資料編



T. 地域産業を活用した観光産業の活性化  
 
 観光を取り巻く社会・経済環境の変化と影響

 近年、観光を取り巻く社会・経済環境は大きく変化しており、今後の観光振興や観光地づくりを進める上で、これらの変化や影響を踏まえながら的確に対応していくことが求められています。 この中で、地域産業と観光との連携のあり方を考えるという本調査との関連で特に留意する必要のある動向としては、次のような点があげられます。

 @価値観の多様化やライフスタイルの変化に伴い、人々の観光行動や観光地に対するニーズが大きく変わってきていることです。    
 例えば、従来のような団体旅行や慰安旅行は影をひそめ、家族や小グループを中心とするくつろぎ型の観光が主体となってきたことや、「見る」観光から「参加・体験・交流」などのより主体的・能動的な観光を求める傾向が強まってきていること、さらに、地場や本物の素材を使ったものへの志向が強まってきていることなどがあげられます。

 A本物志向とも関連しますが、自然・環境問題への関心の高まりの中で、例えば、有機野菜などのように、できるだけ人工的な手を加えない素材を望む人々が多くなっていることや、自然の中でのアウトドア型の余暇・レクリエーション活動が盛んになってきていることなどがあります。また、その意味では、個々の観光拠点施設だけではなく、それらを含む地域全体の景観や美観、アメニティを重視する傾向も高まってきています。

 B近年、全国的に進められている高速交通網の整備は、観光地から見た場合、一方で当該観光地へのアクセスの向上と、より広い範囲から集客することが可能になるという意味で有利な条件ですが、反面、観光客にとっては、同じ時間内で到達できる観光地が増え選択の範囲が広がることになり、観光地間の競争がそれだけ激しくなっています。加えて、最近の円高により海外旅行と国内旅行の金額の差が縮まってきていることから、さらに厳しい状況に置かれています。

 いずれにしても、こうした観光行動や観光ニーズの変化に対応し、激しい競争を乗り越えて生き残っていくためには、従来型の観光地からより個性的で魅力ある観光地への脱皮が必要であり、そのための1つの手法として地域産業との連携や地域産業そのものを新しい観光資源として活用していく余地は十分あるし、かつ、有効であると考えられます。 全国の事例を見ても、このような角度から新規に観光開発を試み成功しているところが少なくありません。既存の観光地にあっても、是非とも再検討し時代に合った観光地へのリニューアルを進めることが必要です。

 地域産業と連携した観光振興の必要性と地域への効果  

(1) 観光資源としての地域産業

 ア 観光資源の総合評価の視点

 多くの観光地、観光スポットをよく観察すると、立ち上がり時点での固定観念にとらわれて、不断の評価・見直しが不十分なため、新規に参入した競争相手に客を奪われて、入込が減少したり、売上ないしは入込の停滞に悩んでいるところがあります。 こうした事態を避けるためには、既存の観光資源とその活用状況について見直しを行うとともに、地域の中に潜在する地域産業も含めた観光資源の総合的な利用可能性の分析と、活用方法についての検討を進めることが必要です。新規に観光市場へ参入しようとする場合には、なおさらこの点が重要です。そのための総合評価の必須項目と評価の視点は表1−1観光資源の総合評価の視点の通りです。
 
 イ 観光資源としての地域産業

 観光資源という場合、一般的には表1−2観光資源の分類と要素のように整理されています。 これらの中で、従来は、自然観光資源や人文観光資源の中でも史跡、寺社仏閣等を「見る」ことを主体とした観光地が多かったのですが、前節で見たように、価値観の多様化やライフスタイルの変化などから、人々が観光に求めるものが大きく変わってくる中で、相対的な比重は低下しつつあります。
 むしろ、現在、地域に固有の歴史、文化、産業、生活等を主体的に「学び、体験し、ふれあう」ことを求める傾向が強まっていることが伺われ、この意味においてその地域独特の風土や歴史に根ざし、また地域固有の景観や産物、文化、生活様式などを形成している地域産業そのものを観光資源として積極的に評価し、活用することが必要になっています。このことは、国内外における観光地間競争が激しさを増している現在、他と差別化された個性的で魅力的な観光地づくりが求められている中で、一層重要になってきています。


(2) 地域産業活性化のための観光との連携

 地域産業を観光資源として積極的に活用するということは、地域産業の活性化のためにも必要なことです。後に述べるように、一口に地域産業といっても、農林水産業から地場産業、商業までその範囲はきわめて広範囲に及ぶのですが、その観光的活用の仕方によっては、様々な課題を抱える当該地域産業の活性化に大きく貢献することが可能です。
 もちろん地域産業の抱える課題に対して、観光のみによってすべて打開することはできませんし、文字どおり当該地域産業をとりまく環境変化に対して総合的な取り組みが必要なことは言うまでもありません。しかしここであえて概括的に指摘すると、これからの産業のあり方は、これまでの産業構造を規定してきた「供給サイドの産業構造」から「消費サイドの産業構造」へ、つまり生活者の視点に立ち、新しい消費生活文化を提案する産業構造への移行が求められていると言えます。
 この意味において、地域産業と観光の連携とは、これまで「市場の向こう側」に存在している消費者を観光客という形で地域に直接呼び込む仕組みをつくることにより、そこに発生する新しいニーズを起爆剤として当該産業の活性化や高度化につなげようとするものです。  


(3) 連携による地域への効果

 地域産業と観光との連携は、観光と地域産業の双方にとってメリットがあるばかりでなく、もっと広い意味での地域への効果の波及が生じます。次にこの点を立ち入って考えてみましょう。  

ア 観光は地域へ様々な効果をもたらす  

 地域産業と観光とを結びつける具体的な戦略については、以下段階を追って提示しますが、ここではまず、観光行動とそれに伴う消費支出が、どのような形で地域に波及効果をもたらすのかを見ておきたいと思います。これを一覧表にしたのが次ページの表<観光による地域波及効果>です。観光の地域への波及効果は、雇用や、所得、財政、地域経済、さらには地域環境、文化的環境にわたる幅広い局面に及ぶことが分かります。  
 いま経済面に限定しても、観光消費が地域産業に計り知れない波及効果をもたらすことは、平成2年度におこなった「静岡県観光産業の経済波及効果調査」によって明らかであり、そこでは観光消費金額の波及効果が、県内総生産の6.5%に相当することが明らかにされています。

イ 地域内経済システム・産業ミックスを活かした観光振興  

 このことは、観光と地域産業を連携させ、厚みのある地域内経済システムないしは産業ミックス(*)を形成することの重要性を教えており、これを強化することによって効果を大きくすることが出来ます。観光に特化した地域が、近年のバブルの崩壊によって苦境に立たされ、地域全体に大きな影響が出ているケースがありますが、このような事態を避け、観光とその他の地域産業とのバランスを取る上でも、観光と地域産業との連携強化は重要な課題です。  
 このような経済面だけではなく、観光的要素を導入した地域産業振興策は、消費者ニーズの的確な把握を通じた地域産業の体質強化、新たな販路開拓や新製品開発への動機付け、さらには地域住民が生きがいを感じながら働くことの出来る地域づくりへと発展する契機となるという意味でも、大きな効果があります。この後者が重要であり、地域間競争が激化した今日、今後はもっと積極的に取り組まれる必要があります。

(*) ここで言う地域内経済システム・産業ミックスとは、上の図に見られるように、観光産業への、宿泊や土産品の購入などの観光需要を核としながら、これを地域の農林漁業や商業、さらには様々な地場産業と連携を強化しながら観光需要を波及させ、地域経済・産業の体質強化を促す戦略を意味します。そしてこのような地域経済システムを総合戦略として推進していく中で、以下本論で展開したような、地域生活環境、文化、自然環境の保全などへも波及効果が生じることになります。  

(1) 地域産業とは何か  

 ここでは、「地場産業」と「地域産業」との違いについて、基本的なことなので多少説明しておきます。「地域産業」という言葉は、必ずしも明確な概念規定がないのですが、ここでは、従来の狭義の「地場産業」(*)を含み、なおかつ地域に根ざした商業やサービス業、製造業、観光産業なども含んだ広い産業として理解することにします。地域のヒト・モノ・カネ・情報など、地域資源を活用して成り立っている、幅広い産業群のことです。「地域産業を利活用した観光振興方策」という場合、もちろんその中心は、伝統工芸品や、農林水産物及びその加工品が中心となりますが、工場やワイナリー見学、またはアンテナショップやサーキット開催など、今日観光・レジャー・レクリエーション行動は多様化しており、そうした今日的状況にも対応していくために、地域産業を幅広く捉えて、利用すべきは何でも積極的に利用するという発想と、それに基づく戦略が必要と考えたからです。  
 その意味では、まだまだ地域産業を利用する余地があるし、地域産業を活かす可能性があると言えます。この点がこれまで必ずしも上手であったとは言えません。研究の余地が大いにあります。

(*)地元資本をベースとし、一定の地域(おおむね県内)に集積しつつ、その地域に産出する物産等を主原料として、またはその地域に蓄積された経営資源(技術、労働力、資本等)を活用して、他地域から原材料を移入して、これらを加工し、その製品の販路を地域内外に志向する中小企業群のこと。  

(2) 地域産業の現状と課題

ア 農林水産業

(ア) 農林業の現状と課題  

 農業はよく知られているように、ガット・ウルグアイラウンドによる農産物の貿易自由化や関税率引き下げなどによって、農業に携わる人々は大きな影響を受けつつあります。とくに、国際化の流れの中での、海外の安価な食料品等の流入は、高齢化、後継者難、混住化などの構造的要因と相まって、早急な対応が望まれています。
 自立して農業が営める経営体はもちろん、多くの兼業農家にも、その体質の強化のために、農業・農村の観光的利活用が有効であると考えたからです。  
 林業もまた、1次産業の中にあっては非常に厳しい環境のもとにある産業です。地域の過疎化による、高齢化、後継者難、それに安価な外材の流入など、構造的要因を抱えており、「健全で潤いに満ちた森林づくりによる活力ある林業の振興」が望まれます。
 具体的には、@林業活性化のための条件整備、A県産材時代のための林業の育成、B需要動向に対応した木材・茸産業の振興、C活力ある担い手の育成、D高度技術化による生産性の向上、といったことが柱となります。
 また、林業のフィールドである森林を国民の保健・休養やレクリエーション活動に活用するとともに、高品質の特用林産物の生産体制や、体験林業や木工作の体験に結びつけた観光的利用によって、森林総合産業としての活力を引き出すことが可能です。 国民の保健・休養やレクリエーション、そして場合によっては、高品質の特用林産物の生産体制、高次加工と流通の整備に結びつけた観光的利用によって、産業としての活力を引き出すことが可能です。  

(イ) 水産業の現状と課題

 水産業に関しては、@200カイリ体制の定着など国際化時代に対応した漁業の展開、A消費者ニーズに対応した水産業の推進、B活力を生み出す担い手の育成、C技術革新と情報化、D個性ある漁業地域環境の整備などが重要です。
 地球上のあらゆる生命の源である海へ馳せる私たちの思いはいつの時代にも絶えることがありませんでした。水産業を中心とした海浜地域の有効活用を、水産業の振興に結びつける形で展開することが、今切に求められていると言えるのではないでしょうか。  

