院の長男と して生まれ、物心がついた頃より、祖父が戦前に創始した宗教法人の養老院の、いわば「門前の小僧」として少年時代を過ごした。この養老院はやがて市へ移管され、同じく宗教法人の養護施設に改組され、現在に至っている。
 大学に勤める傍ら「副」住職として、法事をつとめ死者の「霊魂」を慰め、家族の心の「平穏」を願っている。大学は、また別宗教法人の経営であり、「人間主義」に基づく教育を心がけている。 以下の論述はこのような筆者の少年時代からの、「生と死」についての原体験に根ざしたものである。また筆者にも年老 いた両親があり、自分もいずれ年老いて死を迎える。この小論を書かせた動機は、以上のよう なものである。
 調査研究に当たっては、地方自治研究センターに大変お世話になった。県の担当部局でも話を伺い、資料を提供していただいた。また、市町村の担当部局、社会福祉協議会、在宅介護支援センター、老人病院、老人保健施設、医療機関などでも施設の見学や聞き取り調査を御願いした。足らざる知識は文献によった。 施策を考えるため、全国一の高齢県、島根県のデータを活用させていただいたし、同県では、県・市町村の大勢の方々と、 研修という形ではあるが、今後の在宅介護のあり方に関して、ともに考える機会を得た。「在 宅介護支援のネットワークシステム」という着眼点は、同研修での成果に負うところが大き い。 福祉の現場の外にある者の提言である。事実認識や方向性に関して、誤りがあるかも 知れない。忌憚のない批判をお願いしたい。

T.なぜ在宅介護なのか

 高齢社会における公的サービスの諸問題を考える前段として、まず、何故に「在宅介護」が時代の要請として課題となっているのかについて、若干の考察を加えたい。「高齢社会における公的介護充実の連関図」に示 したように、8つの主要な要因によって、今、在宅介護の充実が、緊急を要する行政需要として、提起されていると整理した。

 (1)まず、世界に例を見ない、急速な高齢化の進展と長寿化である。西暦2025年には4人に1人が高齢者という 状況は、長寿化と相まって、社会に様々な波紋を投げかけている。
 (2)核家族化に代表される家族形態の変容は、老人世帯の急増となり、独居老人を増加させる。また介護が必要になった場合の「老々介護」が常態化し、ここから「共倒れ」といった事態を招くことが指摘される ようになった。
 ここに、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、老人病院、老人保健施設、デイケアセンター、ショート ステイなど、高齢化と病状、症状、家族介護の有無などの状況に応じた、各種施設・介護サービスが必要と なり、ゴールドプラン、新ゴールドプランと続く計画的・政策対応が、未だ整備水準は低いものの、進め られているところである。
 その場合に、施設収容型の公的医療・介護の限界から、在宅介護にシフトせざるを得ない状況が現出してい ると考えられる。
 (3)一方、医療技術水準の高度化は、食生活の多様化、変化、高齢化に対応しない住宅構造と相まって、 意図せざる寝たきり頻度の増大となっている。施設収容型医療・介護に限界があるとすれば、こうした寝 たきり頻度の増大は、在宅介護の充実・強化への要請を、緊急課題とする事は必然である。
 (4)また、高度成長によって実現した経済的「豊かさ」は、国民全般の価値観を多様化させるとともに、核家族化に代表される、「家族の多様化現象」を生み出した。こうして女性の社会参加・進出が進み、少子化(DINKS=DOUBLE INCOME NO KIDS)という流れを促進した。伝統的な家族形態は影を潜め、家族はいわば高齢者の介護機能を弱化させたのである。
 しかしながら、「嫁が年寄りを看取る」という伝統的な価値観は未だ健在であり、女性はこの二律背反の中であえぎ、悩み、心身を消耗させている。 施設看護・介護、在宅医療・介護の充実がなければ、持ちこたえられないところまで事態は進行している。 こうした状況の中で、一般に「社会的入院」と言われる、医療保険制度の「非効率現象」が指摘され、年金制度とともに、医療保険制度の危機が叫ばれるようになった。このような社会現象としての高齢者に対する医療・介護の実態は、伝えられるように、必ずしも高齢者の人権や生活を真に保証するものではなかった。それは急速な高齢化に対して、看護・介護のシステムが未整備なまま、弊害が露呈したことの結果であるように思われる。
 (5)これに対して、「豊かな老後」、「生命の尊厳」に繋がる介護システムが求められるようになり、「看取る介護から生活支援の介護」(QOL=QUALITY OF LIFE)へ転換することが求められるようになった。
(6)経済的「豊かさ」は、急速な都市化の進展によって実現された。この趨勢はあまりにも急速であったために、行政、民間、地域社会レベルの介護支援システムが実態に追いつかず、ために、相次ぐ老人の孤独死、自殺、焼死、虐待と言った、悲惨な事態を引きおこしている。 他方、失われた草の根レベルでの地域の連帯は、「阪神大震災」復興の中で、未だ健全であり、生きていることが証明されたが、地方中枢・中核都市レベルでの、急速な人口集中・都市化は、ますます、地域連帯の希薄化を強めるであろう。地域で支え会ってきた高齢者介護の機能はここでもまた低下の傾向にある。
 (7)対極にある農村・過疎地域では、人口流出、高齢化、若年者の減少によって、介護需要が増大しているにも関わらず、財源難、地域生活インフラの脆弱化、介護者の欠如といった厳しい状況にたたされている。ここから、どのような介護システムを再構築しなければならないのかが、大きな政策課題となる。
 (8)医療保険制度の危機は、低成長経済への移行に伴う財源難と裏腹の関係に立ち、細川内閣時代の消費税の「国民福祉税構想」の破綻に見られる、福祉財源措置の合意形成難は、民間介護保険制度の未発達と相まって、公的介護保険制度導入への政策選択を迫られている。公的介護保険制度は、平成12(西暦2000年)年度から実施の運びとなった。



