第6節 リゾート開発と地域振興
はじめに
1987年6月にリゾート法が制定され、リゾート開発による乱開発が社会問題となってから、すでに4年が経過した。いま、いわゆるバブル経済の崩壊と共に、異常なまでの開発に対する熱は完全にさめたといえよう。1991年9月で、戦後最長の「新いざなぎ景気」を記録したが、日本経済はすでに減速局面にあり、国家予算においては、予想される税収減に対応して、一部では、法人税率の引き上げの検討もされている。
景気の先行きには、なお予断をゆるさない面もあるが、いずれにしても、かつてのリゾートブームは終焉したといってよい。しかし、今回の地域開発=リゾート開発を見ていて気が付くことは、景気後退によって、計画が決定的に失敗したり、企業が撤退したという話を、余り聞かないということである。あっても、それは数少ないケースにとどまっている。
それだけ、開発を進める企業の側も、この受け皿となっている地域=地方自治体の側も、今回は非常に慎重であったということが出来る。
本稿はこれまでのリゾート開発の経緯を踏まえた上で、過去のリゾート開発の対応に苦慮している、自治体の対応を検討しつつ、これからの対応のあり方や、「本格的な余暇時代」に対応した地域振興のあり方を考えてみた。
1.湯布院の町づくり条例
(1) 行政上の対応
ここでは、1990年に成立した、湯布院の「町づくり条例」について考察する。湯布院は、日本を代表する温泉リゾート都市であり、別府とはひと味違った、温泉観光地づくりを目指して、これまで努力が積み重ねられてきた。地域には、観光地を守るべき担い手が、今なお健在であり、リゾート開発に対する、地域住民主導の対応のあり方を考える上で、格好の素材を提供してくれるものと考えられる。 筆者は、1990年末に同町を訪れ、以上のような主旨からの調査を試みた。
同町には1990年秋の段階で、すでに3ヶ所のゴルフ場計画があり、うち2ヶ所は、地権者から町が借りており、1991年11月に契約が切れるが、町が借りて牧場に使っている土地の利用価値がなくなったため、地権者からゴルフ場にして欲しいという陳情が出ている。この件については、90年6月議会において、ゴルフ場への転換の方向で採択されたので、12社程度業者が来たと言われる。これに対しては、町の実情にあったものを考える方向で検討されているが、計画の内容に関してはすでに聴取されており、ゴルフ場を含んだ計画となっていることが判明した。
開発に対しては、都市計画法、森林法、民有林、国有林、無指定などの区分で対応することとなっている。うち、民有林については、すでに3ヶ所土地が押さえられおり、無指定のところは「まちづくり条例」で対応するとされている。
後述する、地元の「デザイン会議」が交渉に当たっている開発計画は、旅館「玉の湯」のある「湯の坪地区」のマンション建設であり、工事がすでに進行中である。住民の意識が高いのは、この湯の坪地区のみであり、開発がほとんど山の手に集中している現状からして、対応する会ができていないのが実態である。
この1年間で、地価公示価格が34.5%上昇したと言われ、道路計画がたてられないほか、中止したケースも出ている。 駅舎(JR湯布院駅)の新築工事が現在進行中であり、このプロジェクトは、大分県出身の建築家、磯崎新(あらた)氏に依頼したものであるが、計画はJRと町の合作で進んでおり、JRが駅舎、町がイベントホール、広場を受け持つ分担となっている。これが完成すれば、また1つ湯布院の顔が出来ることになる。
1977年に、駅前に9階建ての計画が出た際に、地域商業への影響、景観等への配慮から、4階に変更してもらったいきさつがあるが、これは同地域が商業地域であり、住民の反対が強かったからである。建築基準法によれば、9階までは建設可能だが、以上の理由から、計画変更を依頼したのである。
1983年に「住環境保護条例」が成立し、高さ10メートル以上の計画については、町と協議することとされた。この条例をもとにして、審議会で開発業者に対して協力要請をしてきたのである。しかし、1987年の「リゾート法」以降、開発ラッシュとなり、このいわゆる「お願い条例」では、対処しきれない状況となった。
その意味で、今回の「町づくり条例」は、従前から開発業者に対し指導してきた内容を条例化したものと言えるし、住民に抵抗感なく受容されたものである。