(ウ) 中山間地域の現状と課題

 農林水産業の現状と課題を語る場合、いわゆる「中山間地域」の問題を避けて通ることはできません。というのは、農林水産業の問題点は、現在、とりわけ中山間地域において尖鋭的な形で現れているからです。
 県土面積の約3分の2を占める中山間地域においては、これまで農林水産(内水面漁業)業が基幹的な産業となってきましたが、急峻な地形や狭隘な土地など不利な条件を多く抱えており、これらの産業は平地地域に比べてより一層深刻な状況に置かれています。また、地域の経済基盤を支える農林水産業の低迷や衰退に加え、道路・交通、上下水道、福祉・医療・教育などの生活環境基盤が相対的に低位にあることから、若年層を中心として人口の流出が進み、過疎化や高齢化の中で集落そのものの維持が困難となっている地域もでてきています。
 こうした課題を抱える中山間地域に対して、従来から振興山村や過疎地域など多くの地域指定がなされ、各種の施策が展開されてきましたが、近年、中山間地域の持つ水源涵養や環境保全、災害防止、あるいは保健、環境学習など様々な公益的機能がクローズアップされ、単に産業振興という側面からではなく、都市との交流や連携を軸とした新しい地域振興施策の展開が求められるようになっています。
 中山間地域は、前述したような不利な条件を抱えていますが、一方では豊かな自然や、美しい景観、特色ある農林水産物、伝統文化など都市にはない魅力ある地域資源を有する地域です。また、不利と見える条件も見方を変えれば、平地と異なる個性的な農林業の展開を可能にする要素でもあります。
 この意味で、特に中山間地域においては、特色ある農林水産業の展開と、それらを活用した観光振興、あるいは都市との交流促進等を進めていくことが重要な課題になっています。  

イ 製造業

(ア) 製造業の現状と課題

 「地域産業利活用観光振興方策」は、地域産業を出来るだけ広範囲にとらえ、観光との連携によって、その振興を図ることを狙いとしています。地場産業を含む製造業全体については、本県には様々な業種・業態がありますが、需要構造の変化から見ると、消費に際し、「モノよりサービス、量よりも質、物質面より精神面」という価値観の変化に、いかに対応するかが課題であると言えます。また、電気機械、オートバイ、自動車などの輸出特化型の機械系製造業にあっては、円高基調のもとでの、国際化戦略と多角化が喫緊の課題であることは衆知の通りです。

(イ) 地場産業の現状と課題  

 本県には、雛人形、仏壇、紙、織物、楽器、焼き物、民芸品、農林水産物の加工品など地域の生活文化を育み、今に伝える優れた伝統的な地場産品が数多くあります。 しかしながら、データ(表2地場産業の推移、図1−1〜3)にもはっきりと現れているように、出荷額のわずかな増加が見られるものの、事業所数、従業者数は、今日抱える構造的要因のために、後退を余儀なくされています。  
 これらの地場産品は、産業としての存続だけでなく、潤いのある生活文化継承のためにも、積極的に振興策が講じられる必要があります。  それでは、地場産業が抱えている構造的な要因とは何でしょうか。21ページの図地場産業の課題に見られるように、まず背景としては、バブル崩壊後の不況、円高基調のもとでの輸出不振、海外製品の流入、生活様式の変化、消費者志向の変化、人材・後継者不足、PR不足といった要因が挙げられます。
 これらの複合的要因に加えて、商品開発力と企画力の不足が、地場産品販売の伸び悩みとなって現 れていると考えることができます。こうした状況は、「心の豊かさの喪失」、「県内産業への悪影響」、「雇用情勢の悪化」といった社会的影響を生じており、地場産品の消費拡大を進めていかなければな りません。  
 とくに、消費者ニーズを的確に把握して商品開発力・企画力を向上させること、効果的なイベントの実施などによるPRの推進、豊かな感性と技術、経営感覚を持った人材の育成と後継者確保は緊急の課題です。とくに、地場産品の複雑な流通経路の中にあって、商品を直接消費者の目の届くところに置き、利活用して頂くことによって、消費者の厳しい判断を仰ぎながら、ニーズに対応したより高品質の商品開発を進めることが必要ではないでしょうか。こうした地場産品は、観光面では地域の個性を出す産物としての位置づけが必要であり、積極的な利活用が求められます。            



ウ 商業

 商業に関しても、同様に生活面での質的向上を図りたい今日的な消費者ニーズにいかに対応するかが基本的な課題ですが、既存の地域小売商業(商店街)にあっては、規制緩和の流れの中での大型店等の相次ぐ出店にいかに対応するかが緊急の課題です。具体的には、個店にあっては商店の個性化や品揃えの充実とこだわり、サービスの質の向上、さらには後継者確保などが必要ですし、商店街にあっては、街並み景観やゆとりある歩行者空間、駐車場整備など商店街の全般的な環境整備(アメニティや文化性)が必要です。
 これからは、集客力の向上につながるような、地域住民や来街者に対する、魅力の演出が特に必要になるでしょう。  

 以上、広く本県の地域産業の現状と課題を概観しましたが、何度も繰り返すようですが、「地域産業利活用観光振興方策」はまさに、地域産業と観光を結びつける形で地域産業を新展開させ、観光振興を創造的に発展させるものです。  

2 地域産業の観光的活用の一般的類型と可能性の評価  

(1) 観光行動の多様化と活用の類型  

 それでは、観光と連携し、産業それ自体の体質強化に利用し得る、広い意味での地域産業には、どのようなものがあるでしょうか。また、どのような活用の方法が考えられるでしょうか。特に、現在、人々の観光行動は多様化しており、従来のように「見る」「食べる」「買う」というものから「学ぶ」「体験する」などの要素が重視されるようになってきているので、多面的な角度から検討することが必要です。  
 それぞれの地域産物に対応して観光行動をクロスさせてありますが、地場産品に関しては、「製品を買う」、「製品を見る」、「生産工程や歴史について学ぶ」、「生産加工等を体験する」の4つの観光行動が対応します。
 農林水産物に関しては、「産物を買う」、「宿泊施設や飲食店で味わう」、「栽培法方や歴史について学ぶ」、「栽培収穫加工等を体験する」、「生産現場・風景等を見る」が対応します。
 そして、◎(特に観光対象化し得る)、○(観光対象化し得る)、△(工夫次第で観光対象化し得る)、×(観光対象化は困難)の4つを評価基準としました。なお、ここでの評価はあくまでも抽象的、一般的な可能性の評価ですので、それぞれの地域で実際に検討する場合には、産業の実態や製品内容、技術力等をふまえて具体的に評価することが必要です。

(2) 活用可能性の評価

 これらの中には、産品や産業の性格から、全く観光と結びつかないものもありますが、殆どの産業が何らかの形で、観光と関連させて利用し得ることを示しています。商業については、一覧表にまとめていませんが、「観光地隣接商業地」、「中心市街地商店街」、「郊外型商業施設(集積地)」などに分類すると、今後大いに観光対象商業地(施設)として活用していく方向で検討することが出来ます。
 地域にはこのように、産業全体を牽引するような大手企業や中堅企業に加えて、零細性、従業員の高齢化、後継者難、他産地との競合激化、生活の高度化など、構造的要因からその将来に不安はあるものの、実に多彩な地域産業があり、それらは意外と大きな雇用吸収力を持ち、地域内外のユーザーに商品やサービス提供をすることで、消費文化の一翼を担っているです。このような地域産業群を可能な限り、観光と結びつけ、将来に向けて発展させていくことが求められています。  

3 地域産業と連携した観光振興の基本的な考え方と展開方法  

(1) 基本的な考え方

 「地域産業利活用観光振興方策」という言葉の響きからすると、ともすれば観光振興の目的のために地域産業を従属的な位置づけで利活用すると受けとられてしまいそうですが、決してそうではありません。
 従来、観光振興と言った場合、より多くの観光客を地域に呼び込むことによって、直接観光客を相手に商売している旅館・ホテル等の宿泊業や旅行業、バス・タクシー等の交通輸送業、飲食業、土産品小売業、観光レジャー施設営業等のいわゆる観光関連産業の活性化を図ることが主な目的でした。
 そこにおいては、土産品の製造や食材の提供などを通じて間接的に他の地域産業との関わりは勿論ありましたが、その関係はどちらかといえば稀薄であり、十分に意識されてこなかったきらいがあります。そのため、多くの観光地では例えば、土産品は関東や関西の土産品専門業者から包装紙や名前を替えただけの製品を仕入れていたり、旅館や飲食店で出される料理の食材も地場ではなく市場を通じて一括仕入れている実態があります。これでは折角の観光消費の波及効果が地域の他の産業に還元されるのではなく、その大部分が域外に流出してしまうことになります。また、一方で、こうした代り映えのしない土産品や料理ではもう人を呼べる時代ではないという事情もあります。
 従って、序論の第3節のところで述べたように、地域産業と連携した観光振興についての基本的な考え方としては、観光関連産業と他の地域産業のそれぞれが抱える課題を踏まえながら、相乗的な効果を生み出すための仕組みを地域の中に構築することを目標とするものです。そのための仕組みとしては、大きく言えば、
 @地域産業の活性化を図るための観光的要素の導入と連携を強化するための仕組みづくり(観光消費を活かした地域産業の新しい展開)
 A魅力ある個性的な観光地づくりを図るための仕組みづくり(観光資源の1つとしての地域産業の活用) の二つが柱となります。
 この柱に沿って具体的な展開方法を考えるについては、表4地域産業と観光振興の連携に関する基本的な考え方の中の「連携のための基本的視角」として掲げた3つの視点からその方向性や目標を整理することができます。この場合留意すべきこととして、これら3つの視点はそれぞれが独立したものではなく、ある部分では重なり合い、相互に補完し合う関係にあることです。実際にある特定の地域において取組みを進めていく際には、当該地域内の自然、歴史・文化、産業、人など様々な地域資源をベースとして、それらを有機的に結び付けるための総合的な仕組みづくりや、既存の地域産業を核としながら新しい“観光・余暇産業”、例えば新農山村型ソフトビジネス(*)へと展開させていく内発的な産業おこしを目指すことが大切です。
 いずれにしても、地域産業と観光の連携を通じて、厚みのある地域内経済システムや産業ミックスを形成することにより、狭義の観光関連産業のみならず地域内の他の産業に対しても広く経済波及効果をもたらすとともに、地域の生活環境や文化、自然環境の保全など非経済的な効果をも生み出しながら、全体として住民が生きがいをもってそこで働き、暮らすことのできる地域づくりに発展することを目指すことが重要です。  
(*) 加藤恵生「過疎地域における新たな産業形成の可能性」橋本徹他編『過疎地域のルネッサンス』 1994年、PP.258-286  

(2) 観光消費の波及構造の強化・拡大  

 地域産業と観光を結びつけて、地域振興を図る第1の方向は、観光消費の波及構造の強化・拡大を 図ることです。特に、既存の観光地または新規に開発される観光施設・施策にあっても、観光によって発生する消費需要に対して、地域内に存在する第1次、第2次産業が原材料、加工製品等の供給源となるよう、連携システムを充実、強化することが必要です。  
 せっかくの観光旅行で、宿泊施設で出された料理が、普段居住地の料理店で食べているものと変わ りばえのしないものでがっかりしたという話はよく聞きます。また最近では、深海魚や鮫などの希少価値のある料理が提供されるなど、観光地の旅館や飲食店の料理が手の込んだものになってきただけに、余程の工夫や研究がなされないと、客を惹きつけることは出来ません。  

ア 宿泊施設・飲食店等との連携による食材等の生産・供給システムの構築  

 そのためには、地域産業が、宿泊施設、飲食店等と連携し、食材等の生産・供給システムをつくり上げたり、強化することが必要です。  

(ア) 特色ある地場の産物の生産・供給

 a 狙いと効果  

 そして、ありふれた地場産品ではなく、「当地ご自慢のおすすめ商品」となるよう、様々な角度から特色のある産物の生産、供給を進めることです。
 大事なのは、このような特色のある地場の産品を、観光施設や飲食店と連携して供給し、観光施設、観光地の話題性、魅力のアップ、差別化戦略として活用することです。観光施設や料理、飲食店のグレードアップにもつながるので、自信を持って販路拡大を図ることです。狙いと効果はまさにここにあります。

 b 内容  

 海・水産物の例で言いますと、本県には表3−2農林水産品の観光的活用の可能性評価でも示したように豊富で新鮮な魚介類があります。観光施設ではあまりこうした海産物に巡り会えた実感がありません。  
 次に紹介するイワシ加工の例のように、もっと加工の仕方に工夫を凝らし、一般流通のみならず、観光資源としても利用するように研究する必要があります。このことは、農産物や特用林産物についても同様です。

 c 展開上のポイント  
 
 人々のライフスタイルは、社会的潮流によって変化し、健康志向、安全志向、本物志向、簡素化志向といったこだわりや、生産者の顔が見える商品への期待、環境保全の実践など、ますます多様化する傾向にあります。農林水産業にあっては、消費者(観光客)と生産者が多様な形で結びつき、生活の視点をより強く持っている女性の特性を経営に反映することが求められますし、消費者の志向に対応した農林水産物を生産することが重要です。  
 特色ある地場産品の生産と供給は、必ずしも高級で希少価値のある素材のみを必要とするとは限りません。肝心なのは、地元にありふれており、普段その価値に気づかない素材をいかに希少価値にまで高めるかの工夫なのです。本県においても以下のような有益な事例があります。

 d 具体的事例  
 
 奥駿河湾に面する沼津市小海では、イワシがたくさん取れますが、魚屋があまり扱わないため有利に販売できません。そこで漁協婦人部では、自ら加工販売に乗り出し、醤油干しにして生協や農協などの団体を通じて販路拡大を図る一方、小学生を対象に加工実習をしたり、給食に取り入れてもらったりしています。さらに直売所を設け販売努力をした結果、婦人部事業から漁協事業として取り上げられるまでに至っています。(*)  