U.在宅介護に追い風

 在宅介護支援システムの構築には、実に幅広い角度からの検討が不可欠である。そこでまず、在宅介護の「後方支援システム」とでも言うべき、介護休業制度について検討した。
 1995年6月に介護休業法が成立し、99(平成11)年度から実施の運びとなっている。一般に「介護休暇」と言われている同制度に対して、企業はどのように対応すべきか。
 高齢化が一段と進み、核家族化、単身家族、家族の崩壊現象が進めば、当然、企業経営・人事制度と介護休暇との関係は切っても切れない関係にたつ。93年の政府推計では、介護を必要とするお年寄りは、約200万人、また家族の介護のために離職する人は、年間8万人に上る。これが2025年には、それぞれ約520万人、22万人弱に達するといわれている。
 今後も女性の社会参加・進出が進むものと考えれば、これまでのように「嫁が親の面倒を見る」といった、旧態依然とした伝統的価値観、美徳では対応困難と言える。反面、誰しも老後はたとえ病気や障害であっても、長年住み慣れた自宅で過ごしたいことは自明の理。
 それを可能にする、公的介護支援システムが未発達な現状では、家族をいったん職場から離脱させ、一定期間家族介護に当たらせる制度が必要なことは言うまでもない。もちろん高齢者の介護には、介護休業という企業側の対応だけでは不十分で、医療機関とともに、特別養護老人ホームに代表される、各種老人保健・福祉施設の整備・充実、ショートステイ、デイサービス、ホームヘルパーの増員・充実、介護保険制度の普及など、私的・公的介護体制の拡大と充実が、必要不可欠であることは言うまでもない。
 介護休業法の概略は、最低基準として、@休業期間は連続3ヶ月、A休業回数は、要介護状態にある家族1人につき1回、B休業開始日と終了予定日を明示して届け出る、などとなっている。休業期間中の代替要員の確保、所得保障や、社会保険の自己負担など問題は多いが、すでに実施されている企業や公務員の同制度の利用者には、おおむね好評のようである。
 労働省の93年の調査では、従業員500人以上の企業での実施率は51.9%、100人以上500人未満では22.5%、30人未満では14.2%、全企業平均で16.3%となっている。依然として企業規模によって、実施率に格差があるのが実態である。
 休業期間は1年がもっとも多く、介護休業を利用した人の77%が女性であった。女性の利用が多いという点については、今同制度が実施されると、「当然女性がとるものとされて、働く女性の足を引っ張る」、「男女間の賃金格差があるので、公的介護に頼ろうとしても、介護休暇があるのになぜ休まないんだ、ということになりかねない」という厳しい見方もある。 今回の制度化は、私見であるが企業側の体制整備と、とりわけ男性の意識改革がどう進むかに、ポイントがあると思われる。
 富士ロジテック(静岡市、倉庫業)では92年に、@3ヶ月の有給「休暇」、Aその後の9ヶ月の無給の「休職」という介護休暇・休職制度を設けている。同社の男性社員は、奥さんの看病(肺ガン)に同制度を利用した。「欲を言えば有給の部分が6ヶ月」、「休職中の社会保険料の自己負担分をもらえれば」と回顧するが、「ついていてやれるだけついていられたのが本当によかった」、「カネなんて問題じゃなかった」と振り返る。
 企業がこの問題に対応するには、多くのハードルがあることは確かであり、公的介護サービスの充実がなければ、有効に機能しないことも事実である。また逆に、上に批判を紹介したように、公的在宅介護充実が、企業側での介護休業制度の普及と、相互にトレードオフの関係に立つのかも知れない。
 しかしながら、地域に根ざした企業であり、また、今後も地域と共に歩もうとする企業であれば、決して避けて通れない問題でもある。業種・業態の特性に応じ、また、地域社会の実情に柔軟に対応した、企業ごとの独自の制度化が望まれるところである。
 高齢者福祉関連部局は、このような民間企業レベルでの介護休業制度の導入状況と、その運用の実態を見極めた、きめ細かなサービス提供と、指導体制の充実が求められるであろう。

(参考1)介護休業制度の概要

 平成7年6月、「育児休業法」を改正する法律が成立し、介護休業制度が法制化された。
 この法律改正により、介護休業制度とともに、育児や家族の介護を行う労働者のための支援措置(奨励金・助成金・給付金)が盛り込まれた。
 これにより事業主は、出来るだけ早く、介護休業制度を設ける努力が求められるとともに、平成11年4月1日から、介護休業制度の導入は一律に事業主の義務となる。
介護休業制度の概要は以下の通り。

◇休業制度

 労働者が、その要介護状態(負傷、疾病、または身体上もしくは精神上の障害により、〔2週間以上の期間〕にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するためにする休業

〇労働者(日々雇用及び期間雇用を除く)
労使協定で対象外に出来る労働者
・雇用された期間が1年未満の労働者
・3月以内に雇用関係が終了する労働者
・所定労働日数が2日以内の労働者
〇配偶者(事実婚を含む。以下同じ)
父母及び子〔同居し、かつ、扶養している祖父母、兄弟姉妹及び孫〕
配偶者の父母
〇連続した3月(勤務時間の短縮等の措置が講じられている場合はそれとあわせて3月)以内の期間
〇対象家族1人につき1回
(略)

休業申出をし、または休業をしたことを理由とする解雇の禁止

◇勤務時間の短縮等の措置

○常時介護を要する対象家族を介護する労働者(日々雇用を除く)に関して、連続する3月(介護休業した期間があればそれとあわせて3月)以上の期間における次の措置のいずれかの設置義務
・短時間勤務の制度
・フレックスタイム制
・始・終業時刻の繰上げ・繰下げ
・労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度
◎その他の措置○その家族を介護する労働者に関して、休業制度または勤務時間短縮等の措置に準じて、その介護を必要とする期間、回数等に配慮した必要な措置を講ずる努力義務
◎施行日
平成11年4月1日(平成7年10月1日から平成11年3月31日までは努力義務)

