第8節 究極の経営活性化・個性創造を考える〜
1.組織活性化の究極の条件は人材の個性
「個性」が組織活性化の最も重要な条件である事は誰も疑わない。しかし、この個性が遺伝による先天的なものだけでなく、成長過程での様々な「環境」によって、後天的に育まれる事については、経験則によって知る以外は、まだそのメカニズムは、十分には解明されていない。
個性を尊重し、また個性をのばす事で、会社経営や組織の活性化を図ろうと考えている人たちは多いはずなのだが、あまりその成果を見ないのは何故だろうか。「出る杭は打たれる」のたとえの通り、同質性を重んじる日本的な社会風土に、その原因を求めるのは簡単だが、ことはそう簡単ではない。生物学のいくつかの研究成果から、この難問にチャレンジしてみたい。
2.「個性」発生に新仮説
一卵性双生児の場合、亀山努選手がプロ野球(阪神タイガース)に、亀山忍が俳優の道を選んだ様に、まったく違った個性を発揮したケースもあれば、同じく一卵性双生児の宗茂・猛兄弟が、同じマラソンの道を歩んだケースなど様々だ。
一卵性双生児が、生徒数の約20%を占める東京大学付属中・高校での経験によれば、一緒に生活する中学高校生時代に、双子同士は、相手が赤系統の服を着れば、他は決して赤系統を着ないという。
「双子には、相手と違うことを主張したいという気持ちが特に強い」からだと言う。
生物(昆虫)の世界ではどうか。同じ女王アリから生まれ、ほとんど同じ遺伝子を持つはずのアリの群れの中で、一生懸命仕事をする働きアリは30%程度、残りのアリは余り働かないという。この3割のアリだけを集めて、強力な「仕事人軍団」をつくろうとしても、結局は3割が働き、七割がさぼる。実に不思議だ。
「まったく同じ存在でも、互いに相互作用すると個性が発生する」という、新しい仮説を提唱しているのが、大阪大学工学部応用生物工学科の四方(よも)助手だ。その実験結果と、「仮説」の中身はこうだ。
人間やほ乳類の結腸に住み着く大腸菌を、液体培地の中で揺すって分裂させ、数を増やす。大腸菌は増殖しても個々の菌が持つ遺伝子は変わらないし、培地が同じなので全く同じ環境の中にいると言える。ところが、数日後に観察すると、培地の中から酵素の活性が異なる、いくつかの大腸菌が見つかる。
キンナラーゼという酵素の能力に2倍、3倍という大差がついたのだ。普通の個体の寒天培地で実験すると、こうした現象はみられず、液体培地を揺すって、大腸菌が相互作用できるようにしたのが実験のポイント。酵素活性が異なる大腸菌の遺伝子を調べると、遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)の配列にも全く差はなかった。
この事は重大で、「遺伝子が同じ細胞を同じ条件で培養した場合、形態や性質は完全に同じになる」という実験生物学の大前提が崩れる事になる。
「確認の実験を死ぬほど繰り返した」が結果は同じなので、それでは、何故大腸菌が個性を持つようになったかが問題となる。
同助手がたてる仮説は次の通り。
1つの大腸菌が分裂するとき、大きさが完全に同じで、酵素の数も全く同じ2つの細胞に分かれる事はない。どこかに極めて微妙な差が生じる。これに伴い細胞内の物質濃度も少し変わる。細胞内の工場で生産されたばかりの「ひも」状の酵素は、それが自動的に折り畳まって一人前の酵素になる。細胞の中の微妙な環境の差が、酵素の折り畳みに影響し、最終的に酵素活性の変化につながる。一端発生した差は拡大する。大腸菌は体内で造った物質を対外に染み出させ、隣の菌と物質交換する。そのうち、菌同士でも得意分野が固定し、分業体制が自然に成立する。
双子やアリ、大腸菌に共通しているのは、どんなに似たもの同士を集めても、いや集めれば集めるほど、個人(個体)は自ら他と異なる個性を持つという事だ。(1)
このように個性創造が、生物生き残りの「鉄則」であるならば、個性創造のメカニズムをできるだけ撹乱しない事が、個性創造の重要な条件となるはずである。あなたの会社、または組織の中でこのような撹乱要因がどこのあるかを発見し、これを取り除く事が、周り回って活性化につながるのではないだろうか。
3.マウスと生活環境
われわれ人間を含んで、生物は常に環境に順応・進化し、種の維持を図ってきた。もしも人間の社会環境に、個性発揮に悪影響を及ぼす環境が存在するとしたら、それは、生物学的に見て、改善されねばならないと考えられる。しかしながら、人間の個性形成・創造と環境のメカニズムに関する総合的解明は、いまだなされていない。ここで、個性と意識をほぼ同一のものと考えれば、それは「意識とは何か」に関して、総合科学的に解明されるのを待つしかない。
しかし、そうは言っておられないので、今度はマウスに登場していただく。
| 木 | 鉄 | コンクリート |
| 生存率 | 85.1% | 41.0 | 6.9 |
| 開眼日 | 15.6日 | 18.1日 | 17.9日 |
| 子宮の平均重量 | 31.66 r | 14.36r | 11.53r |
| ステレオタイプの行動(*) | 80回 | 230回 | 290回 |
(*)尻尾を噛みきる等無意味な行動
静岡大学農学部家畜飼育科 水野教授のグループによる実験結果。木(ひのき)、鉄(亜鉛鉄板)、コンクリートという材質の異なる3種類の箱(住宅)中で、マウスの雄と雌を飼育し、生まれた子供の23日間の観察結果をまとめた。屋外の自然条件での実験であり、上の表がその結果である。
明らかに木の箱の居住条件が優れ、雌のマウスの子宮の平均重量は、コンクリート製の箱が、木製の箱の3分の1である。これでは種の維持すらおぼつかない。そのほかにも次のような特徴がみられた。
*鉄やコンクリートの箱の中に住んでいる母親マウスは、子マウスを育てようとしないし、弱った子マウスを食い殺してしまう。
*木の箱で育った子マウスは比較的おとなしく、おとなしく体重測定させてくれるが、鉄やコンクリートで育ったマウスは、暴れて言うことを聞かない。
*子マウスの脳をX線写真撮影すると、ストレスの溜り具合いが脳の中に黒く映し出され、大きさは倍と半分ぐらいであった。(2)
4.個性創造のための最適条件を考案せよ
この実験結果を、そのまま人間に当てはめる事は出来ない。まして、上の実験はマウスの物理的居住環境である。しかし、次の事は確実に言えよう。
もしも、生物が本来的に個性的であろうとするメカニズムを体内に内包しているとすれば、これを自由に発揮し得る環境を整備する事が、「自然の摂理」にかなっているという事だ。しかし逆にまた、生物は外的環境に順応し易く、それを内包化し、種を維持する事も事実。
年功序列、終身雇用、横並び主義といった、制度環境がなかなか崩れないのも、このような生体の「知恵」なのかも知れない。
しかし、この事は、明らかに個性を育み、活力ある経営や社会の創造とは二律背反の関係にある。
なぜ個性創造が阻害されているのか、その原因を十分に究明し、それを取り除く経営管理手法が望まれるところである。
注
(1)『日本経済新聞』1994.10.16
(2)静岡県木材協同組合連合会『生命を育む』昭和63年3月