(*) 静岡県「静岡県農山漁村女性ビジョン」平成6年  そのほか、地酒と地元で生産される菓子を異業種交流的に結びつけて、新しい菓子を開発、人気を博している事例もありますし、地元の食品メーカーが地ビールの生産に乗り出すなどの楽しみな動きもあります。

(イ) 地場の産品を活かした特色ある料理等の開発  

 a 狙いと効果

 地場の産品を活かし、地域らしい、当旅館、当店ならではの「食」を開発することが狙いです。これによって、観光地のアイデンティティ向上が図れます。地域によっては、どう工夫しても地域らしさをだすほどの食材に恵まれない地域もあります。そのような場合には、他の地域から仕入れてきて、それに地元の素材を組み合わせて、オリジナリティーを出す工夫も必要です。

 b 内容

 そして強調しておきたいのは、その素材の持つ特性を十分に研究し、それを「健康」「自然」「味わい」など、高付加価値な「食」にまで高めることです。また、十分にかつタイムリーに情報発信することと、自慢の「食」が十分にゲストに説明されること、それに対して評価を受け取ることが必要だということです。料理の「出しっ放し」はよくありません。「食」は、ゲストの厳しい判断を仰ぎ、味や素材、盛り合わせ、容器などについて、常に研究、改善されなければなりません。この辺がおざなりになっていることが多いのです。

 c 展開上のポイント  

 観光の「食」の要件としては、下の図に示したように、「地元の食材」「食の特徴」「土地の雰囲気」「季節感」「料理の情報発信」の5本柱が必要です。




d 具体的事例
 
 県内のあるホテルでは、特色ある健康料理を開発しています。これは、成人病予防など様々な作用があるといわれる緑茶を「食べるチャ」として料理に付加した食べる茶料理と、脳の働きを活性化するというDHA(ドコサヘキサエン酸)が、マグロの目の下の脂肪に多く含まれているのに注目し開発した焼料理です。土産にはメロンがつきます。表3−2農林水産品の観光的活用の可能性評価を具体的に「食」の開発に応用すると、こういう事になるのです。いずれも地元に豊富にある産品をうまく活用した好事例と言えましょう。

(ウ) 旅館・飲食店等と生産者の直接契約など地域内流通システムの構築  

 a 狙いと効果

 旅館やホテル、民宿などでの特色ある料理の開発には、旅館と生産者の直接契約など地域内流通システムを考案することも重要であり、宿泊施設の個性化、差別化だけでなく、工夫次第では地域産業の消費拡大や安定需要を期待することが出来ます。

 b 内容  

 ここでは、お茶を例にとって、その具体策を検討してみました。




 c 展開上のポイント

 地域内流通システムを形成するに当たっては、そのための合意形成に向けて、ねばり強く決して無理をしないやり方で素材や加工品の需要・供給のあり方を検討することが重要です。品物によっては、収穫される時期に需要を上回った量が持ち込まれないようにすることはもちろん、逆に需要に対して供給が過少になったりすることを避けるような方法を考えるべきです。そのためには、上で見たケースのように、時期を限って試験的に導入し、通年供給が可能なものについては、徐々に提供期間を長くして行くなどの方法も可能です。契約栽培によって、あらかじめ供給と需要に関する取り決めをしておくことも可能です。

(エ) 観光需要の曜日・季節波動に対応した安定的な需給バランスを確保するシステムの構築(加工 ・販売施設のミックス等)  

 a 狙いと効果

 観光・レジャー需要は、温泉に代表される比較的季節変動の少ないものを除いて、日曜祝祭日への集中と、ゴールデンウィークや夏休み、秋の紅葉(スキーは冬場)などに集中するという「曜日・季節変動」が付きものです。
 これを本県の季節変動についてみますと、観光客の入込状況は、図2平成5年度月別入込状況に見られるように、8月と、それに5月がやや突出しているのですが、月別に比較的安定した入込を確保しています。しかし、地域によってはかなりの季節変動が大きいところがあり、特に冬場と、あとは先に述べた曜日変動としてウィークデイの観光需要の空白時期があります。すでに重ねて強調したように、積極的に地域産業や産品、それに未利用となっている地域資源を掘り起こし、季節間変動やウィークデイ対策を進めるべきです。これによって観光地、観光施設の魅力向上が図られます。

 b 内容

 観光需要が日曜祝祭日に集中し、季節的な変動が大きいことから、せっかくの地場の産品が旅行先で食べられないとか、逆に高かったりすることが指摘されています。このことは基本的には、「食」の魅力の減退となり、観光地の評価低下につながると考えられます。
 そこで、これまでにも様々な試みが行われましたが、なかなか十分な成果を上げていないのが現実のようです。しかし冷静に考えてみると、このようなミスマッチは、生鮮食料品や魚介類の市場が発達したことから当然のように起きた現象といえます。一昔前、市場が未発達の頃は、旅館が周辺地場産品を直接調達、仕入れることが多かったのは当然のことです。しかし、市場が発達した今日では、そのような流通システムは基本的になくなり、旅館、ホテル、飲食店等では、市場から食材等を調達します。その市場には、地場のものがあることもあり、遠隔地から搬入されたものや、他市場から転送されたものもあります。逆に、地域で生産または採取された素材が、中央卸売市場で高値で販売されていきます。
 こうした市場流通構造の中では、地場産品と旅館等を結びつける仕組みの構築はなかなか容易ではありません。しかし、観光客の曜日・季節波動をなくすような仕組みが講じられ、地場産品の加工と販売、消費部門をミックスさせるような仕組みが考案されるならば、お茶のケーススタディで考案したように、独自の域内流通システムの形成は可能です。
 全国各地で、産物の安定供給が出来ているケースの多くが、産物供給側と、販売、消費側とが同一経営であることを考えればうなずけるかと思います。

 c 展開上のポイント

 供給側と需要側には自ずと利害の不一致が見られるのが普通で、このネックを解消するためには、受・給双方が出来るだけ公的な組織として運営されることが成功の秘訣と言えます。通年安定供給できる工芸品など特別な産品を除いて、多くの場合季節的な供給制約があるのが普通ですから、観光需要の曜日・季節変動に対応して、これを平準化したり変動の大きい状況下で魅力ある商品提供を行おうとするためには、出来るだけ多くの産品をそろえなければなりません。
 しかし、個々に生産者と対応するのでは、供給者側にとって、小さいロットがネックとなり、メリットがなくなりますから、総合的な生産者グループを形成し、多品種少量でも供給可能な組織を作ることが不可欠となります。  

 d 具体的事例

 「アクティ森」のケースでは、管理・運営・営業・企画を行う「株式会社アクティ森」から業務委託契約を受けた地元の「体験の里振興会」が、レストランと農産物加工体験施設に、農産物、食材等の供給を行う体制を取っています。
 地元農家が供給できない地酒、焼き物なども、上述の第3セクターが仕入れるなど品揃えは豊富です。販売所を受け持つ民間デパートのオリジナル商品もこれに色を添えています。このように多彩な商品構成は、当観光拠点の付加価値の一つとなっています。  

イ 特色ある土産品の開発

 (ア) 狙いと効果

 観光消費の波及効果を高めていくためには、特色のある土産品を開発し、販売促進に結びつけていくことが必要です。  
 表5宿泊観光レクリエーションの旅行先での行動の意向に示したように、観光行動の中で土産品の購入(ショッピング)は上位を占めていますし、観光行動の中で「みやげを買って帰る」ことは依然として重要な要因であるし、これからもそうあり続けるでしょう。
 したがって、観光客のニーズにあった、特色ある土産品を開発し、あるいは既存のものを改良して、販売促進に結びつけるならば、観光消費を拡大して、農林水産物やその他の原材料の調達を通じた、地域内産業ミックスが強化され、観光を核とした地域経済の体質が強化されます。すでに本県でも魅力的な土産品は、観光客に数多く提供されていますが、今後ますます磨きをかけていくことが求められます。   


表5 宿泊観光レクリエーションの旅行先での行動の意向

総数

男性

女性

美しい自然景観をみる

48.6%

@
44.3%

@
52.0%

温泉に入る

45.8%

A
42.9%

A
48.2%

のんびりとくつろぐ

44.4%

B
42.2%

C
46.3%

珍しい料理を食べたり、ショッピングをする

41.8%

C
34.2%

B
47.9%

史跡・文化財・博物館・美術館などを観賞する

31.8%

D
29.3%

D
33.8%

家族と一緒に遊ぶ

25.6%

E
26.3%

E
25.1%

大勢でにぎやかに過ごす

15.7%

G
17.4%

F
15.7%

スポーツ・レクリエーション活動をする

13.2%

F
17.4%

H
9.9%

旅行先の土地の郷土色豊かな伝統行事
(工芸品造りなど)に参加する

11.6%

H
12.0%

G
11.4%

旅行先での見知らぬ人との出会いや交流

*

*

*

祭りなどの催しをみる

6.2%

I
5.9%

I
6.4%

その他

0.4%

0.6%

0.2

わからない

0.2%

0.4%

0.1




(注) 1 総理府広報室「余暇と旅行に関する世論調査」(3年10月) による    
    2 複数回答である    
    3 ○内の数字は順位を示す。
 出典:『新時代の観光戦略(上)』社団法人日本観光協会、平成6年 、 P.47

(イ) 本物・こだわり志向への対応  

 a 土産品の魅力の低下と問題点

 ところで、地元の素材と技術を使い、特色ある土産品を開発、販売する際次の点に留意すべきです。  
 統計上十分に把握することは難しいのですが、近年次のような要因から、観光客の土産品離れが進んでいることが指摘されています。(*)  
 @旅行の日常化、大衆化  
 Aプレゼントの機会の増大  
 B観光旅行の目的形態等の変化  
 C消費者のモノ離れ  
 D価格破壊による低価格志向  
 E土産品の魅力の欠如  
 Fふるさと宅配便等、地域特産品の全国ネット販売  
 G観光の日常化による土産品の購入の仕方の変化  
 H経済の高度化による本来的土産品の減少  
 I土産品開発の不採算性  

 (*) 酒井建二他の論文「土産品の開発・地場産品の活用」(社団法人日本観光協会『新時代の観光 戦略(下)』平成6年)PP.155-156

b 本物・こだわり志向への対応

 このような土産品離れ現象は、すべての種類の土産品に見られることではありません。こうした傾向の中でも、地元の新鮮な素材や技術、人材を有効に使った魅力ある商品には人気があります。土産品売場、直売所、物産展でも、こうした商品はよく売れています。これは別の表現をすれば、「本物・こだわり志向」への対応が重要ということです。  
 新しい発想と感性で土産品づくりに取り組むことが必要不可欠です。土産品開発のプロセスを次ページに示しましたが、既存の商品にも、コストパーフォーマンスや価格設定を含めて、こうした観点から常に見直しを加えていくことが必要です。
 その際忘れてならないのは、できるだけ地場の素材を使った特色ある土産品であること、ほんもの・こだわり志向に合致するものであること(本物へのこだわり)、地域の高齢者・女性などの労働力を活用することなどです。特に、伝統的な技術や経験を持った高齢者や、生活者としての感性に優れた女性の活用が重要です。