両立支援事業

@介護休業制度導入奨励金
法に沿った介護休業制度を導入し、初めて介護休業制度を利用した労働者が生じた事業主。
・中小企業75万円
・大企業55万円
A育児・介護休業者職場復帰プログラム実施奨励金
育児休業や介護休業をする労働者の職場適応性や職業能力の低下を防止し、回復をはかる措置を計画的に実施する事業主。
対象者1人あたり、・中小企業18万円(限度額)、・大企業13万円(限度額)
B事業所内託児施設助成金
新たに事業所内に託児施設を設置・運営する事業主、事業主団体。
施設の設置・運営に要した費用の1/2
・設置費2250万円(限度額)
・運営費年間370万円(限度額)を最長5年間
C育児・介護費用助成金
育児や家族の介護のため家政婦、ベビーシッター、ホームヘルパー等を利用する従業員に対し、要した費用を補助、負担する事業主。
補助または負担した費用に対し・中小企業4/5・大企業1/2
企業規模にかかわらず、1事業所あたり年間100万円を限度
D育児・介護等退職者再雇用促進給付金
再雇用制度により育児、介護等の理由で退職した従業員を雇用した事業主。
対象者1人あたり・中小企業40万円・大企業30万円
E介護クーポン制度
介護クーポンにより、割安な費用で手軽に介護サービスを従業員に利用させたい事業主。

(参考2)島根県における導入・利用状況と若干の検討

 以下、島根県における制度の導入・利用状況等について、若干のデータをあげ、検討を加えた。
 まず制度の導入・検討状況は「制度あり」が14.9%、「現在検討中」が13.4%、「今後検討する」が56.5%、「検討予定なし」が26.5%となっている。
 制度の導入状況は、まだ低い水準にとどまっているが、今後検討するという企業を射程に入れて考えれば、「在宅介護」に対する企業側のいわば後方支援にには、大きな期待がかかると言ってよいであろう。法律に明示された取り組みを超えた企業独自の仕組みを、地域社会の実態に即しながら、新しいシステムとして構築していく努力が求められよう。


 次にどれくらいの休業期間が得られるかについてであるが、「1−3ヶ月未満」が5.8%、「3-6ヶ月未満」が23.1%、「6ヶ月-1年未満」が51.9%、「1年」が7.7%となっている。
 必要とされる休業期間は、結局、要介護者の病状や症状次第であることを考えれば、社内の規定を一律、画一的に適用するのではなく、状況によって弾力的に適用することが求められるのではないか。
 従業員サイドから見れば、介護休業と施設への入所、ホームヘルプ、ショートステイ、デイケアなど公的サービスをうまく連携させることによって、職業を手放さずに介護を両立させることも可能であるし、女性に偏りすぎている在宅介護を、男性によって担えるようにすることも可能である。
 共働き世帯では、双方の事業所に介護休業制度があれば、それを効果的に利活用することで事態は改善されるはずである。



 対象となる要介護者の範囲は、「配偶者」が96.2%、「本人の父母」が96.2%、「子供」が94.3%、「配偶者の父母」が79.2%、「祖父母」が47.2%、「兄弟・姉妹」が34.0%となっている。
 配偶者、本人の父母、子供については、ほぼカバーされていると言えるが、家族形態や居住地、勤務地などの多様性を考えれば、配偶者の父母、祖父母、兄弟・姉妹など、親族の外延部にも制度適用の対象を拡大することが必要であろう。
 ここでもまた制度を一律・画一的に適用するのではなく、介護者とされる家族等の実情に応じた、弾力的な適用が求められるであろう。



 制度の利用状況に関しては、「利用者あり」が10.2%、「利用者なし」が89.8%となっている。この集計では、実際に該当する事由が発生したが、従業員ないしは会社の理由から制度を利用しなかったか、または退職したかなどが不明である。中高年齢層の比率が高い中小企業が多いことを考えれば、全従業員にしめる、介護休業が適用される従業員の発生率が高いと考えられる。推測になるが、制度はあるが実際には会社経営その他様々な理由から、介護休業を利用していないケースが相当あると思われる。制度の周知徹底とともに、円滑な制度利用に至る様々な条件整備が必要であろう。



 利用者の男女別構成は「女子」が63.6%、「男子」が36.4%となっている。
子育て、高齢者を含む家族介護は、女性がやるものとの現状の通念から、当然予想される集計結果ではある。しかしながら、もっと男性が介護休業制度を利用する、条件整備が求められるのではないか。
近年、男性の育児、子育てに対する認識が高まってきており、高齢者の介護に当たっても、女性との役割分担を明確にしつつ、制度利用に向けての意識啓発が必要である。



 最後に、制度利用後の職場への復職状況を男女別に見ると、男子が100%であるのに対して、女子が78.6%であることが判る。
 復職できない理由を考えると、@休業期間満了後も介護が必要である、A休業利用後に離職を言い渡された、B休業を機会に退職した、C介護に伴い健康を害した、D休業後に職場復帰への適応力を失った、E介護と両立できる仕事に切り替えた、などがあげられよう。
 利用後に復職しないことを、一概に会社側の責任とするのは不適切であるが、従業員の意志に反して復職が出来ないことのないよう、対応が求められる。会社側にとっても、このような経験豊富な従業員が多数いることは、社会全般のみならず、会社内部での従業員年齢構成の高齢化の中での、大いなる経営資源となるからである。




V.高齢者の状況

 本稿では、すでに間接的に述べてきたように、地域社会レベルでの公的介護支援システムの現状と再構築の可能性について、その基礎的考察を行うと同時に、一定の提言をおこなうことを目的としている。
 そのためにはまず、高齢者が、現状でどのような状況下に置かれているのかについて、正確な認識が必要である。そこで以下、若干のデータを分析した。