過去を遡れば、1973年にゴルフ場計画が出たとき、すでに「自然環境保護条例」ができており、ここに、今回の「町づくり条例」の源流があるとも言いうる。
街づくり条例においては、工事にともなうトラブル防止は、建主と施工業者と町で「協定」を締結し、これを義務づけるという趣旨となっている。リゾートマンションが建設されている湯の坪地区は、背後地の景観との調和がポイントとなるであろう。
九州横断自動車道が別府ー由布院間ですでに完成し、1995年に由布院ー鳥栖間が完成予定となっている。この新しい交通ネットワークの形成によって、また新たな開発への波が押し寄せると考えられる。
1983年に住環境条例を策定し、県に持参した際、「険もほろろ」に断わられたといういきさつがある。今回は、1990年5月はじめに条例原案作成を開始し、地元のリーダーである溝口薫平氏、中谷(なかや)健太郎氏が県に働きかけ、県もあわせて全庁レベルで原案を検討したが、あまり積極的ではなかったと言われる。企画総室は前向きであったが、既存の条例があるのだから、それで対処すればよいという考えが根強く、知事は「みんなで考えてくれ」と音頭は取るが、なかなか進まなかったのが実情であった。
建設省に条例原案の問題点を3つ指摘され、そのうち重要な点は、第1に、開発に当たっては、地元住民の「同意」を必要とするという原案に対して、「同意はいらない」という「通達」が存在していたことである。そこで開発に当たっては、住民の「理解」が必要という穏やかな表現になった。「同意」という文言では、開発の抑制になるというのが建設省の考えであり、リゾート開発を推進する上から、「同意」という表現は不適切であると考えられたからだと推測される。
第2に、建ぺい率に関して、原案では厳しすぎ、法律違反になる可能性があるというものであった。
当時、20の市町村が条例化の考えをもっていたといわれ、口頭ではあるが、建設省には伝わっていた。湯布院町のみが原案を準備しており、従って、建設省は同町の原案に対し、理解はしていたようである。
今後の対応は、次のような内容である。補助金の給付を受け、1991年までかけて、「地区計画の基本計画」の調査が行われている。従って、今回の条例の見直しもあり得るわけで、今回の対応は、急速なリゾート開発に対する一応の「歯止」にすぎないことが分かる。また、環境アセスメントについては、地下水まで実施することは困難を伴うので、植生を中心に行う考えがあるとされている。
このように、開発に歯止めをかけつつ、一方では、開発協力金の負担を義務づけ、必要となる公共事業に充当しようというものである。開発に対するこのようなスタンスは、他の地域にも見られ、現行法の体系と解釈を前提にすると、今後、主流を形成すると筆者は考えている。
(2) 住民の対応
では、地元住民はどの様な対応をしているのか。 ここでは、上に行政上の対応でみた点を補足するために、同町「湯の坪地区」で活躍している、住民の取り組み(「デザイン会議」)について紹介する。
行政上の対応ですでに見たように、マンションは2つがすでに建設済みであり、一つが計画中となっている。このマンション計画については、デザイン会議と業者との間で、建物について交渉中である。
デザイン会議が業者にマンションの模型を作らせ、5階建の計画から3階に、高さを低くするように変更させた点が、まず成果とされる。道路との間には木を植えさせることにしたが、これは守られるかどうか分からないとされる。次に、すべての部屋に湯を引く計画はやめさせて、大浴場のみに引く計画に改めさせたことも、成果として上がっている。これらの交渉は、すでに見たように、今回の「まちづくり条例」が、「地元住民の理解を必要とすること」という規定に基づいて、すすめられているものである。
つまり、福岡のマンション業者が役場に計画を持参したところ、今回の条例により、地元と話し合わなければならないということで、建設予定地の地元のデザイン会議と交渉しているものである。今後の課題は、文字どおり地元との交渉の中で、工事によって予想される、様々なトラブルを避けるために、どこまで具体的な詰めが出来るかである。
業者は、最終的には建設工事を下請に出すので、具体的にトラブルが発生した場合、実際に工事に当たる業者が、「そんな話は聞いていない」ということになってしまい、深刻なトラブルがおきることが予想されるが、これに対し、どう対応するかが課題となる。おそらく、よほど恒常的な環境管理のためのシステムがないと、対応は常に後手に回ってしまうであろう。