(ウ) 展開上のポイント

 地元の素材を使った特色ある土産品は、単なる思いつきやアイデアで開発できるとは限りません。次の具体的事例で見るように、商品開発である限りは、一般工業製品にも共通するような、絶えざる研究と、試行錯誤、テストマーケッティング、パッケージ開発、流通開拓など、商品開発・販売のための総合戦略が必要不可欠です。
 本県では四季折々の海の幸、山の幸、様々な新鮮で美味しい農林水産物、海産物がとれ、伝統工芸品や、民芸品の生産技術があります。こうした素材や技術を活かして、さらに磨きをかけ、観光行動の多様化した今日、観光客の積極的誘致に貢献することが重要です。  

(エ) 具体的事例

 宮崎県都城市の「高千穂牧場」は、牛乳、バター、生ハム、ソーセージ、各種パンの製造工程を見学できる加工処理場を持つ一方、それらの販売施設を持っています。ここでの製品開発の特色は、まさに「ここでしかないもの・本物を提供する」というポリシーにあります。また製品開発に当たっては、安易な妥協はせず、経営母体の南日本酪農共同(株)の研究所との連携で、例えばクッキーは2年、アイスクリームは5年かけて開発したと言われます。
 販売戦略にあっても、原則として当牧場の売店、レストランに限定して販売、牛乳については、契約家庭への宅配をおこなっています。徹底して「本物志向」にこだわった製品開発、販売戦略を追求した結果、好評を博しています。
 素材の特性を踏まえながら、次の図土産品の開発プロセスを参考にしながら、是非とも魅力的な土産品開発を進めたいものです。       
<土産品開発のプロセス>




出典:酒井健二 三野輪真明「土産品の開発・地場産品の活用」『新時代の観光戦略(下)』 社団法人日本観光協会、平成6年、P.156  

ウ 直売施設・朝市・農家の縁側販売等

 (ア) 狙いと効果

 ここでは、農産物に限って、その直売という方式でいかに販売を伸ばすかについて考えてみます。
 表6農産物直売方式の種類と特徴に示したように、朝市も含めて、農産物の直売には次のような方法と、営業形態があります。蛇足になるかもしれませんが、本県ではすでに、これらの殆どについて、全県各地で取り組まれており、好評を博しているところです。
 一般的には、農産物の直売方式のメリットは、農協等による系統出荷(市場流通)に比べて、次のようなメリットがあります。これは、海産物の場合にもそのまま当てはまります。  

<農産物直売方式のメリット>

 供給者側にとって、@流通費が節約できる、A日銭が入る、B規格や出荷量が自由、C自家製の手づくり製品が販売できる、D山菜・山野薬草が商品化できる、E消費者の欲しい物がわかる、F消費者と話が出来、売る楽しみがある。
 消費者側にとって、@価格が安い、A品物が新鮮、安全である、B思わぬ物が手にはいる、C手づくり品が買える、Dふるさとの味が味わえる、Eその土地の物が買える、F生産者の顔が見える、G生産者と話が出来、買い物の楽しさがある。

 このように農林水産物や海産物の、魅力ある直売所等を展開することは、直売施設それ自体が、輪島の朝市のように重要な観光資源となることを意味します。

 (イ) 展開上のポイント

 いずれにしても、その地域にあったやり方で、直売方式を企画・立案し、推進していけばよいわけで、必ずこれでなければならないということはありません。主催者側、消費者側がともに楽しく交流できることが基本ではないでしょうか。そして展開上のポイントは次のような点にあります。

新鮮で安全なもの、手作りの味わいのあるもの
農産漁村らしい演出
観光客と生産者 = 販売者とのふれあい・交流


 さらに、これからは「農家の縁側販売」のような方式も検討してみてはどうでしょうか。群馬県新治村「たくみの里」では、販売・体験施設で、お客に接するのみならず、近隣の農家へ周遊してもらって、直接農家の庭先で交流を深めながら販売することを検討していると伝えられています。本県では、春野町に宿泊施設を伴った、民芸品や鮎、野菜などを提供する縁側販売の事例があります。

(ウ) 具体的事例

 佐賀県鹿島市の七浦地区は有明湾の広がる農業と漁業の盛んな小さな地域です。ここでは、すでに地域の婦人組織(農協、漁協の婦人部、地域婦人会、生活改善グループ)が、「あげまき寿司」という郷土料理を開発、加工場を持つに至っています。
 こうしたいきさつから、市によって建設されたレストラン「むつごろう」の管理運営を委託される一方、広場での生産者の協力による朝市「千菜市(せんじゃーいち)」を開設しました。当初は週末だけ開いていましたが、品質と価格が好評で県内外から大勢の観光客が来て、現在では毎日開催、売上を伸ばしています。朝市それ自体が有力な観光資源となり、地域の観光地としての魅力の向上に貢献しています。

エ 観光地に隣接する商店街の観光との連携強化

 (ア) 狙いと効果

 観光地に隣接する商店街にあっては、観光地の成熟化と競争激化に伴う影響を受け、空洞化が懸念されます。そこで、既存の観光施設と、商業空間、飲食店等を連携させ、相互繁栄を図ることで、観光地の魅力を向上させることが必要です。この連携のシステムがうまく働くことによって、観光消費の波及構造が強化され、観光地の魅力アップにもつながります。

 (イ) 内容  

 本県、熱海では近隣商店街と連携して、観光客に商品購入の「金券」発行が試みられており、観光客に地域商店でのショッピングを楽しんでもらうようにしています。このように、観光施設から、出来るだけ積極的に観光客を外(地域、商店街)へ出す仕組みが求められます。
 そして商店街の協力を得て、ショーウインドウの照明を夜間にもつけておいたり、営業時間の延長、街路灯などの照明を設置することが求められます。

 (ウ) 展開上のポイント  

 そのためには、地域での合意形成が必要であり、さらにはこれを契機として、観光客と、地域住民がともに居心地のよい街づくりを進めて行かなくてはなりません。  
 地域住民が生きがいを感じながら働くことの出来る地域づくりを進めていくためには、この合意形成と、街づくりが重要です。一般商店街の観光との連携のあり方については後に記述しました。  

(3) 地域産業の新展開を図るための戦略としての観光的要素の導入  

 地域産業を活かし、観光の新展開を図るためには、地域産業の新展開を図るための戦略としての観光的要素の導入が必要です。そのためには、販路開拓などに課題を抱える地域産業の活性化を図るため、消費者を直接地域に呼び込む観光的仕掛けを導入する戦略が考えられます。  
 また、従来の生産者→市場流通→消費者という枠組みを超えて、生産者と消費者を直接結びつけ、あるいは生産の現場を積極的に消費者に開放することによって、新たな販路の拡大、製品のPR、消費ニーズの把握等につなげるシステムを構築したり、地域産業の高次化(1.5次、2.5次化)と観光名所化が効果的です。  

 ア 観光農園・観光牧場等の整備

 (ア) 多様な試みがある観光農園・観光牧場

 まず、観光農業に関しては、もぎとり園、観光牧場、観光植物園、釣り堀、体験農園、市民農園、農業公園など各種のものがあります。これらに関しては、全国のみならず本県でも広範囲に取り組まれています。表から分かるように、農業や農産物の形態によって、様々な取り組みが可能です。それによって事業主体、必要投資額、営業期間、立地条件も異なります。

 (イ) 展開上のポイント

 観光農園・観光牧場は、それ自体によって農業が抱える様々な構造的弱点や問題点を打開するということよりも、この観光形態を通じて、国民の農業に対する理解の促進に役立ち、間接的に農業の新しい展開を図るための契機になるような位置づけと取り組みが必要です。
 しかしながら、農業や農産物を観光対象とする以上は、そこに明確な経営理念や経営感覚が必要なことは言うまでもありません。そのためには、単なる農作業体験や農産物の販売だけでなく、付加価値の高い観光対象となるような様々な仕掛けが必要です。上の表に見られるように、農園の美観形成からスポーツ施設の併設、加工体験など、周辺のソフトの開発と、それによる顧客満足の向上が不可欠です。
 各地にもぎ取り園など、中途半端なコンセプトメーキングと施設内容のため、開店休業状態にある観光農園があることを見れば、このことが分かると思います。ハードの粗悪さと、ソフト開発が不十分なために、ユーザーに見向きをされなくなったことの結果です。これでは、農業に対する理解とは逆の効果しか得られません。  

 (ウ) 多彩なソフトを開発提供する

 平成7年2月に、JR東海は、伊豆長岡の洋ラン狩り園での洋ラン鑑賞をセットした「早春の伊豆長岡 洋ラン鑑賞とカルチャー体験の旅」を企画、実施しました。メニューは、洋ラン狩り園で取った洋ランを実際に使い、自分用のコサージュをつくれる「コサージュ体験」、手ぬぐいを染める「藍染体験」、それに「陶芸体験」、「薬草ハーブ湯」での入浴など多彩です。
 単に洋ランを鑑賞するだけでなく、体験、学習、感動、創造といった周辺付加価値を盛り込んだ好企画と言えましょう。これまでの観光農園・観光牧場には、この周辺ソフトの開発の面で、大いに研究余地が残されています。  

 イ 生産者等とタイアップした農業体験・林業体験ツアーの受け入れ

 (ア) 共生型社会をつくる仕組みとしての体験ツアー

 農業や林業を体験することは、これらの産業への理解を促進するだけでなく、国民とくに少年たちの情操教育に大いに役立ちます。地元の人たちとの交流を通じた、子供同士あるいは親子連れなどでの共同作業は、有効な対策となるでしょう。「思いやり」、「協調」、「汗と苦労の共有」といった精神のかん養は、都市化が進む中で、もっともっと重視されてよいと思います。
 またこうした試みは、受け入れ側では地元高齢者の生きがい対策としてもきわめて重要です。

 (イ) 地域の連携と都市部との協力で新企画を

 体験ツアーを進める場合にその対象となるのは、小中学校などの児童・生徒の課外活動、修学旅行、様々な地域団体の研修活動などです。一般企業のレクリエーション・レジャー活動などの対象になり得ます。その際、あまり対象を不特定多数に拡大しないことが重要です。つまり、コマーシャルベースに乗りすぎないように、対象を限定し、交流活動の効果を確実に上げることです。  
 こうした交流を、たとえば地域の商工会が、農協や自治体と協力し、都市部の教育委員会、バス会社との連携の中で進めることが出来れは、新しい企画を立てることも可能です。積極果敢に取り組むことが求められます。

 (ウ) 集客のための仕組みをつくる  

 北海道の倶知安町「クサダラーケ共和国」(個人経営)では、水稲、バレイショ、ビート、アズキなど10ヘクタールを活用し、体験農園に活用、周辺農家と“共和国”をつくり、“国会議事堂”(民宿施設)を併設して、修学旅行などでの農業体験、“共和国国民”(会員)への農産物の産直を行っています。
 ただ注意しなければならないのは、農業を営みながらのツアー受け入れであるため、これによる収益との兼ね合いで、本業の農業か受け入れかというジレンマに陥ることを避けなければなりません。上にも述べたように、地域的に広がりを持った取り組み、農協、森林組合、商工会、自治体などからなる、地域共同の取り組みが必要です。  

 ウ 生産者と消費者の契約栽培・オーナー制度の導入とイベントの開催

 (ア) 都市と農村をつなぐ契約栽培・オーナー制度の普及  

 農業、林業にあっては、有機栽培、高品質生産等による高付加価値化を進めながら、安定確実な需要の確保を図ることが重要です。その際、農林業と都市住民をつなぐ方法は、「産消契約栽培」、または「オーナー制度」であり、林業に関しては「分収育林」、「緑のオーナー制度」という形で、いくつかの地域で試みられていますし、湯布院の「牛1頭牧場運動」は酪農に適用した事例です。県内にも「地鶏のオーナー制度」(島田市)、ミカン園(三ヶ日町)などの事例があります。