(1)2.6倍に増加する寝たきり老人

 厚生省の資料によって、ねたきり、痴呆性老人の将来推計をみてみると、まず虚弱老人は、1993年の100万人から2025年には260万人に推移する。寝たきり老人(寝たきりの痴呆を含む)は90万人から230万人、要介護痴呆性老人(寝たきり老人を除く)は10万人から40万人へと推移する。合計で、200万人から520万人へ2.6倍増加することとなる。



(2)高齢者の現状

 高齢者の現状については、次の通りである。「在宅(介助不要)」が1,417万人、「在宅(要介助)」が84万人、「有料老人ホーム」が2万人、「老人福祉施設」が27万人、「老人保健施設」が7万人、「病院・診療所」が69万人となっている。
 寝たきりとならないための、日常の健康への配慮(保健)が絶対に欠かせない条件であるが、要介護となっても、出来るだけ住み慣れた在宅で過ごせることが理想である。在宅を基本にそこから通院(入退院)し、リハビリ訓練を受け、また訪問医療、看護、入浴などのデイケアを受け、レクリエーション活動等への参加、ショートステイなどのサービスを受けられることが望ましい。
 筆者の大学では、社会奉仕活動(共生人間論実習=必修科目)として、学生に老人病院、老人保健施設、保育園などでのボランティア活動を、毎年課している。ボランティア活動に関しては、様々な議論があることは事実であるが、若い世代に対するこのような体験は、これからの高齢社会を考えるとき、いい刺激となることは間違いない。
 ある老人保健施設の事務長は、次のように語っている。
 「老人保健施設は、概ね6ヶ月をめどに機能回復訓練(リハビリ)をし、在宅に返すのが趣旨であるが、家族からすると、いったん預けてしまえば味をしめて、帰してもらわなくてもよいということになる。そのために1年も入所しているケースもある。」
 「また、重度の病気と障害を担当する特別養護老人ホームも順番待ちであり、当老人保健施設は、特別養護老人ホームの順番待ち施設の状態になっている。」
 ちなみに、松江市でもこれに近い状況があるという事である。
 これは、大都市部での家族の意識と状況を反映していると考えられるが、明らかに、在宅介護と公的介護のシステムが、有効に機能していないのである。「老人ホーム」は、未だに「姥捨て山」なのであろうか。



(3)要介護高齢者の発生率

 要介護高齢者の発生率を、「寝たきり(寝たきりの痴呆を含む)」と、「要介護の痴呆症(寝たきりを除く)」に分け、年齢区分別にみると以下の通りである。
 「寝たきり」では、65-69歳で1.5%、70-74歳で3.0%、75-79歳で5.5%、80-84歳で10.0%、85歳以上で20.5%と、85歳以上での発生率が、極めて高くなっている。「要介護の痴呆症」では、順に0%、0.5%、1.0%、1.5%、3.5%と、やはり年齢段階が高いほど発生率が高くなっている。



(4)死亡前の寝たきり期間

 死亡前の寝たきり期間は「3年前」が7.7%、「2年前」が10.3%、「1年前」が13.6%、「6ヶ月前」が17.9%、「3ヶ月前」が22.9%、「1ヶ月前」が27.6%、となっている。



(5)老後に関する国民の意識

 老後に関する国民の意識は、「不安を感じることがある」が89.3%、「特に不安を感じることはない」が9.6%となっており、全体の約9割が老後に関する何らかの不安を抱いていることがわかる。



(6)不安の内容

 不安の内容に関しては、「自分や配偶者の体が虚弱になる」が49.4%、「寝たきりや痴呆になり要介護になる」が49.2%、「老後の生活資金」が35.5%、「配偶者に先立たれた後の生活」が27.4%、「子供や孫などと別居し孤独になる」が13.0%、「世の中の動きから取り残される」が8.3%、「仕事」が8.1%、「同居の子供やその配偶者とのつきあい」が6.1%、「自由な時間の過ごし方」が5.4%、「友人・仲間とのつきあい」が4.0%となっている。 2人に1人が自分や配偶者が虚弱になったり、寝たきりあるいは痴呆になって要介護になることに、不安を抱いていることがわかる。
 本調査は、若年世代も含めたアンケート調査結果であり、老後に対する不安の解消のためにも、公的介護サービスの充実が求められているといえよう。



(7)寝たきりの高齢者の介護者

 誰が寝たきりの高齢者を介護しているかという点については、ほとんどが女性で94.0%となっている。
 ここでは、「何故男は介護しないのか」という、大きな政策論争がなされなければならない。男性が介護できるためには、上にみた、企業が長期にわたって、休業を保証するという条件が必要である。
 今、女性に圧倒的に介護の負担がかかっているので、男性が介護の重要な戦力になれば、公的介護サービスに依存しなければならない度合いは相当減るはずである。
 会社や職場から、疲れて帰宅しても、風呂へ入れる手助けをしたり、買い物ぐらいはできるとしても、細々としたことまではできないのが現実かも知れない。女性の方が神経が細やかで、行き届いた介護が出来るということも言えよう。
 しかし、これはある種の逃げであり、男性が介護に向かうことが出来る条件整備が問われているのである。おそらく意識啓発といった、生涯を通じた一貫的な啓蒙対策が必要となろう。