基本的には、ただ単に手直しをさせただけで終わらせるのではなく、よい環境を維持し、観光客が「この地域に来て、本当に湯布院に来てよかった」、といわれるような方向にもっていきたいとされる。蛇足ではあるが、福岡の業者や不動産屋の間では、「この地区はうるさいところだ。この地区に計画しなくて幸いだった。」といううわさになって流れている。従って、今後は、こういう取り組みを、湯布院全体に広めていかなくてはならないともされている。
さらに次のような事情もある。すでに述べたように、近く九州横断自動車道が伸びて来ることになるが、調査したところ、湯布院盆地の中に、3ヶ所大規模に土地が買われていたことが判明した。これが、いつ竹の子のように伸びて来るか分からないので、条例はできたが、むしろ正念場はこれからであると受け止められている。このデザイン会議レベルの認識は、行政上の対応でみた点と一致している。
湯布院の水は、山の自然のわき水を取水し、ポンプで高い位置へ上げ、自然の落差を利用して各戸へ給水しているが、この水源地域へ開発の波が押し寄せると、水質が悪化し、おいしいコーヒーも飲めない状態になり、観光地としては、これを最も懸念している。水の量自体はかなり余裕があり、むしろ質の悪化が懸念されているのが現状である。
日本を代表する温泉リゾート地、湯布院の取り組みはいま始まったばかりであり、今後に期待がかかると言える。リゾート開発に対して、まず第一義的に責任を負っているのは地域住民であり、この取り組みを行政が支援することが理想であることを、この湯布院の事例は教えているといえよう。
2.富士市の地域環境管理計画
静岡県富士市は、背後に霊峰富士を抱き、首都圏からも近く、交通至便とあって、今回のリゾートブームの洗礼をまともに受けることとなった。そこで、押し寄せるリゾート開発の波に対して、今回、「地域環境管理計画」を策定し、公共プロジェクトを除き、開発ノーの対応を示し、かつ、諸種の事情から、開発の限度を、環境シミュレーションから250haとした。同じく、全国から注目されているわけだが、ここでは「地域環境管理計画」の基本的考え方を検討する。
計画対象地域は、富士・愛鷹山麓地域の、良好な自然環境の中核をなす森林地域を中心に設定された。対象面積は、市域のほぼ中央に当たる、約6,800haであり、富士箱根伊豆国立公園および静岡県の愛鷹山自然環境保全地域は、自然公園法と静岡県自然環境保全条例によって、適正に保全されているので除かれている。
現在、地域環境管理計画を策定している地域が、全国で30くらいあり、策定を計画しているところを含めると50くらいになるといわれる。しかし、そのうちの大半は、都市部の例えば空気、公園、蛍などの生息環境などについて、「基準」にもとづいて実施しているところが多く、森林・自然環境それ自体を対象にしたのは、富士市を含めて、きわめて希である。
ただ、いづれの場合にも、総量規制など環境保全のための定量化はきわめて困難であると言われる。富士市の場合は、環境シミュレーショーンに基づき、開発は250ha以下と出したが、静岡県の環境計画(1987年)も、定量化はされていない。
そこで、定量化にこだわらず、富士・愛鷹山麓を守り、適切な開発も進めて行くためには、如何なる事業を実施したら良いかということに主眼がおかれた。
「今後の開発は公共計画に限る」という結論を出したわけだが、これには次のような背景がある。1975年の条例で「1,000u以上の利用については届出を出してもらい、場合によっては計画を取りやめてもらうことがある」とされていた。これは、環境管理計画が策定されるまで、預かっておくという主旨であった。
1987年に静岡県が、ゴルフ場の凍結解除を発表し、同87年に「リゾート法」が成立した。そこで個々の事業に対してアセスメントを実施することを考えたが、総合的計画を樹立する必要性があると判断したので、今回の環境管理計画によって、ゴルフ場を含めた民間開発に対しては、見直ししてもらうことになったという経緯である。 森林管理の状態はきわめて悪く、森林の8割が経済林で、林政課がいくら頑張っても、手入れがなかなかできない状態にある。そこで森林そのものの活力をどうつけるか、具体的には森林の「水源かん養機能」をいかに高めるかを考えたわけである。