 (イ) 波及効果を高める

 しかし「分収育林」にしても「緑のオーナー制度にしても」、これのみでは波及効果は限られていますし、まして伐期にはいるまで数10年を要する杉・ヒノキの場合には、経済効果は直ちに実現されないという限界があります。これを克服し、波及を高めるために、やはり都市と農村をつなぐ交流のためのソフト開発が必要です。

 (ウ) 話題性のあるイベントを  

 湯布院の牛くらい絶叫大会は、「牛1頭牧場運動」を補完するソフト開発の好事例です。オーナーをはじめとする参加者が、大声を上げる様はイベントとして話題性豊かです。
 オーナー制度からは離れますが、本県水窪町で毎年、同町と接する長野県側南信濃村と「国取り綱引き大会」が行われていますが、このような話題性溢れるイベントをタイムリーに取り入れることが重要です。  
 交流の方法としては、これまた各地に事例があるように、収穫祭等のイベントによって契約消費者、オーナー等を招待するなどの方策が考えられます。  

 エ 周辺都市住民のためのクラインガルテンの整備

 a 狙いと効果

 ドイツで、「小さな庭」を意味するクラインガルテンが、国民の余暇・レジャー活動として定着していますが、この市民農園の形態は、わが国でも活用可能です。市民農園とは、市民農園整備促進法(1990年)によれば、主として都市住民が「営利を目的としない農作物の栽培」、つまり趣味(ホビー)としての農作業を行うため小区画の農地を借りて利用することを言います。  
 すでに群馬県の倉淵村等での先進事例があります。これは、イの観光農園・農業体験を一歩進めたものと言えます。
 とくに本県の農村や中山間地は都市部に非常に近く、また第二東名や中部横断自動車道、三遠南信自動車道、それに伊豆縦貫自動車道といった高速道路(高規格幹線道)が計画されており、インターチェンジ周辺や、ハイウエイオアシスなどの形で整備すれば、広く都市住民のための余暇空間として活用可能です。

 b 内容

 そこでは、農作業や収穫体験を通じて、国民の農業に対する理解が促進され、また新鮮でおいしい野菜などの供給を通じて、農家の遊休農地の有効活用や都市住民との交流を通じて新しい文化創造にも役立ちます。施設の利用方法には難しい面もあり、地域にあったやり方を考えることになりますが、運営方法に知恵を絞って、出来るだけ広い範囲の都市住民に利用可能な方法を考えるべきです。
 また、種播きから収穫までを一貫して都市住民に委ねることが難しい場合には、地域の農業者や高齢者が指導・管理する体制を検討することが適切です。田植え(種播き)と収穫時のみ参加してもらう方法もあり、「収穫祭」などイベントを絡ませることによって、その他の地場産品の販売とリンクさせることもできます。

 c 展開上のポイント

 日本で市民農園を開設する場合、現在の制度では次の3つの開設主体が可能です。第1は、市町村開設型で市町村が農家と利用者との間にはいる形です。農地所有者と市町村との間で農地の賃貸契約を結び、次に市町村と利用者の間で農園利用契約または賃貸借契約を結びます。
 第2は、農協開設型で、農協が農家と利用者の間に入る形です。つまり、農地所有者と農協との間で農地の賃貸契約を結び、次に農協と利用者の間で農園の利用契約または賃貸借契約を結びます。
 第3は、農家開設型で、農家が開設して直接利用者と対するものです。この場合は農園利用方式となります。(*)
 いずれの形がふさわしいかは、農家や地域の実情によりますが、農家経営にとって決して無理のないやり方を取るべきであり、市民農園の主旨と交流のあり方をよく検討すべきでしょう。  

 (*) 東廉『緑と人がふれあう市民農園』家の光協会、平成3年、PP.26-27

 d 具体的事例

 兵庫県神戸市から車で北へ1時間の丹南町有機農業研究会(会員18人)では、4人ほどのグループ(野菜、酪農、養鶏)では、2ヘクタールの共有林を畑にしたものを借りて、果樹を植えたり学校給食用の野菜を作ったり、市民農園の開設準備を進める一方、地元や都市の子どもの体験学習を行っています。ここでは、「クラインガルテンは文化運動である」とされています。  

 オ グリーンツーリズムの推進

 (ア) グリーンツーリズムの概念

グリーンツーリズムとは次のような取り組みです。

<グリーンツーリズムの概念>

 農村と都市が相互に補完し合い、共生していくことにより、国土の均衡ある発展を目指すこと を基本とし、農村地域における開かれた美しい村づくりに向けた意欲と、都市住民の側に芽生え た新たな形での余暇利用や農村空間の想いとに橋をかけるものとして、グリーンツーリズムを提 唱する。  

 グリーン・ツーリズムとは、「緑豊かな農村地域において、その自然、文化、人々との交流を 楽しむ、滞在型の余暇活動」であり、それを通じて、農村で生活する人も農村を訪ねる人も「最 高のクオリティライフ」を享受できるものでなければならない。それは、ひとことで言うと、「 農村で楽しむゆとりある休暇」である。  
 グリーン・ツーリズムは、大規模な開発は行わず、地域資源を最大限活用し、心の触れ合い等 人的交流の面を重視し、農村の自然や社会を破壊せず、これを育てるものでなければならない。
 また、受け入れる農村側が主役となる女性をはじめとする地域住民のコンセンサスのもとで主 体的に取り組み、地域の農林業等の振興や土地利用、森林や海浜の利活用等の計画等と有機的な 連携を図り、むらづくり方策の一環として位置づけた上で「人と地球がともに生きる農村」を目 指して推進することも重要である。  
 グリーン・ツーリズムは、農村地域に経済的メリットをもたらし、その継続が可能であると同 時に、地域の誇りの確認、農林漁業への理解促進、生活・文化ストックの蓄積、青年層のUター ン等のメリットももたらすことが期待できるものである。  
 また、都市住民にとっては、単に一過性の楽しみではなく農村の生活・文化を味わい、理解を 深めるとともに、自然とのかかわりを自覚し、人間性をかん養する自己実現の旅である。また、 特に、青少年の情操と創造性のかん養に役立つことも期待される。(*)

 (*) グリーンツーリズム研究会中間報告書「グリーン・ツーリズムの提唱―農山漁村で楽しむゆと  りある休暇を―平成4年7月、P.11

 (イ) 農家民宿等の受け入れ体制の整備

 本県にあっても、すでに各地で、いわゆるグリーンツーリズム的な取り組みは進められており、北遠地域での組織的取り組みは、実に盛況だったようです。現在求められているのは、まさにそのための国・自治体レベルの組織化と支援体制の充実にあると言えます。
 グリーンツーリズムを定着させるには、まず何と言ってもその受け入れ体制の整備が必要です。参考までに、英国の代表的な農村民宿によって、いかに農家経営の安定化が図られているかを見たのが、次の表8英国の農場民宿です。            

表8 英国の農場民宿





 出典:宮崎猛「高付加価値農業とグリーンツーリズムの推進」橋本徹、大森彌編著『過疎地域のルネッサンス』P.229

 日本の農村、農家がこれまで果たしてきた機能や、女性労働力への過度の依存といった特質を考えるとき、農家そのものへ宿泊する制度の定着には無理があるかもしれません。従って、農家民宿や農場民宿と言うよりも、「農村民宿」を、農家共同の力や公共的に整備していく方向が妥当と思われます。母屋での交流と、宿泊の機能分担を図るという進め方です。あるいは、当面は共同レストランの運営を先行させて進めた方が妥当かも知れません。

 (ウ) 各種体験プログラム・施設の整備

 ただ食事をして宿泊するというだけでなく、グリーンツーリズムには、都市と農村交流のための様々な仕掛けが必要であり、一定の施設が必要です。これまでに提案した農作業体験、散策、自然・森林観察、地元の素材を使った料理づくり、鮎のつかみ取りや炭焼き体験、それにスポーツ、朝市・イベントといった、様々な交流メニューが提供されるべきです。
 しかし、どちらか一方のみが楽しく、他方が精神的に疲れるとか、遠慮のしあいで後味が悪いといったことにならないように工夫をすべきです。こうした体験を持っているグループ同士が、交流し情報交換をするといったことも必要です。

 (エ) 「エコミュージアム」の推進と展開

 a 狙いと効果  

 グリーンツーリズムを展開するときに有力な手段となるのが、地域の自然や歴史・文化財をはじめ、人々の生活や生産の現場そのものを博物館として見直し、活用しようとするフィールドミュージアムの考え方です。これは特別に大きな博物館を建てるのではなく、地域全体をまるごと博物館と見立てて整備していこうとするものです。これを具体的に補助事業として制度化したのが、環境庁の「エコ・ミュージアム整備事業」で、「国立・国定公園の主要エリア内において、子どもたちが生き物や自然の植生などとふれあい、自然を学ぶことの出来る中核施設を整備する」とされています。したがって、どこの地域でも利用できるとは限りません。国立・国定公園内の開発に制限があり、地域活性化になかなかつながらないという声をよく聞くのですが、こうした制度を有効に活用すべきでしょう。
 地球環境問題など、現在ほど環境問題がクローズアップされている時代は、過去にはありませんでした。このことは、観光開発を環境保全と両立させるということに留まることなく、より積極的に環境保全の大切さ(環境教育)を観光レジャー行動と結びつけていくことの重要性を教えています。その点で、フィールドミュージアムないしはエコミュージアムの取り組みは、大きな意義を持っています。

 b 内容

 ここではエコミュージアムに関して、その取り組みの内容を検討しました。エコミュージアムは、Human Ecological Museumとして、1971年フランスのヘンリー・リビエルによって提唱され、住民主導型の「人間生活と地域生態系の展示空間」として、フィールドミュージアムをさらに発展させたものとされています。今全国各地で、日本的な土壌の中で展開させる試みが行われていますが、主要な事例は次の通りです。エコミュージアムの施設とプログラムについては、表10農村型エコミュージアム施設群&プログラムに示しました。

朝日町エコミュージアム(山形県西村山郡朝日町)実施中
浦富町エコミューゼ(千葉県安房郡浦富町)実施中
ふるさとまるごと博物館(岩手県気仙郡三陸町)実施中
板橋歴史民俗資料館(仮称)(千葉県香取郡多古町)計画中
あさんライブミュージアム(徳島市万代町)計画中
川根地域まるごと博物館(静岡県榛原郡川根町)構想中
芸術の森(兵庫県朝来郡朝来町)構想中
軽井沢まるごと環境ミュージアム(長野県北佐久郡軽井沢町)計画中


 c 展開上のポイント

 エコミュージアムの考え方が、本来的に観光レクリエーション行動と両立するか否かという問題は一応置くとして、ここでエコミュージアムを観光と結びつけるためには、地域の生態系によって成り立つ地域産業を、いかにその中に必要不可欠な要素として位置づけるか、またそのことによっていかにエコミュージアム本来の主旨を活かせるかが重要です。
 次の事例は、エコミュージアムを地域産業と関連させながら、地域振興と結びつけようとする好事例と言えましょう。

 d 具体的事例

 房総半島の南西端に位置する千葉県浦富町のエコミュージアムは産業振興型で、フランス語のエコミューゼと称しています。同町は町の将来像の実現に向けて、1992年度にエコミューゼ基本構想を策定し、新しい町づくりに取り組んでいますが、そのコアとなるのが93年11月に6,700uの敷地に総工費3億円(用地別)をかけて完成させた「枇杷(ビワ)倶楽部」です。町特産のビワにちなんで命名されたもので、八角形の塔をもつ鉄筋コンクリート造り2階建て、町の新しい顔になりました。
 倶楽部内には、多目的ホール、ギャラリーのほか物品販売コーナーなどが設置され、オープン以来観光客を含めて入館者はすでに25万人に達しています。毎年開催される、人形劇の第一人者、伊東万里子さんの主催する人形劇団の人形劇フェスティバルは、名物イベントとなっています。
 サテライトの中で注目されるのが、12月にオープンする「花倶楽部」で、4,600uの敷地にストレリチア(極楽鳥花)やポピーなど10数種類がハウス栽培され、観光客の目を楽しませます。オープンすれば、日本最大の花摘み園になると言われます。
 倶楽部の所長によれば、「ハード面ばかりでなく、足下を見直そうと2年半前から月1回、町民や隣接市町村の住民に呼びかけ、町の歴史を確かめるウオッチングシリーズを行うなどソフト面の努力もしている。過疎化に苦しみ、町おこしに取り組んできたとき、エコミューゼの理念はコアを中心とした分散型の構造をもつリゾートに通じ、産業振興の狙いに沿うもの」とされます。(*)
 いずれにしてもこうした取り組みは、住民の合意形成に基づき、息の長い研究や取り組みが必要です。  
 (*) 「毎日新聞」1994年10月28日、夕刊  