(8)介護者の続柄

 続柄では、「配偶者(同居)」28.3%、「子(同居)」17.8%、「子の配偶者(同居)」29.5%、「父母(同居)」6.5%、「その他の配偶者(同居)」4.4%、「親族(別居)」6.3%、「親族以外(別居)」7.2%となっている。
 長年連れ添った老夫婦が、お互いに面倒を見ることには異論はないとしても、子(仮に長男として)の嫁(現に職業を持っているとして)が看るべきかどうかについては、また重大な政策論争があり得る。
 職業を放棄せず、基本的に公的介護に依存するとして、周辺から「あの嫁は、自分の仕事がかわいさ余り、父母を粗末にする」というような烙印を押されるような事が、果たして、これからの家族のあり方として、妥当なのかどうか?。
 介護休業がもらえ、一定期間対処できるとしても、介護休業期間満了の時に泣く々、勤め先を辞めるといったことが妥当なのかどうか?。
 筆者は、ある女子短大の非常勤講師をしているが、「自分の両親を看るのは当然としても、嫁ぎ先の両親の面倒を看るのは、まっぴらごめんだ」という意見が多いことをどう考えるか?。「両親が要介護状態に陥っているのに、施設に安易に預けるとか、自分ができるのにホームヘルパーさんに来て貰うというは、道徳の退廃である」という主張も成り立つ。哲学・人生論論争は神学論争となる。



(9)介護者の年齢構成

 介護者の年齢は、39歳以下が5.8%、40〜49歳が16.1%、50〜59歳が27.3%、60〜69歳が27.9%、70歳以上が22.9%となっており、「老々介護」が数字にも明確に出ている。 入退院を繰り返している老人世帯で、体の悪い主人の「杖」になっている奥さんを見ると、当然介護されて然るべき人が、介護の杖になっており、共倒れ寸前の状態にある。
 しかし、杖になる奥さんがいる人はまだ幸せな方で、子供が元気で近所にいるのに、ほとんど寝かされた状態になっているケースもある。個人的な経験では、訪問した老人が、汚いあばらやみたいな離れに布団にうずくまって寝ていて、最初、死んでいるのではないかと思い、近づいてみると、目の玉が動いていたので安心したこともある。
 今、在宅介護支援センターが、地域に埋もれている在宅介護サービスに対するニーズと、サービス提供側を結び付ける接着剤(ケアマネジメント)として機能しつつある。地域によっては、支援センターの乗用車が、地域内にはいることすら受け入れられないという状況があるが、粘りづよく訪問し対話を重ねるに従って、民生委員等からの口コミもあり、ニーズを掘り起こせるようになったという話を聞く。
 島根県の場合、地域に介護サービスへの違和感があるのは、ホームヘルプ事業が、生活保護世帯の家事支援事業として発足した経緯にあるのではないかという指摘もある。在宅介護支援センターの、今後の機能充実に期待がかかるところである。



(10)在宅介護の問題点

 在宅介護の問題点は、「食事や排泄、入浴などの世話の負担」が57.5%、「家を留守に出来ない」が36.2%、「ストレスや精神的負担」が32.0%、「十分な睡眠がとれない」が25.2%、「介護に要する経済的負担」が23.6%、「仕事に出られない」が19.5%、「適切な介護の仕方がわからない」が17.1%などとなっている。
 では公的な介護サービスに依存すればよいではないか。介護を義務と感じ、要介護者への慈しみの気持ちが、必ずしも、公的サービスの利用に繋がらないことをどのように考えるのか?
 公的介護サービスと、介護家庭との接点には、まだまだ解決しなければならない多くの問題があるように思える。



(11)要介護者への「憎しみ」と「虐待」

 場合によっては、要介護者を憎しみ、虐待へとつながって行く可能性がある。この様な事をどう考えていくのか。要介護者への憎しみにつては、「いつも感じている」が1.9%、「時々感じている」が32.7%、「あまり感じない」が36.5%、「全く感じていない」が25.6%となっている。
 要介護者へ、愛情や慈しみを感じない者はいないだろう。では、なぜこのような人間として最も大事な感情が、「憎しみの感情」に転化するのだろうか。おそらく、愛情とストレスと義務感と逃げ場のない焦燥感が、そうさせるのであろう。人間は自己矛盾という精神的葛藤に陥るとき、時として、その原因となる対象(人)を憎む衝動に駆られる。理性を持ってしても、この悪循環から逃れられないのだ。いや、理性的な人間ほど、この悪循環の中でもがき苦しむのだ。愛情の欠如が「憎しみ」や「虐待」となると、一概に決めつけることは出来ない。



 この苦しみ、精神的葛藤からの逃げ場は、往々にして「虐待」に繋がる。その結果、「食事中に痴呆症の親を箸でつつく」とか、「寝たきりの妻を、おまえさえいなければと、包丁を振りかざす」といった、信じられない行動が生まれる。
 こうした事態は、もはや家族や家庭という範囲では解決し得ないし、プロの公的介護者がクッション役とならなければならないことを示している。
 要介護者への虐待が「よくある」が2.0%、「時々ある」が14.4%、「あまりない」が33.2%、「まったくない」が47.0%となっている。
なぜそうなる前に公的サービスを選択し、少しでもこの苦痛から逃れることをしないのか。そこには様々な「理由」が存在しよう。これからの公的サービスはここをよく考えるべきである。



 作家の佐江衆一(ペンネーム)氏が、自己の経験を元に書いた「黄落(こうらく)」(新潮社)では、愛する母親が庭で転んで寝たきりになり、良くなったり悪くなったりの状態を、耐えて忍んで介護をし続けてくれる妻に心を打たれる。
 そんな中で、離婚話まで出る家庭の崩壊の危機。母は、可愛い、愛する長男と嫁に、これ以上介護させるのは酷だと判断し、自らぼけたふりをして、絶食し死を選択する。そこから、また主人公の苦悩が始まる。涙せずには読めない書物である。
 この家庭でも公的サービスを活用するが、そこにまた新たな苦悩の原因が付け加えられる。このことを行政サービスはどのように受け取るのか。
 ただ、行政サービスの提供者が、このような「プライベート」な領域に、どこまで関わることが出来るのかについては議論があろう。垣根を設定すべきなのか、思い切って踏み込むのか、踏み込むとして、どの程度まで、あるいはどの領域にまで踏み込むのか、議論が必要である。タブー視は許されないのではないか。
 在宅介護支援センターに勤務する、常勤のあるホームヘルパーに対する面談によれば、ヘルパーの仕事を次のように述べている。
 「介護を必要としている方の身になって介護をすることが大切です。介護をしてあげるという、また、介護をしてあげれば喜んでくれるという事では、逆に、お年寄りから反感をかってしまう。要は介護をされている身になって、良く考えて介護をしてあげる。そうしないと、とんだクレームがつくし、つまり、ヘルパーが、介護をされる人から観察されているという事を、よく考えなければならない。」
 その事は、介護をされる側、あるいは、介護をされる家庭のプライバシーとは、一線を画した範囲内で、できる事を追求するのが、ヘルパーの仕事だと解する事もできるし、また、その介護する側にたって世話するという事は、よく家庭のプライベートな側面にも、気を配りながら介護をする必要性があると解するべきなのか、よく実態を踏まえたサービスのあり方が求められよう。

