第6節 緩やかな景気回復期の消費トレンド 1.炎暑と減税でで本格的な消費回復か 猛烈な暑さの平成6年夏。香川県では、7月初旬からのカラカラ照りで、一般家庭での給水制限はも とより、工場での給水制限や生産中止、または他の生産拠点への一時的な生産移管など対応に必死だ。 岡山県では、また猛烈な暑さのために、牛数10頭と鶏数百羽が死に、多額の被害が出ている。 大型台風第七号の本土接近で、21日にから3日にかけて、かなり広い範囲にわたって、猛烈な風と 引き換えに、何とか恵みの雨を降らす模様だが、長雨・冷夏の昨年とは打って変わった今年の夏だ。 ところで、この暑さで、エアコンが飛ぶように売れている。一般家電量販店では、注文を裁ききれ ず、予約待ちの状態だとか。余談になるが、パソコンなどOA関係機器と併設のある量販店では、従業 員がOA関係の客など構っていられず、当分の間OA関係のお客はお断りというところもある。 ひと頃、バブル景気の崩壊による深刻な消費低迷現象の中で、「清貧の思想」なる本がベストセラ ーとなり、経営関係者は苦い思いをしたようだが、人間、理想はともかく暑さ寒さ、空腹や渇きには 所詮絶えられぬもの。いわば背に腹は代えられぬから、いずれ忍耐袋の緒が切れて、やがて消費は復 活するとみた、景気循環説のエコノミストの勝利を宣言しても良いだろう。 何やら良く分からないうちに、自社連合による政権が誕生し、引続き所得減税をやるようなので、 円高によるブレーキはあるものの、どうやらなだらかな景気回復が実現するのはまちがいないようで ある。 2.豊かさの実感 ところで、安定軌道に乗り始めた経済をリードする消費構造は、今後どの様な方向へ向かうのか。 それは一言で言って、「全体主義から個人主義に根ざす消費構造」へ急旋回するだろうとの結論であ る。各個人がそれぞれの生活信条や思想、理念や理想に基づき、様々な尺度を持って、いわば身の丈 に応じて、内なる「豊かさの実感」を目指してみせる消費構造である。 「清貧」を重んじればそれなりに、「贅沢」を重んじればまたそれなりに、「一点豪華主義」を重 んじればまたそれなりに、「環境第一」と考えればそれなりに、といった具合いに、統一的な尺度で は図れない、消費構造の多元主義が出現する。これは、ある程度の時間差はあるものの、世界的な潮 流である。この潮流とわが社をつなぐ無限の連鎖を良く観察しなければならない。 これまでの経営環境を総点検し、新しい時代に対応した経営スタンスを取れる経営者こそ、21世紀 に存続する経営体のオーナーである。 新聞に公表されたので会社名を出すが、スズキ自動車工業の鈴木修社長は以下のように車づくりの 考え方を語った。 「西洋に習ってキラキラした車をつくってきたが、車は何も宝石ではないから質素中心に走れば良 い。後はオプションで対応すれば良い。ナビゲーションというが、地図という便利なものがあるでは ないか。暑ければ手で窓を開けて自然の風を取り入れれば良い。そのために人間には手というものが ある。音楽を聞きたければ、カセットを持ち込めばいいではないか。」(新聞の切抜きを取っておか なかったので、不正確ならばお許し願いたい。) 実際にそうなるかどうかは別として、実に妙を得て人間の本質をつかんだ車づくりの哲学と言えよ う。 この様に人間の価値観が多様化し、かつ細分化して来ると、ますます将来の消費者ニーズの動向が 見えにくくなるとともに、経営戦略が立てにくくなる。 3.消費者ニーズの「多欲化」 しかし、対応はライフスタイルの微妙な変化を読み、有効な対策を構じることによって可能である。 ここで、次の表を見てもらいたい。これは、博報堂の研究所が、バブル崩壊不況の後に上昇して来る とみる生活欲求である。<下降7欲><上昇18欲> 食品業界だけでも、年間数百という新製品が現れ、その中で売れる商品、つまり歩どまりは、新人 タレント並の数%に過ぎないと言われる。やや理論的に過ぎるが、新製品300として、上の18欲と掛 け合わせると、5,400のチェックポイントをクリアした商品がユーザーに受け入れられることになる。 問題はこの様な冷静な分析力と勘であり、分析結果を経営戦略に取り入れて実行し得るチエである。
物欲(物を増やしたい欲望)
差欲(人に差を付ける欲望)
贅欲(贅沢品を求める欲望)
金欲(金銭で判断する欲望)
新欲(新製品を求める欲望)
情欲(情報を集めたい欲望)
細欲(細部にこだわる欲望)
省欲(省いて楽をする欲望)
価欲(価格妥当性への欲望)
住欲(住まい充実への欲望)
交欲(社交や交際への欲望)
外欲(戸外・自然への欲望
暇欲(余暇生活重視の欲望)
遊欲(遊びを極めたい欲望
時欲(時ゆとり重視の欲望)
幸欲(幸せになりたい欲望)
心欲(心を満たしたい欲望)
夢欲(夢・希望探求の欲望)
安欲(安心していたい欲望)
独欲(一人になりたい欲望)
公欲(公共性・社会性欲望)
健欲(健康でありたい欲望)
奔欲(奔放・自由への欲望)
超欲(超現実を求める欲望)
錬欲(自己鍛錬をする欲望)