エコ・ミュージアム整備事業

 1.目的  

 国立・国定公園の主要エリアにおいて、子どもたちをはじめとした公園利用者が、生き物や自然の植生などとふれあい、自然を学ぶことの出来る中核施設として、エコ・ミュージアムを整備する。

 2.事業の概要  

 エコ・ミュージアムとは、地域の自然を活かしつつ、エリアの総合的な情報の提供、自然学習、適正な利用者指導等を行えるエコ・ミュージアムセンターと、野外で実際に観察などが行えるエコ・フィールドとを一体的に整備するものである。
 「エコ・ミュージアムセンター」
 常駐するインタープリターによる自然解説機能、ネイチャークラフトや実験などが行える体験学習機能、利用情報提供機能、ボランティア活動等に対する支援機能等を備えた博物展示施設
 「エコ・フィールド」  
 エコ・ミュージアムセンターを中心に、野生動植物の生態や川、湿原などを観察する施設等をトレイル(歩道)で結びつけたフィールド

 3.事業計画等  

 ・事業費 8億円/1地区
 ・整備期間 2カ年

 4.所管:環境庁自然保護局  

 カ 生産・加工の拠点施設を核に観光的要素を付加した複合施設整備

 (ア) 狙いと効果

 本県には地域の地場産業(工房)とその産品を観光的に活用する、本格的な活性化拠点が少ないのが現状です。資料編に収録した「盛岡手づくり村」のように、地域の伝統工芸産業ないしはその製品を集約した生産・体験・販売施設等を一体的に整備することにより、新しい観光拠点として大きな集客力を持つとともに、それが当該産業の体質強化や販路拡大につながるなど、相乗的な効果を生み出している事例があります。まさに、地域産業を活用した観光振興の好事例と言えます。本県においても、表3−1地場産品の観光的活用の可能性評価にまとめたように、利活用の余地は大いにあり、市町村レベルでの展開が十分可能です。

 (イ) 内容

 この種の施設は、単に観光施設というばかりでなく、当該地場産業の生産施設が中心になり、これに観光的要素を付加するという形になるので、あくまで生産基地という内容を中心に考えることになり、生産基地のあり方を観光と関連させる全体設計=コンセプトの独自性が求められます。したがって、後に見るニューファクトリーとも異なるものです。盛岡手づくり村のケースでは、生産のための空間配置と、観光のそれとが、動線で区分された独自な設計となっており、観光と生産とが調和を保っています。

 (ウ) 展開上のポイント

 この種の活性化拠点は、初期投資が巨額に上るため、必要資金をどう賄うか(盛岡手づくり村の場合は高度化資金)、業界の調整、体験メニューの設定方法、アメニティ空間の整備などの大きな課題があるようです。
 さらに総合的には以下のようなトータル戦略が必要です。こうした拠点整備は市町村単位での取り組みは十分可能ですが、事業費規模が比較的大きくなることや、広域的対応が必要であるため、中核的都市ないしは県レベルの方が、取り組みやすい課題と言えます。本県では、21世紀に向けて、第2東名や静岡空港など高速交通基盤が計画されています。主要な交通結節点に、総合的情報発信拠点として、このプランを推進すると効果が大きいと考えられます。
 展開上のポイントは以下の通りです。

<総合戦略>

 ・ 消費者を呼び込むための演出装置(見学、体験、学習、飲食、販売、レクリエーション等)=新しい販売開拓戦略
 ・特色ある産品の生産、本物づくり、販路の限定
 ・消費者ニーズの把握、マーケティング
 ・広域的観光ルートへの組み込み、積極的な広報宣伝活動  

 キ 商業空間を有効活用した新しい観光地づくり

 (ア) 狙いと効果  

 観光地周辺、場合によっては観光資源を持たない商店街にあっても、以下のような手法で観光的に活用可能であり、地域小売商業をとりまく環境がきわめて厳しい折、商店街サバイバル作戦の一環として十分検討に値します。  

 (イ) 内容  

 手法と内容に関しては、次ページの図商業核(商店街中心)としての魅力づくりと環境への文化性の投入にまとめてありますので参考にしてください。

 (ウ) 展開上のポイント

 図に見られるように、展開上のポイントは、既存の商店街の中に買い物客を観光客として引き付けることの出来る、要素(ユニークな土産品店、料理、飲食店、個性的で話題性のあるイベントなど)をいかに作り出すかです。そして、これを景観形成の一環として位置づけることです。  

 (エ) 具体的事例

 滋賀県長浜市の「黒壁スクエアー」は、大型店等の進出等による商業環境の悪化を、独特の景観形成と、新規産業創出によって商店街を活性化させた好事例と言えます。
 黒壁スクエアーの核施設である黒壁ガラス館は、全国的にも希な黒漆喰の洋館で、市民からも「黒壁銀行」の名で親しまれていた、旧百三十銀行の建物を再生したものです。周辺に「黒壁」のオリジナル商品(ガラス工芸品)を製造する工房で、見学も可能な「スタジオクロカベ」等16の統一性のある施設を配置し、年間74万人の観光客を集めるまでになりました。
 運営形態は、民間企業、個人、市の出資による第3セクター「黒壁」で、民間企業の商店街再生にかける並々ならぬ熱意と努力があったと伝えられています。成功の重要な要因は、全国的な地域固有の文化の掘り起こしによる活性化策が、往々にして一過性のブームを脱しきれないのに対して、継続性と一貫性のある取り組みによって、近代的な経営システム(オリジナル性の追求、徹底した計数管理、人材の活用と育成)を取り入れたことにあります。しかも、新規に「ガラス工芸産地」として新産業を創出させたことが強みと言ってよいでしょう。(*)

 (*) (財)静岡経済研究所『SERIまんすりー』1994年7月、PP.26-28  

 ク ニューファクトリー

 (ア) 狙いと効果

 これからの製造業の量産工場は、単なる生産機能だけでなく、観光客や消費者と観光的に交流を深める中で、新しい消費者ニーズの収集拠点としての意味あいを持たせた、新たな展開が必要でしょう。そういう意味でも、観光は製造業全般にとっての高度化対策に貢献するのです。観光とは一見無関係だと思われがちな製造業ですが、楽器・オートバイメーカー、家具・仏壇メーカー、食品メーカーなど、多様な業界でこうした取り組みを検討することが求められます。業種によっては、見学や飲食だけでなく、製造工程の体験も可能でしょう。

 (イ) 内容  

 これは前の複合施設とは異なり、企業の地域貢献、イメージPR戦略を主とする企業戦略としての、新しい生産拠点の展開です。企業がその生産施設(工場)に併設して工場公園や美術館を展開しているケースです。本県では、資生堂掛川工場併設の美術館が典型です。また、酒造メーカーが工場見学を観光客として迎えるケースもいくつか見られ、今後に期待がかかります。

 (ウ) 展開上のポイント

 ニューファクトリーを展開するに当たっての留意点は、次の事例に見られるように、言うまでもなく企業の存続条件である、販売戦略(経営戦略)と、企業の社会貢献、イメージ戦略とがうまく融合したところに求められるべきということです。
 現代の企業は多かれ少なかれ、何らかの形で「社会貢献」を、その経営戦略の中に組み込んでいなければ、社会的存在としての基盤が危ういものと言うことが出来ます。しかしながら、通常の利利潤獲得活動という本来の企業経営と遊離した形での「社会貢献」には自ずと限界があるのも事実です。この点をよく踏まえ、かつその他の様々な要件を考慮した新しい生産活動のあり方が模索されるべきで、その中に観光リクリエーション活動を活かした新しい企業展開が可能になります。

 (エ) 具体的事例

 横浜市にあるビール工場は、見るからに斬新なファサード(外観)、家族連れの遊ぶ姿が目立つ約1万坪の庭園緑地、そしてビジュアルで趣向にあふれた展示見学施設を備え、年間40万人以上の見学者が訪れています。  
 ニューファクトリーのモデル工場として全国的にも名声を馳せたこの工場では、現在最終計画プラントである第二物流センター(一部R&Dセンター)の建設中で、全容が現れるのはまもなくですが、このプロジェクトの背景には、都市インフラ整備や、首都圏の広大な消費市場等の立地優位性に関する経営戦略的な判断に合わせ、並々ならぬ企業の心と知恵があったと言われています。(*)  

 (*) 柏田龍夫「心と知恵で築く横浜のファクトリークリエイション」『産業立地』1994年7月  

 ケ アンテナショップの併設

 (ア) 狙いと効果

 本来の観光とは、やや関連が薄くなるかもしれませんが、農林水産物の販売促進を狙い、また生産工場に隣接して、製品のアンテナショップを併設して、産物や製品の販売促進、情報発信を通じた消費者ニーズの把握につなげるという方法が重要です。また、生産地から遠く離れた東京でアンテナショップを展開するケースが最近増えており、(*)アンテナショップの重要性を物語っています。
 このようにアンテナショップの役割は、産物や製品の販売促進につながるのみならず、消費者や観光客との接触を通じて、顧客ニーズを把握して、新しい製品開発に結びつくという効果がありますし、産地の体質強化につなげていくことが重要です。

 (*)「山陽新聞」1994年10月7日、朝刊

 (イ) 内容  

 本県でも、こうしたアンテナショップの事例は、新幹線掛川駅の「これっしか処」、「駿府楽市」などいくつかの事例があり、これも、今日の多様化・複雑化した消費者ニーズの把握を、製品販売、新規開発に結びつけようという経営戦略の現れです。
 一般に生産と消費は、卸売、小売など流通が不可欠で、流通の機能を借りなければ、産物や製品の価値は実現されません。消費者ニーズがどのようなものか、またどのように変化しているかなどは、この流通関係者から生産者へと伝達されますが、生きた生のニーズを生産に還元するという点では不十分なのが現状です。そこで進んで、生産者または関連団体自らが販売部門を持ち、積極的に販売促進活動を展開し、顧客ニーズにあった製品構成、新製品開発に努力することが求められます。

 (ウ) 展開上のポイント

 アンテナショップに求められる機能は、単なる販売促進に留まらず、消費者や観光客との交流を通じて、当該産業の新展開につながる仕組みを研究することが重要です。文字どおり「アンテナ」から発信する情報と、受信する情報がうまく融合して、新しい産地・経営戦略につながる「拠点」となることが重要なのです。次に示した「これっしか処」は、この点をよく追求した典型的なアンテナショップです。

 (エ) 具体的事例

 新幹線掛川駅に設置されている「これっしか処」は、観光物産センターとして、地域の25市町村の特産品を一堂に集めて展示販売する、ユニークな第3セクターのアンテナショップです。  
 地元でとれるお茶、メロン、カキ、わさびなどの食品、お菓子、地酒、そば、味噌、陶器、竹細工など、330種・3,500点が用意してあります。洗練された商品構成と陳列の秘密は、元流通関係のプロによって担当されているところにあります。単独の産地では出来ない、複数の地域の産物を組み合わせたギフト商品の提供なども、当センターの強みですし、何よりもこの地域にしかないものを、観光客や地元の顧客に提供でき出来ることがセールスポイントです。(*)
 「地酒まつり」、「朝市」などのイベントもこれに花を添えていますし、電話注文で品物を送る「コレクト便」も始まりました。「生産者と消費者の橋渡しの場」として、特色ある機能を果たしています。  