W.若干の補足と検討

 ここで立ち入った考察を加えるために、「島根県老人保健福祉計画」から、いくつかのデータを見てみよう。

(1)生活上の困りごと

 まず、生活上の困りごとであるが、集計結果は、「話し相手がなく孤独」が、総数2,709の内369(13.6%)、「外出したいが介護者がいない」が199(7.3%)、「身の回りの世話が家族では充分出来ない」が157(5.8%)、「困ることはない」が1,158(42.7%)などとなっている。
 車椅子であれ、介添え付きであれ、送り迎え付きであれ、たまには外出し、気のあった者どうし、また見知らぬ者同士でも、ピクニックや食事会を通じて、打ち解けて話し合うことが生き甲斐である。その点、デイケアやショートステイは、介護体制が充実している限り、お年寄りにとって生きる希望となる。
 ある地域医療機関では、自ら組織したボランティアと看護婦を中心に、年に2-3度の小旅行を企画し、外来の患者で比較的元気なお年寄りを交えた、ユニークな取り組みを行っている。このような知恵を出した取り組みが、大いにお年寄りを勇気づけるのである。私が訪問した、島根県浜田市の病院でも、年に一度の「花見」が喜ばれているという。
 しかしながら、「困ることはない」が1,158と圧倒的に多いことが気にかかるところである。「他人に迷惑をかけるのはすまない」と言った意識の現れと思われるが、このような隠れた介護ニーズをいかに掘り起こしていくかが課題であろう。
 どのような介護システムを構築するにしても、まずそのニーズの存在と性格を充分明らかにする必要があり、従来の「措置制度」の中では浮上しないニーズにもっと対応するように心がけなければならない。



(2)住居の所有関係と困りごと

 次に、住居の所有関係であるが、「自宅」が総数2,684のうちの2,414(89.9%)と、ほとんどを占めていることが判る。このことは介護に当たって、住居の改善を行う上で有利な条件である。住宅に関する困りごとを見ると、「風呂、トイレが使いにくい」が、総数1,008の内564(56.0%)で最も多く、ついで「階段などが危ない」が132(13.1%)、「古くて痛みが激しい」が122(12.1%)、「狭い」が91(9.0%)などとなっている。
 小規模な住居の改善には、公的な補助・融資制度があるところであり、地域の大工、工務店、左官などの協力によって、介護条件ははるかに向上する。
 しかしながら、業者の協力と言っても、小規模の仕事の場合は、後回しになることが多く、その点では、地域のシルバー人材センターの有効活用が考えられる。中心になる職人を中心として、技術を習得し、格安、迅速な対応は可能であり、そのような地域の支援体制も欠かせないところである。
 放置自転車を活用、修理し、途上国に送り届けているシルバー人材センターもある。シルバー人材センターは、生き甲斐を趣旨とした団体であるが、今後、高齢者の在宅介護支援システムの、有力な団体としての活動が期待されよう。また、建設業関係同業組合のボランティア活動にも期待がかかる。




(3)食生活で困ること

 食生活で困ることは、総数23,405の内「店が遠い」が3,204(13.7%)、「家族との好みが違う」が2,463(10.5%)、「同じ物を何回も食べなくてはならない」が1,334(5.7%)、「栄養や食品のことが分からない」が1,155(4.9%)、などとなっている。
 高齢者が健康を維持し、病気から回復し、生命を維持するのに欠かせない最も基本的なことが食事である。家族介護に欠けるとき、給食サービスやデイケア、ショートステイなどによって、医療上の配慮もした食事を確保することは、ある程度可能であろう。しかしながら、食事は個人の好みや、健康状態によっても異なるし、何よりも長期的な栄養バランスがあって、初めて血となり肉となるものである。
 一部でも試みられているが、地域商店街や商工会の協力、巻末に掲載した鳥取県智頭町でのいわば「買い出し支援システム」のような、地域に根ざした取り組みに、期待がかかるところである。
 例えば、次のようなことは考えられないか。今地域の既存商店街では、後継者難、消費者ニーズの多様化、駐車場不足、郊外型大型店との競合など、様々な環境変化により、商店「街」そのものの存続に関わる苦境に立たされている。
 そのために、様々な振興策が講じられているところであるが、例えば、空き店舗を地域高齢者世帯の求める様々な商品・サービスの提供(集配)センターとして活用することが考えられる。商品・サービスの発注は電話、FAX、注文票の回収など、様々な方法が考えられる。高齢者世帯の求める日常的な商品・サービスは、地域商店街でほぼカバーできるし、場合によっては、家政婦紹介所や社会福祉協議会と連携をとることによって、ヘルパーの派遣も可能となるであろう。短大・大学がある地域の場合、常時、学生アルバイトによる人手の確保が可能であるし、若年世代の高齢者福祉への認識にも繋がろう。女子学生アルバイトは、食材配達のついでに簡単な食事を提供することもできる。授業終了後、あるいは開始前3〜4時間のアルバイトで、学費(遊ぶお金?)を稼ぐことが出来るし、お年寄りの話し相手にもなろう。お年寄りは、自分の孫のようなかわいい子供たちがくるのを、首を長くして待つに違いない。
 地域医療・保健・福祉機関と協力しつつ、民間の在宅介護事業が、新たに創設できるかも知れない。商店街のイベントとして、四季折々の花見旅行やピクニックを企画してもよい。集配業務に必要な車両等、人件費に関しては自治体の既存の補助制度を活用するか、新たに単独事業として創設することも可能である。地域商店街は、大型店に客を取られることを嘆く前に、なぜ地域に打ってでないのか。