水源の全てを地下水に依存し、かつ地下水の85%が海に出る状況の中で、飲み水の源である森林のかん養機能をいかに高めるかを重要視したのである。対策の基本は本来の森林に戻すことであり、例えば防護策をつける、産業廃棄物用の土地については、それなりの工夫をする、などであり、自然林に返すことは考えていない。
今後は、市の政策推進室で対応することになっており、250haについては、「子供の国」「新都市構想」など、それぞれの公共プロジェクトごとに対策を講じることになるであろう。 民間はストップしたわけだが、今後の計画については、市民のアウトドアライフ、研究機能の支援という観点から考え、地域おこしの方向性はとられない。
しかし、いずれにしても、様々な環境因子を、行政と住民がいかに守って行くかが重要であり、具体的なプログラムはこれから検討されることとなっている。
そのためには、別の制度や条例が必要になる可能性もあると考えられ、また個々の事業についてのアセスメントも必要になる可能性もある。そのためにはぜひとも住民参加が不可欠となるであろう。より突っ込んで言うならば、酸性雨、土壌汚染、地下水などについての現状把握、継続的な調査体制を可能とする「環境管理システム」を構築しなければならないであろう。かかる意味では、今回の環境管理計画は、そのための「一里塚」であり、今後の息の長い取り組みこそ必要と言える。 それでは、地域の位置づけはどのようになっているだろうか。端的に言って、「全国区」になっており、必ずしも富士市住民のためにのみ存するのではないとされる。その意味では、富山県利賀村(とがむら)で上演されている「ハムレット」のような演劇活動が、富士市でもできないかと言われる。また、アメリカのアスペンのようなリゾート地を作りたいともされている。
つまり、今回の環境管理計画を、単なる計画に終わらせないで、富士山を全国レベルの適切なリゾート地として保存し、活用することが大切であるとされているのである。この基本姿勢は、湯布院のケースと符合する。 それにしても、本格的な「環境管理システム」の構築のためには、住民への積極的なPR活動をはじめ、新たな制度、条例の策定などを含めた、息の長い取り組みが必要なことを教えているのが、この富士市の「地域環境管理計画」の教訓と言えよう。
3.リゾート開発と地域振興
(1)リゾートから地域振興へ
紙幅の関係から、ここでは、これ以上取り上げることはできないが、以上の2つの事例に劣らず、教訓的なケースを見逃すわけにはいかない。地域の水源維持の必要性から実施された、静岡県伊東市の、「上水道水源保護条例」、マスコミによって異常なまでの乱開発とされる事態に対して、積極的な規制・誘導の条例実施を試みた、新潟県湯沢町のケース、私有である以前に土地は公的に管理されねばならないと、積極的な、土地条例実施に踏み切った、静岡県掛川市の事例など、枚挙に暇がない。
自治体・住民による土地利用規制、誘導のための取り組みは、ケーススタデイにみられたように、決して規制のための規制ではない。 また誘導のための誘導ではない。規制・誘導をいかに地域の望ましい土地利用のあり方、産業振興と、どう結び付けるかという、ソフトな施策が必要である。
湯布院の観光産業は、農業を含む地場産業のための「ショーウインドウ」だと言われる。各旅館の回転率が、常時90%という高率である点は置くとしても、地域の産業振興、町づくりと、有機的に結び付けてはじめて、最終的な土地利用政策の実効が上がると言うべきである。
バブル経済が崩壊し、かつてのような異常な開発ブームは、去ったというのは実態ではあるが、実需としての開発需要は、今後も継続して強まることは否定できない。本格的な余暇時代に突入するのにともない、受け手、送り手を含む観光・開発業界の動きは、今後とも継続すると想定される。また、高速交通ネットワークの整備も、本格的高齢化社会時代の財源難などの制約条件はあるものの、着々と進行するであろう。
だとすれば、地方自治体は、一方で開発に対する実のある公的規制・誘導のための模索を行いながら、他方で地域振興のための総合的な施策の実施、定着を目指すべきである。この場合、地域住民の役割が重要であることは言うまでもない。
地域の担い手主体の、地域に存在する、既存の様々な資源の、調査、発掘、活用、様々なアイデアによる積極的な実現、これを側面支援する自治体の役割こそが、いま求められていると言えよう。 また、すでに進出済みのリゾートに対して、どの様な対応を考えたらよいであろうか。次のような事例がある。