 (*) 財団法人静岡総合研究機構『SRI』1990.1、PP.40-41

 コ 街角美術館・ミニギャラリーの併設

 (ア) 狙いと効果

 本県には、県立美術館を始め数多くの美術館があり、県内外の多くの人々の観光・余暇活動の対象となっています。数さえそろえればいいと言うわけではありませんが、もっと市街地にも本県の代表的な地場産業の「街角美術館」が増えてほしいものです。当該産業に対する興味・関心・理解を引き出し、後継者育成の素地を作ることに貢献するはずです。また潤いと安らぎの溢れる街づくりにもなり、実際にそこに住む人たちにとっても、貴重な財産となるでしょう。

 (イ) 内容

 美術館といっても、何も巨額の資金が必要とは限らず、年数をかけてコレクションや製品を収集(製造)すれば、企業や個人でも建設は可能です。もっと小規模なものがミニギャラリーですが、静岡駅近くの国道1号線沿いに、雛人形などが展示されたミニギャラリーもあります。無機質な道路と都市空間の中にあって、ほっと一息つけるような安らぎの雰囲気を醸し出しています。すでに見たように、商店街を観光的に利活用したり文化性を付加する場合にも、大いに活用したいものです。

 (ウ) 展開上のポイント

 観光との接点で言えば、拠点型のテーマパークでなく、街全体をテーマパークに見立てて、都市計画や街づくりとの整合性を図りながら、都市型観光地を目指すというのが、この手法の特色と言ってよいでしょう。そこで、これを押し進めていくためには、個々の点の整備だけでは不十分で、地域全体の諸団体を網羅した、幅広い取り組みが必要です。また、次のケースで見るようにイベントの実施やPR活動その他の面で自治体の協力が欠かせません。個々の地域産業への経済的波及の即効性は薄いと考えられますが、観光需要を地域産業へ波及させていく工夫を凝らすことによって、地域経済の強化にもつながると考えられます。

 (エ) 具体的事例

 観光地の衰退に悩む三重県伊勢市では、地域に存在する地場産業や商店、飲食店、伝統工芸などの地域資源を活かして、「伊勢町ごとテーマパーク」運動に取り組み、成果を上げています。そこには、観光協会青年部、商工会議所青年部、建築士会青年部、青年会議所、旅館組合青年部の若い代表が集まり、市の企画広報課が協力する形で、「まちかど博物館」づくりが着々と進められました。まちかど博物館の対象になるものは、個人のコレクション、伝統工芸(地場産業)、モデルショップ、建物、人物などで、観光客や住民の求めに応じて案内するボランティアのガイドも組織化されました。  
 また、まちかど博物館運動をPRするため、「伊勢まちかど博物館展」も企画され、6日間で6,000人を集めたと言われます。認定制度によって協力してもらう形を取っており、個人所有の倉庫を改築して、工房と展示室を整備したケースもあります。(*)  
 このように、まちかど博物館運動は、直接的には、観光地伊勢市の活性化運動であると同時に、住民主導による内発的な街づくり運動でもあります。地域全体を美術館に見立てて街づくりを進めていこうという発想においては、「エコミュージアム」の都市版とも言うことが出来、住民合意形成と街づくりへ向けての息の長い取り組みの運動が不可欠です。  

 (*) 高橋徹「まち観光、まちづくりの拠点“まちかど博物館”」『あすの三重』No.92  

(4)観光地の個性化・差別化戦略の一環としての地域産業の活用  

 ア 地域産業が形成する風景・景観の保全活用

 (ア) 狙いと効果

 友禅流し等に代表される、その地域ならではの風景・景観(風物誌等)は、観光地の個性化・差別化戦略を図る上で重要な要素です。
 このような景観は、エコミュージアムに関しても強調しましたが、単なる景観として存在しあるいは継承されてきたのみならず、そこでの暮らしや産業活動を象徴する存在としての景観です。棚田に代表される農村の原風景が、今に再評価されているのはそういう理由からです。従って、このような過去から継承されてきた地域景観を観光対象として演出し、活かしていくことが求められるのです。
 とくにそこに住んでいる人々には、長年見慣れていて、生活に同化しとけ込んでいる、何の変哲もない空間であっても、それをうまく活かすことで観光対象とすることが出来るということが重要です。

 (イ) 内容  

 漁港にあっては、生産手段としての漁網や漁船、その他の漁具、日干しの魚等(例えば富士川河口のさくら海老)を観光地景観の借景として、うまく地域景観の向上手段とすることが可能ですし、農山村にあっても、茶畑(及び手つみ風景)、棚田(水田)、用排水路、農道の景観としての活用から、大根、柿(吊るし柿)、藁ぼっち、農機具、かかしなどをうまくアレンジすることで、素朴な農村風景の演出に役立たせます。

 (ウ) 展開上のポイント

 このような素材は、県内にも数多く残されているし、今後の取り組み次第では、有効な活用が可能です。この場合には、景観の保全・維持、新規創出などに対する地域産業関係者の協力要請・支援が不可欠です。

 (エ) 具体的事例

 由良川の清流と緑豊かな山々の連なる緩やかな斜面に、先人たちの拓いた田や畑と茅葺き民家が点在する、京都府海山町北地区。ここでは、昭和47年に文化庁が集落・町並み調査を開始し、以来部分的に環境保全地区や文化財指定を受けてきましたが、平成5年には茅葺き屋根を中心とした景観一体が重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。
 まさに景観そのものが観光的価値として認められたケースです。集落内には生活改善センター(きび工房)があり、地元でとれた新鮮な素材を使って三色団子や栃もちが作られ、シメジ、味噌、こんにゃくなども集められ、来村者に販売するとともに、ふるさと宅配便として全国へも発送されています。(*)
 地域産業が形成する風景・景観の積極的保全・活用によって、うまく観光対象化した好事例と言えましょう。こうした事例は、鹿児島県知覧町など全国に多数あります。

 (*) 全国過疎地域活性化連盟『でぽら』平成7年3月、PP.14-15

 イ 「フラワーコミュニケーション」の充実と展開

 (ア) 狙いと効果

 本県は全国でも有数の花卉の生産地ですが、粗生産額は図3花卉の粗生産額の推移のように推移しています。露地栽培の頭打ちと対照的に、施設栽培が増加することで、花卉生産全体の飛躍的な増加が見られました。
 しかしながら、主要な流通経路は、生産者から、出荷団体、共同荷受機構、卸売、小売店を通じて消費者に届くという仕組みになっており、これが現在の花卉の産地化を支えています。(図4花卉類の流通経路、図5花卉の市場別出荷額の現状)
 こうした主要流通経路に加えて、観光への利活用を拡大するという意味での「第二の流通網」を開拓・拡大すべきではないでしょうか。豊かな時代を象徴する花卉産業を発展させるために、観光との接点をもっと拡大させようというのがここでの狙いです。

 (イ) 内容  

 本県には、梅、桜、バラ、水仙、ツツジ、洋ランなど数々のフラワースポットがあり、イベントの実施とともに、大勢の観光客を引きつけています。本県の観光というとき、きれいな花をイメージする人も多いと思います。
 
 <フラワーコミュニケーションの概念図>




 
 しかし、これがスポットの展開にとどまっている限り、新しい観光地としての魅力に十分活かされているとは言えません。地域づくりや観光地づくりに当たって、もっと花を主体的に生かし、観光地や施設の魅力を高め、「花」を通じたフラワーコミュニケーションの展開を図ることが必要です。もちろんこのためには、地域でのある程度の合意形成が必要なことは言うまでもありません。
 一般家庭やサークルなどでのフラワー・アレンジメント、あるいは地域での「花の会」の活動などは盛んであり、下地は十分なのです。既存の観光施設を中心に、出来るところから四季折々の花や緑で飾り、観光客の目を楽しませることを心がけたいものです。観光地に少しでもよい印象を持っていただくことが、リピーターの確保にもつながるのです。
 本県にあっては、第2東名建設が計画されているところですが、IC周辺の沿道風景には無機質な建物や倉庫が立っているところが多く、そうしたところへ積極的に花木を植裁して美観を形成することが必要です。例えば、JTC(ジャンクション)内を「花木団地」として、あるいは観光地へ至る道路を「フラワーロード」として整備することも考えられます。

(ウ) 展開上のポイント




 具体的な展開方法は、花を活かす場面によって多彩ですが、以下のように整理することが出来ます。いずれにしても「花」を介在させた「コミュニケーション」の展開が重要で、観光面では「花」による「ホスピタリティ」の醸成が目標です。

 (エ) 具体的事例

 遠州地方には由緒あるお寺が沢山ありますが、とくに中遠地域は「花」をテーマにした寺がいくつかあり、5月の可睡斎のぼたんや可睡ゆり園は有名です。あじさい寺の極楽寺ではあじさい茶屋で精進料理をいただくことができ、紫に染まった庭園を満喫できます。
 ききょう寺の香勝寺では、高台まで見渡す限り、紫と白のききょうが一面に咲き乱れます。常時2万本以上が植えられているということで、花言葉は「変わらぬ愛」。八形山の山麓にある蓮華寺は萩の木で埋もれ、木喰(もくじき)の子安地蔵でも有名です。(*)
 このように花や木は旅をするものの心をなごませ、旅の印象をいつまでも良い思い出として脳裏に焼き付けてくれます。修行僧の西行法師が、「吉野山こずえの花を見しひより心は身にもそはずなりにき」と詠んだ世界が見えてきます。  

 (*) 静岡県商工労働部観光課監修「旅ごころカタログしずおか物語」平成6年9月30日参照

 ウ 観光地の通年化戦略のための地域資源等の活用

 (ア) 狙いと効果

 観光需要の曜日・季節変動に対して地域産業を活かして対応することの必要性についてはすでに述べたとおりです。
 ここでは観光地の個性化・差別化戦略の一環としての地域産業(資源)の活用という観点から考えてみました。時短や週休制が普及し、平日や通年の観光・レクリエーション活動をすることが可能になってくるにつれて、観光地の魅力を向上させ、受け入れ体制を徐々に整備することがますます必要になってくると考えられます。とくに高齢化の進展による高齢者の観光・レクリエーション行動が活発化する一方、子育てを終えた女性層をどのように迎え入れるかが課題です。こうしたシステムを地域産業と関連させて整備したとき、地域への波及はもっと大きなものになるでしょう。

 (イ) 内容

 具体的な内容は、ゴールデンウィーク、夏休み(海水浴)、それに紅葉シーズンに代表される観光需要の季節的偏りへの対策、平日対策が主要な課題です。観光入込の「谷」を、いかに地域資源や新しい料金システムの導入によって平準化させるかに知恵を絞ることが主要な内容となります。

 (ウ) 展開とポイント

 a 新規イベントの考案

 まず、季節や曜日変動を埋めるに値するだけの規模の大きいイベントを開発実施することです。本県は一部地域を除き、冬場でも気候温暖であり、雪による凍結など交通上の制約がほとんどありませんので、とくに冬場対策を中心にイベントなどを集中していくことが効果的と考えられます。紅葉のシーズンが終わった初冬に、健康マラソン大会を実施したり、早春に咲く花(マンサク、ミズキ、寒椿、レンギョウなど)の鑑賞会を催したりすることなどが手短な対応策ですし、ここに今まで強調してきたような、地域産品の提供を関連づけるのです。

 b 新しい観光資源の開発

 第2は新しく観光資源を開発したり、観光施設の体験メニューに新しいものを付加することで、平準化を図ります。ウイークデイの高齢者や女性にターゲットを絞った特色ある体験、料理メニューを開発し合わせて低料金制度を導入することによって誘客を図ります。

 c 特定客層を対象とした低料金システム(割引制度)

 平日または季節的な割引制度(パック割引料金制)を導入することで誘客を図ります。そのためには、観光客に割安感と快適感を持ってもらうようにすることが重要です。

 (エ) 具体的事例

 イベントを創出し、シーズンオフでの誘客を図る事例としては、戸狩の「ちびっ子合宿村」、草津の「音楽祭」、「徳島の有名な「阿波踊り」、斑尾の「ジャズフェスティバル」、各地の「まつり」利用があります。  