(4) 介護への意識啓発

 静岡県小笠町のある社会福祉法人では、地域住民や自治体関係職員を、施設介護に参加・体験させ大きな成果を上げている。一般住民の介護への意識啓発を言う前にまず、自治体職員自ら介護への理解と認識を深め、地域での取り組みを盛り上げるべきである。

(5) ヘルパーの労働条件の改善を

 また同法人では、創始者の旧和風木造邸宅を、ショートステイホーム(昼間は自宅で過ごし食事や入浴をかねて泊まりにくる。)として活用し、地域の比較的元気なお年寄りの憩いの場として喜ばれている。
 飛躍した考えになるが、空き家になる住宅を適正評価により自治体が買い取るか、または相続税分を相続人に補助した上で賃貸契約を結び、デイケア、ショートステイ、グループホームの拠点として整備することも考えられる。 政府の計画では、将来的には、1中学校区に1つの在宅介護支援センターを置くとされているが、最小限度の人員と設備で、きめ細かい在宅介護支援の拠点を、容易に順次整備することが可能である。
 ヘルパーに関しては、自治体の常勤ヘルパーと、社会福祉協議会の非常勤ヘルパー、有償ボランティアのヘルパー、それに家政婦紹介所のヘルパーとの間に、大きな賃金格差を含めた、労働条件の格差があるのが実態である。常勤ヘルパーに関しても、従来の滞在型(泊まり込みを含む)から、小刻みな巡回型(1日6〜7件の巡回)に変わりつつあり、介護労働条件は厳しいものになっている。
 24時間の介護体制(24時間いつでも介護に応じる体制の意味で、かつての滞在型介護を意味しない)を、モデル事業として普及する試みも進んでいるが、深夜に非常勤ヘルパーを当てる傾向にあるとの報告もあり、過酷な条件の中で介護を担っているヘルパーの条件改善がなければ、望むところの在宅介護は成り立たない。この点を行政はどのように考えるのか。
 研修を実施し、せっかく資格を取っても、就労に結びつかないのもやむ終えないのではないか。人一人が十分食べていけるだけの労働条件と賃金を、まず保証すべきである。そこから、在宅介護の充実が始まる。文字通り生活のかかった介護労働から、初めてきめの細かい在宅介護が出来ると考えるがどうであろうか。 本稿は、地域の現場で高齢者の介護に当たっているヘルパーの方々に読んでもらいたいと思っている。また、今後地域の実情と改善点を、ともに議論したいとも思っている。もしこのつたない文章が目に触れたならば、静岡地方自治研究センター経由で、忌憚のないご意見と批判をを賜りたい。


行政の課題

 以上、いくつかのデータを追いながら、在宅介護の現状やシステム化の可能性について言及してきた。はじめにも述べたように、既存分野である保健・医療・福祉の連携強化ということが、今始まったばかりであり、本稿で主題とした在宅介護支援の総合的なシステム化については、暗中模索の状況にあると言ってよい。
 以上不十分ではあるが、いくつかの点について問題提起を行った。最後に、今後行政や地域レベルで検討し、議論を深め実施に移すべき課題について、箇条書きでまとめた。

@ 介護休業制度の普及・促進と在宅介護の連携について
Aホームヘルパーの確保対策及び育成策と在宅ケアについて
Bボランティアの確保・育成策と在宅ケアについて
C義務教育・高等教育における介護教育の啓蒙対策と在宅ケアについて
Dシルバー産業(民間において介護用品やサービスを提供する事業者)の育成策及び在宅ケアとの連携のあり方について
E公的介護保険の制度化に必要な地域の側での具体的方策について
F地域振興(過疎対策)から見た在宅介護のあり方について
G在宅介護を円滑に推進するための財源確保対策について


おわりに

 在宅介護支援のための企業の役割
(1)企業内で高齢者を積極的に登用し、その知専を活かす(特に女性)
(2)介護休業制度を地域と従業員の実況に即して充実する
(3)介護機器の改良・開発に本腰で取り組む
 @ユーザーの立場に立つ
 Aハイテク
 B安全性
 Cレンタル
 D福祉サービス(現場との連携)
(4)日常生活物資の宅配システム(既存の商店街)
(5)緊急通報システムの改善
(6)行政と一体になったバリアフリーな街づくり
(7)バリアフリーな住宅づくり
(8)要介護者・介護者のメンタル・ケア