スキー場、ペンション、別荘が数多くあるリゾートの拠点、長野県白馬村。ここに今春、「白馬文化クリエーション」というユニークな会社が誕生した。資本金は1,750万円である。設立にあたって、村民、村に本社を置く企業、ペンション経営者、別荘の住人らが協力し、1口50万ずつを出し合った。
村には、プロのフォークソング・グループ「わさびーず21」がいて、ラジオ出演、コンサートなどで健闘している。新会社の事業は、このグループを核とし、レコード、ラジオ・テレビ番組の制作、コンサート、イベントなどを手掛けようというものだ。音楽を通じて白馬のイメージ、知名度をより高め、白馬村に音楽の楽しさを広めようというのが、最終的な狙いである。
新会社は、地元住民と新住民の交流を直接目指すものではないが、一大観光地の中に、心なごませる音楽文化を興そうという動きが出てきたことは、注目すべきである。11月、グループの歌を吹き込んだレコードを製作し、売りだした。ジャケットの絵は、県外から白馬の別荘に移り住んだ人が描いた。音楽を通じて、小さいながら交流の芽が伸びようとしている。(日本経済新聞、1991年12月1日)
このような例は、大手資本によるリゾート開発を援護するものという批判が出るであろうが、例えば老人マンションの例にみるように、核家族化や高齢化が進む社会的趨勢の中にあって、賛否両論はともかく、このような形での受け入れ施設は、当然必要なものであり、だとするならば、「老人社会」を閉鎖的なものとせず、生き生きとした老後生活を過ごすことができるようにするためにも、地域との心暖まる交流は、ぜひとも必要なことである。
(2)日本型リゾート地づくりへ向けて
さて、ここで我々は、これまでのリゾートブームの中でみられたような、画一的・没個性的なリゾート形成よりも、もっと、我々日本人のライフスタイルや就業実態に適した、「日本型リゾート」を追求した方が良さそうである。すでに計画されているリゾート計画も、計画は計画として推進し、地域振興のあり方を模索する中で、「日本型リゾート・プログラム」を、十分展開しうると考えるからである。ここでは、そのたたき台として、近年注目を浴びている、鹿児島県知覧町の観光に対する取り組みを検討してみた。
ここ10年くらいの間の、鹿児島県全体の観光入込客数を見ると、バスと鉄道は減少している。一番伸びたのはマイカーで、その次に伸びているのが飛行機(鹿児島空港)である。 自動車が伸びた理由は、中国地方から九州へ縦貫する高速道路の実現である。そして、鹿児島空港から揖宿(いぶすき)へ南下する、県営の高速道路が実現したときに、知覧町への観光客が急速にが伸びた。この10年間で、当初の14万人が、80万人まで伸びたという超高度成長である。これは繰り返すが、高速交通ネットワークの恩恵である。 しかし、この理解で我々が止まるならば、それは高速交通と観光のネットワークのごく一面だけを理解したに過ぎない。
知覧町の素晴らしい二大観光資源は、前の町長が発案して実現されたものである。前町長は、獣医で非常に発想力豊かな人であると聞く。
鹿児島県には、第2次大戦中、3つか4つの特攻隊の基地があり、知覧町にも存在した。 後世に語り継ぐべき、非常に素晴らしい、貴重な資源は、やはり語り伝えていく必要がある、というところから特攻平和記念館を作った。道路には、遺族や一般国民の寄付によって建てられた燈楼が、3mおきに2qぐらいつながっている。入口には桜並木があり、慰霊祭も営まれているほか、観音様も建てられている。そして、海から引き上げられた零戦が展示されている。
一番心を打たれるのは、20歳前後で、若くして、敵機をめがけて突っ込んでいったあの若者たちの、母に対する切ない心情を記した、遺文や和歌である。つまり、観光地づくりのコンセプトが、非常にしっかりしているということであり、全国に対する平和教育の拠点として、この知覧を、有名にすることが可能になった。そして、施設を日々リニューアルしながら、あの広島の原爆ドームと違った意味での、親と子の心の絆を、無惨にも切り刻んだ戦争に対する、平和教育の拠点として、育てたということである。
もう一つの観光資源は、武家屋敷群であるが、これは紙幅の都合で省略する。
このような、貴重な資源を持っていたという好運もあるが、それを地域の内側から、きちんと強烈な情報発信源として組立て、世に知らしめたことに対する努力を正当に評価すべきである。
