第7節 国際化と空洞化 〜製造業の新しい時代への指針〜 1.製造業従業員が40万人も減った! サービス業の従業員数が初めて製造業を越え、いよいよ日本の産業構造も、サービス業優位の時代 に入った。先進国では、アメリカがすでに82年にサービス業の従業員数が製造業を抜き、92年の実績 でサービス業が製造業を2,000万人以上も上回っている。ドイツを除くイギリス、フランス、イタリア、 カナダなどの先進国も、すでにサービス業が製造業を越えている。 日本のサービス経済化は、GNPの大きさと比べれば、これら先進国に遅れており、しかしながらよ うやく先進国並の産業構造に接近したと言える。 このような製造業従業員の大幅な減少は言うまでもなく、円高の加速や長期不況を反映した、自動 車、機械、金属工業などでの、海外生産、リストラクチャリングの結果だ。総務庁の調査(94年1〜7 月実績)によれば、同3業種での、昨年から今年にかけての減少は32万人、繊維も12万人減少した。 では労働力はどこへシフトしたのか。これまた言うまでもなく、それはレジャーであり、教育であ り、医療などのサービス業であり、同業種では93年に前年より35万人増えて1,515万人となり、94年 には、教育、医療関係専門サービス業だけで10万人も増えた。サービス産業の中でも、価格(流通) 革命を反映して、流通の中間段階にある卸売りが前年比17万人減少し、逆にディスカウント店などの 小売業が18万人伸びて、順調に雇用吸収力を増大させた。 数字は恐ろしいまでに正直に事態の進展を示している。誰も彼もが一人残らずこの大きな潮流の中 にあり、いかに対処したらよいか、避けて通る事は出来ない。 2.「超部品産業」を目指せ! パーツ(部品)。我々人間の体が、肝臓、心臓などの臓器から、肺、筋肉、血管、脳、個々の細胞 に至るまで、様々な機能を持った「部品」から成り立っているように、社会・経済組織も、様々な部 品からなる完成品と、流通・販売組織、教育、医療体制、政治文化組織、行政システムなどから構成 されている。 このように有機体としてのシステムは「部品」の存在なくしては機能せず、全体シス テムなくして「部品」も存在しない。部品がいかに優秀であるかが、全体システムの優秀さを決定づ ける事は、マラソンランナーの心肺・内臓機能が、超人的である事からもわかる。42.195キロを完走 し、トップランナーとなるためには、まずこの心肺・内臓機能を徹底して強化しなければならない。 自転車部品のシマノ。大阪、堺市に本社をおき、変速機(ギア)やブレーキなどでは圧倒的なシェ アを誇る、「超部品産業」だ。今はやりのマウンテンバイクは、このパーツメーカーが完成車メーカ ーに商品コンセプトを持ち込んだ事から商品化された。 悪路の衝撃に強いギアを登載したバイクでないと消費者が納得しない事から、シマノの新部品開発 の後でなければ、完成車メーカーといえども、新商品開発に手が出せない。不況下の製造業の売上高 経常利益率が平均3%程度なのに対し、シマノは9.8%と驚異的なのはそこに秘密がある。(「日本経 済新聞」94年1月28日)他に代替できない 「部品」である事が全体有機体の構造変化の中にあって、生き残る道である事を証明している。 3.今「共生」「環境」「人間」のパラダイムへ 静岡県内企業にあっては、平成5年末、197社が535カ所の海外(生産)拠点を設けており、この1年 間に新たに海外への展開を図った企業は9社29事業所と、ここ数年横ばいの状況だが、中国等アジア地 域への企業進出は着実に増加しており、今後の県内企業の海外進出動向に注目が集まるところである。 (静岡県商工労働部「平成6年度静岡県内企業海外進出状況調査報告書」) そこで今あえて企業経営者に問う。「何のための海外進出なのか」と。いかなる形態であれ、国内 の経営の閉息状況を、海外で打開する事以上の明確な国際化戦略を持つ事なしには、あの第2次世界対 戦で日本が犯したあの過ちを、軍事力なしの「経済戦争」で、今また繰り返すおそれを、いま一度よ くかみしめる事が必要だ。「南京大虐殺事件はでっち上げ、日本は太平洋戦争において、そもそも侵 略戦争を意図したものではなかった。」何人の政治家が、これで国際的な非難を浴び、政界から消え て行った事か。 最近では、「日本はいつまで戦争責任にこだわり続けるのか」という同情も出ているようだが、 「過去の戦争責任」という見えざる恐怖におびえながらの海外展開、そのサクセスストーリーと、華 麗なる撤退。ここに経済面での国際化の全てが集約される。 東南アジアに限定して言えば、そこはいまだ、一部の地域を除けば「貧しい社会」から基本的には 離陸しておらず、貧困、売春、貧富の格差、環境汚染、暴力など、いずれは根絶しなければならない 多くの課題をかかえている。「円高、不況、労働力不足で海外進出やむなし」という日本人の理屈で、 いつまでも押し通せるものではない。 経済の国境がほとんどないに等しい時代になった今、企業が生き残る道はただ一つ。それは、経済 のパラダイムを捨てた、新しい「環境」「共生」「人間主義」のパラダイムの実践と、そのための経 営理念の構築とシステムづくりである。進出地域との「共生」、「地球環境」との両立、日本的経営」 に変わる新しい「人間主義」の地域との共有である。 このような明確な理念と実践に裏付けられた国際展開によって、初めて日本企業は国際社会の一員 として、過去の責任から免責され、アジアの否世界のリーダーとなる事が可能となろう。 今後も本県企業の国際展開は、冒頭にみた産業構造の急展開の中にあって、急速に進む事となる。 過去と現在の状況を振り返り、新しい時代の国際化社会の在り方を考える英知に期待したい。