<参考資料>智頭町の在宅介護支援システム

社 説
全国に広がる智頭町の試み

 鳥取県智頭町が町内の独居老人を対象に実施しているひまわりシステム≠ェ、来年度から全国的に採用される見通しになった。同町の試みに郵政省が着目、来年度実施に向け作業を進めている。
 このシステムは、交通手段を持たない独居老人の足代わりに、郵便局員が毎日訪問、安否を確認し、必要な日用雑貨や医薬品、相談事項などを記入した福祉はがきを回収、役場へ届ける。役場で注文に応じて農協や病院に発注、農協の配送と郵便局の配達で注文の品を、老人宅へ届ける仕組みである。
 独居老人をひまわり≠フ花に見立てて名付けたシステムで、役場、郵便局、農協、病院、警察の各公的機関が独居老人・ひまわりを中心にネットワークを組んで老人を見守る。そのなかで郵便局員が老人の足代わりと、御用聞きを兼ねて訪問、日常生活の不便解消や安否の確認、生活用品購入の手伝いなどに当たっている。
 智頭町では昨年4月、モデル地区を選んで試験的に実施、予想以上の成果を挙げ、本年度から全町でサービスを開始した。反響は大きかった。毎日訪問して声を掛けることでお年寄りが元気で明るくなり、注文はなくても訪問を待つようになった。
 独り暮らしのお年寄りにとって話し相手のいないのがなによりつらい。そんなお年寄りの家に立ち寄って声掛け≠するだけで孤独から解放される。畑にいても郵便の集配時間になると自宅へ帰って待つようになった。
 お年寄りに喜ばれただけではない。サービスを提供する方にも変化が生じた。集配業務を担当する職員に新しい使命感が生まれ、自分たちでつくったシステムに対する愛着と自負心がはぐくまれた。
 役場と郵便局の間の連携が強化され、町づくりに対する職員の関心も高まった。地域の人たちが独り暮らしのお年寄りに関心を持って接するようになった。サービスを提供する側と、受ける側の双方に連帯の絆(きずな)が芽生えた。郵政省がこのシステムに着目しても不思議ではない。
 むしろ、これまでこのようなサービスが提供されないできたことの方が不思議に思える。役場、郵便局、農協は全国のどの町村にもある。警察や病院、医院も近くにある。これらの公的機関が個別に存在するだけでは智頭町のようなシステムは生まれない。
智頭町に役場職員と郵便局職員の計9人で構成する「まちづくりプロジェクトチーム」が誕生したのは平成6年8月。地域を活性化するには、まず役場の活性化と職員の意識改革から、という考えのもとにスターとした。
 プロジェクトは3つの目標を掲げた。「役場機能に郵政システムを生かす」「福祉増進に役立つシステムを構築する」「まちづくりに対する職員の意識啓発の場とする」の3つであり、協議を重ねるなかで智頭町ひまわりシステム≠ェ誕生した。
 ここで見逃せないのが「智頭町活性化プロジェクト集団」(略称CCPT)の存在と活動実績である。発足は昭和63年4月。きっかけはその3年前に開催された「わかとり国体」。智頭町は空手道の会場となり、町内が歓迎で盛り上がった。
 この盛り上がりを地域の活性化へと活動を開始したのが前橋登志行氏(製材業)と寺谷篤氏(那岐郵便局長)の2人を核とした活性化集団である。京大教授・岡田憲夫氏が加わり「科学と地域との出合い」(寺谷氏)のなかで数多くの活動実績を挙げ、全国的にも注目されるまでになった。ひまわりシステムの誕生は同集団の活動の広がりを示すと同時に、公的サービスの在り方をも示唆している。
(1996年(平成8年)10月28日(月曜日) 山陰 中央新報)

(参考文献)
本稿では、本文中とくに明記しなかったが、いくつかの文献を参考にした。以下それらを掲載した。

○「島根県高齢者保健福祉計画」島根県
○「ふじのくに高齢者プラン21」(静岡県高齢者保健福祉計画)静岡県
○厚生省大臣官房政策課監修「21世紀福祉ビジョンー少子・高齢社会に向けてー」第一法規、平成6年
○岡本祐三監修「公的介護保険のすべて」朝日カルチャーセンター、1995年
○光信隆夫他「家族は進化するか」法律文化社、1995年
○白澤政和編「在宅介護支援センターに学ぶケースマネージメント事例集」中央法規出版、1993年
○シルバー新報編「’95年版在宅介護支援センターハンドブック」環境新聞社、平成7年
○「介護・福祉を取り込む医業経営」医療タイムス社、1995年
○バルブロー・ベック・フリス「スウエーデンのグループホーム物語」ふたば書房、1993年
○柴田英昭「公的介護保険を考える」かもがわ出版、1995年
○東京都社会福祉協議会「公的介護保険の可能性」1995年
○宮坂圭一「在宅介護奮闘記」保健同人社、平成7年
○村上陽一郎「生と死へのまなざし」青土社、1993年
○高橋道子「老人介護三百六十五日」麦秋社、1996年
○青木みか「寝たきり老人の周辺」あけび書房、1993年
○川村佐和子編「在宅介護福祉論」誠信書房、1994年


高齢者問題も視野に入れた買い物代行サービス(参考)
 全国展開も進み、今年度中には全県をカバー
●ジェー・シー・ピー

 印刷会社が本業の同社が、92年から副業として始めたニューサービスが受けに受けている。日用品から生鮮野菜まで何でも買ってきてくれるという買い物代行サービスだ。
 1回の手数料は一律500円。注文は取り引きしている各問屋に夕方まとめて発注し、翌日商品が到着すると、それを指定の時間に配送する。利用者は現在、東京23区だけで約3000人。宮城、大阪、九州などでのFC展開もスタートし、今年度中には全県をカバーする予定だ。
 「私には大きな目標が2つあった」と山内直之社長は言う。ひとつは日本の流通の仕組みを変えること、もうひとつは高齢者問題の解決である。大型店の進出で、近所の小さな店舗はどんどんつぶれていく。買い物へ行く距離は長くなり、高齢者の負担はます一方だ。
 「国が雇ったヘルパーがお年寄りに代わって買い物しているが、お年寄りは一方的に世話になるのを嫌がる。自分の力で何とか生活を維持していきたい。500円で買い物に行ってくれるところがあれば、利用しようと思うのは当然のことですよ」
 また流通システムの改革については、近々、生鮮食料品専門の代行サービスもスタートする。これは魚介類などを顧客から注文があった分だけ直接市場から仕入れ、スーパーなどよりも1割ほど安く届けようというもの。いわば、市場と消費者を結びつけようという試みだ。そうして徐々に流通の仕組みを変え、「最終的にはメーカーと消費者を直結させたい」と山内氏は言うのである。

●会社概要 設立/1984年5月  資本金/1000万円  代表者/代表取締役社長・山内直之
(アントレ1997 7月号)

      
社会生命科学へ戻る