筆者はかつてある調査の中で、地域に埋もれ、かつやり方次第によっては、農山村型リゾートの貴重な資源として活用しうる事例として、食に関する資源を発掘したことがある。 ある県のリゾート開発計画は、こうした地域主導の、かつ地域の振興に結び付くものを伸ばす戦略を、すでに組み入れている。リゾート開発のかつてのブームが去り、新しい角度からの地域振興のあり方が求められている折り、こうした方向性は大いに期待されるところである。
<求められる企業の対応>
@憲法第25上に基づく「国民の休養権」の保証
A週休2日性の完全実施
B弾力的な休暇取得の保証
Cフレックスタイム制の普及
Dビジネスリゾートの保証
E休養先地域との交流
F安価な滞在型リゾート地づくり(公共部門)
G地域資源の積極的活用
Hリゾート地との提携(大企業)
I通信ネットワーク環境の整備
4.リゾート開発資本と行財政
前の節で、リゾート開発資本を、不動産資本の空間的運動の新展開と位置づけ、その利潤の源泉、空間的運動の特徴について簡単に考察した。ここでは、より総括的な角度から、リゾート開発に対する地方行政のあり方を展開した。
ところで、前掲のリゾート開発資本の循環式には、リゾート開発資本と公権力、とりわけ地方自治体との関連が表現されていない。リゾート開発資本の利潤の源泉が、主として個人消費にかかわるものであり、しかも、長期滞在型リゾートは、生活空間そのものを商品として提供しようというものである。
この生活空間=生活基盤は、本来ならば、リゾート開発資本が建設資本に建設させるか、あるいは、自ら建設するかして、固有の滞在型施設とワンセットで提供すべきものである。しかし、それら生活基盤の建設と維持は莫大な投資を必要とし、S1を巨額なものとするため、リゾートという独自の商品価格は、一般的に購入不可能なものとなって、企業としての採算に乗ることが出来ない。
そこで、これら生活基盤は公的に供給されなくてはならないが、そこで、社会的共同消費手段の一般的性格を簡単にみておく。
消費は元来、主として私的欲望の満足のための本来的な個人消費と、主として社会的欲望の充
実のための共同消費に分かれる。前者は自己の生命の再生産であり、後者はその社会の再生産であ
る。いま都市的生活様式を例に取ると、個人消費は商品の消費であり、共同消費は社会的消費とな
る。このため共同住宅、水道、街路、広場など都市生活に必要なものは旧くから公権力の手によっ
て作られてきた。
資本主義的生産の発展は、都市の発展の歴史、そこへの労働力の移動、集中の歴史であった。都
市に集中した人口には、生活物資の個人的な調達は別として、共同住宅、上下水道、公園、都市的
交通手段、教育、病院などの共同消費は、公的供給に依存しなくてはならないが、それは、企業の
採算ベースに乗りにくいが、都市的生活に不可欠であり、資本主義的生産にとっても不可欠だから
である。
共同消費手段の代表的なものは、第一に都市住民の再生産に必要で、社会化して共同利用される
ようになった消費手段がある。これには、共同住宅、電気、ガスなどのエネルギー施設、上水道、
下水道、清掃設備などが含まれる。
第二は、都市住民の労働力の保全に必要なもので、病院、衛生設備、保健所。
第三は、労働力の再生産と資質の向上に貢献する公教育。
第四に都市住民が個人消費をおこなうために共同利用する交通・通信手段で、街路、市街鉄道、
電信・電話がこれである。観光の場合は交通そのものが最終消費となる。都市が過密化してくると、
都市住民の消費生活も広域化し、農村部に都市の影響が浸透してそこの生活も都市化する。都市と
農村をつなぐ交通手段の意義も非常に大きくなる。
第五は文化の向上にともなって必要となる、図書館、音楽堂、公園、緑地帯、運動場などの大衆
文化・娯楽施設である。
ところで、共同消費手段は場所的に固定し、商品として大量に販売できないという性格を持って
いる。また、共同消費手段はワンセットの投資が必要である。共同住宅はそれのみでは利用されず、
上下水道、学校、公園などワンセットで整備されなければならない。こうしたことのために、企業
の採算ベースに乗らないので公的供給の対象にならざるをえない。
従来の観光産業の振興とは異なり、リゾート開発が鳴りもの入りで公的に支援されなければなら
ないのは、リゾート開発に必要な社会的共同消費手段の以上のような性格によるものである。
このような共同消費手段の公的な供給は、BR(建築時代)の源泉であり、その大きさを規定す
る。
つぎにGR(地代ないしは土地取得費)が大きすぎることも、リゾート空間商品の価格の高騰と
なり危険が大きくなることを意味するから、リゾート開発資本にとっては、このGRの節約が必要
となる。そこで地方自治体の公有地の利用が有利であるし、私有地の場合、第三セクターの形を取
り、そこに地主を参加させることで、開発による利潤の地主への還元を保証することで、土地取得
ないしは利用を円滑にすることができる。
第三セクターによる開発がしばしばみられるのは、一つにはこの理由による。また借地であれば、
経営上の理由による撤退も容易である。もちろん将来の値上がりが見込まれる場合は直接取得とな
るし、数回に分けた分譲により、しかも細分化された分譲により意図的に値上がりを期待できる。
リゾ−ト開発は、一定の生活空間を商品として供給し利潤を得ようとするものなので、莫大な投
資を必要とする。このいわゆる開発資金G−Gは、リゾート法にあっては、日本開発銀行による低
利融資、第三セクターを取る場合にはNTT株式売却収入による無利子融資、また地方公共団体によ
る出資・補助などの途が開かれている。また税制上の特例措置として、リゾート開発地域内の特定
民間施設に対する、特別償却制度、事業所税、不動産取得税、固定資産税などの非課税・減免など
がある。これらはいわゆる税制上の「かくれた補助金」であり、BRの源泉となる。
地方公共団体に対する助成としては、助成経費の地方税充当、地方税減収額の地方交付税による
補填、道路、下水道などの公共施設の整備などが用意されている。これらは、現行の地方財政の構
造の弾力的活用によるBRの源泉としての役割を果たす。地方税など地方一般財源がこれに充当さ
れるときは、住民や企業に対する大衆課税的財源がBRの源泉となる。
さらに、自然公園法、農地法、農業地域振興法、森林法、港湾法などにかかわる処分、活用につ
いての配慮、事務処理の迅速化が盛り込まれており、これらはBR実現のための制度的前提として
の役割を担う。
以上のように、リゾート開発資本の特殊な性格に規定されて、その利潤獲得のための行政上の支
援措置も複雑なものとなっている。このリゾート開発資本の循環の中に地方自治体が取り込まれて
いくか否かは、住民にとって一大関心事であり、以下リゾート先進地の事例をみながら、今後の地
方自治体の対応のあるべきガイドラインの設定を試みよう。
地方行財政の課題と今後の対応
リゾート開発の実体や弊害については、これまで多くのことが指摘されてきたし、ここでは紙幅
の関係から、今後地方自治体を含めた地域全体として、どのような対応をとったらよいかについて
考えてみたい。
ここで筆者の考え方の基本と結論を簡潔に述べると、それはリゾート開発に対する地域(地方自
治体)の側での規制と誘導そして望ましい開発の立案、交流である。
確かに、現在進められているリゾート開発が、構造調整の一環としての、大手不動産、建設、電
鉄、重厚長大産業などの投資戦略としての、地方自治体を巻き込んだ地域開発政策であることは事
実であるし、西武系、東急、大手観光会社によるリゾート開発計画をみるとき、それはあたかも19
世紀後半以降の主要列強諸国による地球の領土的分割を思わせるものがあることは事実である。
また、ゴルフ場、リゾートホテル、マンション、マリーナ、スキー場など、開発の種類によって
一概にはいえない側面もあるが、特的高額所得者の高級リゾートと、一般大衆化されたレジャーと
しての余暇利用の二つの側面があることも事実である。また最近では前者から後者へのシフトが急
速に進んでいることも事実であり、やがて21世紀を迎える日本がある意味で“リゾート列島”と
なることを否定し去ることはできない。要は、本格的な余暇時代を受け入れる地域自らが、どう自
らの地域を作り上げるかという明確な姿勢をもつかである。
その際にポイントとなるのが地方行政であり、リゾート開発資本の地域の側からみた無計画な投
資戦略に有効な歯止めをかけ、望ましい方向へ誘導し、場合によっては地域独自のプラン策定に力
量を発揮しえるのは地域を含んだ地方自治体以外にないからである。
今、そのための手がかりとして、リゾートマンション建設ラッシュにわく観光都市熱海ならびに
近年別荘地開発の著しい伊東市を取り上げ、行政上の課題を中心に考えてみよう。両地域には、近
年開発ラッシュのために、以下のような深刻な行政上の課題が生じている。
高齢者マンション(ケアマンション)、戸建別荘定住者(高齢者世帯)増加による高齢化問題が
深刻化しており、高度医療システムの設置の必要性が高まっている。
別荘等の開発に伴う自然の減少、景観の破壊が増加、しかも開発区域が広範囲に広がっているた
めに緑地の確保・保全が難しくなっているほか、公道設置が必要となっている。住民票を地域へ移
さないまま移住しているものが増え、住民税を確保できず市財政負担が増大している。熱海市では
別荘税を取ってこれに対応しているが、財政負担は軽くない。 また、空別荘での浮浪者、子供な
どの侵入、放火による事故発生の危険性が高まっている。リゾートマンションなどを販売終了後、
アフターケアがしっかりしてないため、行政に余分な負担がかかるケースがある。配水池の増設、
配水管の新増設などの整備のために財政確保が必要である。
わずかな紙面では語り尽くせないほどの行政上の課題が山積みしているのが実状である。越後湯
沢やその他の開発が集中した地域では、いずれも大なり小なり実状は同じである。いまこうした実
体をみるにつけ、地方自治体、地元住民、定住者、マンション等所有者らが真剣に、開発について
話し合うことの必要性を痛感する。開発行為であるだけに、そこにはさまざまな利害や打算が複雑
に絡み合っていることも事実であり、単に反対運動を展開してすむようなものでもない。自然破壊
は地元住民にとって深刻であるだけでなく、別荘所有者として他地域から移り住んだものにとって
もそうであり、他地域へ転居するケースの出ているという。
また、マルチハビテーターといわれる彼らはお年寄りであり、残り少ない余生を自然にはぐくま
れ、暖かい地元との交流の中で生きたいという切なる願いをもっており、これを資産家、高額所得
者と決めつけ、よそ者扱いをすることはできない。彼らの多くは、仕事をリタイアしたごく普通の
年金生活者であり、元気なうちはまだよいが、高度医療が必要になったときには、誰かが手をさし
のべる必要がある。
では次のような実体はどう考えたらよいであろうか。熱海市、伊東市における別荘、マンション
所有者、定住者にたいするあるアンケート調査によれば、地元で利用している生活施設として、日
用雑貨店、デパート大型店、食料品店、レストラン、喫茶店、銀行、郵便局、医療施設などで利用
率が高いが、いずれをとってみても満足度は半分ぐらいとなっている。
その典型が医療施設であり、満足度は三分の一となっている。しかも医療施設は、将来の必要性
をあげる者の比率がきわめて高くなっており、高齢者ケア施設については、現在の利用に比べて、
将来の必要性が7倍にハネ上がっている。また、幼稚園、保育園、小中学校、高等学校、大学、専
門学校については、高齢者が多いこともあって、現在の利用はごくわずかであるが、将来の必要性
となると、かなりのウエイトとなってくる。これは、将来の子供や孫との同居を考えてのことだろ
う。
東京への一極集中がこのまま進んでいくと、熱海、伊東などの自然に恵まれた場所と東京を行き
来する、いわゆるマルチハビデーターは増加してくるであろう。また、富士通のような工場、ソフ
ト開発部門の地方展開にともない、地方での定住化が進むこともまた事実である。こうして地方で
必要とされる生活施設ないしは生活基盤も、従来とは異なった角度から見直さざるをえなくなって
いるのが実状である。
上にアンケート結果を引用した施設は地元住民にとっても関心のあるものばかりであり、その他、
地方文化の向上、地域活性化、自然環境などについて、外来者と地元とが積極的に交流し合うとい
う事例をいまだ耳にしたことはない。「よそ者扱い」が現状なのである。
こうした交流の中から、地域にとって好ましくない開発は規制すべきであろうし、逆にプラスに
なる振興手段を誘導することも可能となる。最近問題になっているゴルフ場に使用される農薬が深
刻な水質汚染や大気の汚染を生じる場合などに、厳しい規制をもって望まなければならないのが前
者の例であり、地元の創意と工夫を生かした観光開発や地域おこしに、外部資源を活用することは
場合によっては地域にプラスになるものであり、これが後者である。こうしたビジョンを地元の交
流事業としてどう発展させるかが課題であり、その扇のかなめの位置にあるのが地方自治体であろ
う。
(瀬川久志「リゾート開発と地方行政」東京市政調査会『都市問題』第81巻第5号、1990年5月号より)