 エ 地域のアイデンティティを形成する上で重要な産業等を地域のシンボル化する

 (ア) 狙いと効果

 地域には、その地域を代表する基幹的な産業があり、地域振興を考える場合欠かせない存在になっているキー・インダストリーが存在します。
 または、産業や生活の高度化によって消滅したか、衰退を余儀なくされている産業群があります。こうした基幹的な過去及び現在の産業を、当該地域のシンボルとして活用し、観光と結びつけることが可能です。この場合は、当該産業の体質強化といった直接的な産業対策としてよりもむしろ、地域のシンボル施設として活用、間接的に地域活性化につなげようという発想です。

 (イ) 内容

 ここでは、地域の代表的な農林水産物や過去の鉱山跡地などの活用によって、観光需要を創出する方法を検討してみました。本県には、地域を代表する農林水産物や地場産業が多彩に存在します。まさに産業のデパートと言われる所以です。そのうちいくつかは、すでに地域のシンボル施設として有効活用されているか、計画されている事例があります。
 しかし、まだまだこの豊富な地域産業等を十分に活かし切れていないのが現状ではないでしょうか。例えば、磐田市、袋井市など本県中・西遠地域は、全国を代表する温室メロンの産地ですが、近年の他産地の追い上げや、バブル崩壊後の需要低迷、後継者難などの構造的な要因によって、産地としてのあり方が問われています。ギフト商品の開発などによる新しい販売ルートを開発することや、消費者ニーズへの対応など様々な対応が考えられますが、メロンを地域のシンボルとして活用し、観光需要をも見込むことによって、産地としての地位の維持に貢献することが可能です。メロンをテーマにしたシンボル施設を整備し、メロンに関する品種・栽培の歴史の展示機能を合わせ持った、販売拠点を確保することは産地のイメージアップにもつながります。
 また、県内にもいくつか残っている鉱山の跡地を近代産業の遺構としてテーマパーク化することなどによって、かつての地場産業を現在に活かす方法も検討されてよいでしょう。

 (ウ) 展開上のポイント

 これらは地域のシンボル性を高めるものであり、関係地域諸団体との合意の上、進めることが重要です。次の事例にも見られるように、地域のシンボルとして活用するものであるので、コンセプトメイキングにあたっては「ストーリー性」を効果的に打ち出すことや、当該産業のイメージにふさわしいロゴマークの開発など感性に訴える仕掛けが必要です。

 (エ) 具体的事例

 青森県板柳町では、地域の代表的農産物であるリンゴの低迷に対応するため、リンゴ品種見本園、リンゴ加工場、コテージ、工芸館、清柳館(温泉大浴場・レストラン)、リンゴもぎ取り園、イベント広場等からなる、「板柳町ふるさとセンター」を建設してきました。平成5年度で約20万人の入込を記録しました。
 産物のメインは、リンゴジュース、ジャムなどの高付加価値製品であり、東京などの有名デパートで贈答用品として販売されています。コンセプトメイキングは、「リンゴの里の物語づくり」であり、リンゴという地域産業を、低迷という危機を逆手に取り、むしろ地域のシンボルとして活かした好事例と言えましょう。
 また古来からの伝統的な産業を観光のシンボルとして有効活用しているケースもあります。新潟県村上市では、平安時代からの鮭漁と内水面漁業をメインとして、「鮭文化」を伝承する「サーモンパーク」を整備しました。鮭料理など郷土料理も提供するなど、平成5年度には、152千人の入館者を数えています。
 本県には、イチゴ、ミカン、家具、雛人形、お茶、さくらえび、オートバイ、楽器など全国有数の地域産業があり、地域のシンボルとして観光と結びつけながら活用する余地は大いにあります。  

 地域産業と連携した観光振興推進のため の課題   

 (1) 地域全体における合意形成と計画づくり

 ア ベンチャー的発想による合意形成と計画づくり

 すでに指摘したように、地域産業と観光を結びつけ、地域全般の振興とするためには、狭い業界や業種の枠の中ではなく、これを超えた地域全体での合意形成や計画づくりが必要です。例えば、地域諸団体が連携して地域産業の活性化を図る際に、地域産品の販売促進のための「ロゴマーク」を作製したところ、十分な意志疎通を欠いているために、自治体と商工団体とが同時に2つの類似したロゴマークを作ってしまったというケースがあります。笑い話ではすまされません。このようなことはあってはならないことです。まず地域関連諸団体が十分に話し合い、合意に達することの出来る場や仕組みづくりを行うことが必要です。  
 地域関連諸団体といっても、地方自治体、農協、森林組合、商工会(会議所)、漁協などその組織の目的や機能がそれぞれ異なっているのが現状です。場合によっては相互に利害が対立するケースも出てきて計画が中途半端で曖昧なものになり、その後の実行が困難になるケースが多々あります。
 それぞれの団体には、所管する業界ないしは産業が多年にわたって蓄積してきた、ものづくりや販売、技術などのノウハウがあり、また現在取り組んでいる事業があります。ここで言う合意形成と計画づくりは、そのような諸団体が知識と力を結集して新しい何かを生み出していくためのものであることが重要です。
 そのためには、それぞれの団体や組織の事業計画を寄せ集めた総花的なものではなく、ベンチャー的発想に基づき、異業種交流的に「コト」を仕掛けるための接点を見いだす合意形成が必要ですし、そのための計画づくりが求められます。

 イ  キーパーソンの発掘と活用

 これからの観光地づくりや地域づくりを進める上で、やはり差別化戦略というものが重要な課題です。そのためには、ユニークな発想や新しいアイデアが不可欠であり、それらを生み出す地域の人材を確保することが必要です。  
 地域には、生活、経営、文化、福祉、教育など様々な領域で、独自の活動を行っている、個性的で異色な人材が必ずいます。こうした人材は、他から見ると往々にしてあぶなかしく見えたり、既存の組織の間に軋轢を生じたりすることもありますが、彼らの自由な発想や感性が、新しいものを生み出す上で重要なのです。こうした人材をいかに自由に活動させながら、キーパーソンとして地域づくりに関わるように活かしていくかが課題です。  

 (2) 美しい地域づくり

 ア 美しい地域づくりの必要性

 せっかくの観光地でも、ちょっと横道へそれると、観光地にふさわしくない景観上のアンバランスや、不自然さ、そして場合によっては、観光地のイメージを台無しにしてしまう看板やのぼり、色彩などが目に入り、ガッカリしてしまうことがあります。そしてゴミの散乱には閉口してしまいます。
 地域産業や地域資源を活かし、魅力的な観光地づくりを進めたり、グリーンツーリズムに代表される都市と農村の交流を推進する場合、最終的には、それが「美しい地域づくり」を目指すものでなければ、せっかくの取り組みも不十分なものに終わってしまいます。このことは、フラワーコミュニケーションの展開のところで強調したとおりです。

 イ 地域をトータルに活かすデザイン

 産業基盤から生活基盤の充実によって、豊かな社会が定着すると、人間は空間美を求めるようになるとの指摘があります。空間の美しさを何によってはかり、どういう概念でくくるかについては、設計上の難しい問題がありますが、地域の自然環境や生態系など、従来の設計・デザインでは考慮外に置かれてきた、様々な地域環境因子を積極的に活かすことが求められます。  
 つまり個々の施設などハードの色彩やデザインの統一性という面だけではなくて、それらが配置される地域全体の環境との関わりや調和というトータルな観点に基づいて設計する手法とそのための合意形成が必要です。多くの観光地や農山漁村で、まだここまで至っているケースはないと思われますので、是非とも検討する必要があります。

 ウ 美しい地域づくりの合意形成

 美しい地域づくりは、今述べたように、個々の観光施設のデザインや修景だけを行うのではなく、観光・レジャー・余暇活動などの交流の場となる地域全体の美観的価値やアメニティを高めることを目的とした取組みであるため、その地域に生活する住民はもとより、生産・業務活動を行っている企業・事業者、道路や河川など公共施設の整備・管理を行う自治体など、地域に関わる人々の合意形成と協力が不可欠です。
  「美しさ」のイメージは人によって異なり、まとめることはなかなか難しいのですが、関係者で十分議論し、話し合って、その地域の自然、地形、歴史的な町並みや建築様式、空間構成などの中から地域らしい雰囲気を醸し出す要素を探り当て、共通の基準に高めていくことが必要です。それが美しい地域づくりのマスタープランとなります。
 このように関係者が「美しい地域」についての共通のイメージを持ち合うことが、まず第一に重要なことです。そして、それを実現していくためにお互いが協力し合う関係や仕組みを作ることが、次に大切なことになります。その方法としては、地域住民等による建築協定や緑化協定、景観保全協定などを自主的に締結して守っていくことや、都市計画区域であれば地区計画という法的な拘束力を持った手法も考えられます。また、大分県湯布院町の「潤いのある町づくり条例」に代表されるように、自治体の条例によって開発を認める地域を制限し、建物の色、デザイン、高さなどを規制する方法も最近全国的に見られるようになりました。本県においても掛川市の「生涯学習まちづくり土地条例」があります。  

 (3) 地域に基盤を有する経営体づくり

 ア 民間企業等の活力を活かした経営体づくり

 次に、地域に根ざし公共的に運営される活性化拠点施設の経営体づくりについてです。  
 農林業に関しては、農地法や農業協同組合法が改正され、農業生産法人(農事組合法人、有限会社など)に、農林業生産だけでなく、加工、貯蔵、運搬、販売、資材の製造、農作業の受委託まで、幅広い業務活動が認められるようになったほか、法人の構成員に農地保有合理化法人や農協に加えて種苗会社など民間企業などの参加も認められるようになりました。そこで、幅広い業務範囲を有した新しい農林業経営体の育成が可能であるし、本県の中山間地域においては多彩な特産品を活かし、観光資源と結びつけて新しい産業展開を図ることが可能ですので、こうした経営体の育成を積極的に進める必要があります。
 しかしながら、地域産業を活かし、これを観光と連携させて、これまで見てきたような内発的な産業振興を図っていこうとすれば、その経営体は出来るだけ幅広く地域に根ざし、地域に基盤を有した公的経営体を基本に進めていくべきです。民間企業単独の経営体で成功している事例も見られますが、多くの地域で、公社、第3セクターなど公的経営体によって活性化策が推進されていることが、これを物語っていると言えます。地方自治体、商工会議所(商工会)、農協、森林組合、漁協、地域産業の諸団体、民間企業など、出来るだけ幅広い主体を包括した経営体づくりがこれです。  
 組織の構成や、出資関係、経営体のあり方については、産業のおかれている現状や地域の実情、また地域振興の目指す方向性から多様なあり方が考えられます。要は地域の実情にふさわしい経営体を考えることが基本です。最初から、地域を網羅した組織と経営体が成立しにくいのであれば、地方自治体によるハードの整備を先行し、後に管理運営などのソフト面を、第3セクターなど公的経営体の設立と併せて委譲し、漸次公的経営手法を充実させていく、柔軟な対応も必要でしょう。
 このように、地域に基盤を置き、出来るだけ幅広い主体が参加した経営体によって地域振興を図ることが求められますが、それは民間企業等の経営感覚、柔軟な発想、異業種交流による効果を取り入れた運営が可能になるだけでなく、これまで見てきたような地域での産業ミックスの形成を通じて、より大きな波及効果が期待できるということが重要です。

 イ 公的経営体の財務体質の改善  

 地域産業と観光を結びつけて地域振興を図ろうとする場合、組合や第3セクター等で運営されるケースが多いのですが、ここで第3セクターについて言うと、表12公共側の対応策のような基準に照らして、再度運営形態や組織を見直してみる必要があります。新しく立ち上げる場合には無論のことです。表中、損益段階A〜Eは、図7損益の考え方に表記してあります。
 例えば、ある経営体の収入が営業収入、付帯事業収入、運用収入、補助金等から成り立っているとします。また費用面では図に見られるように、人件費、物件費、貸借料などの変動費から、固定費、資本費、外部流出を計上しなければならないとします。そこでこの経営体の収入が、営業収入を中心に固定費までしか賄えないとするならば、当該経営体の損益段階は「B」と言うことになります。
 そうすると表10に見られるように、公共側の対応策としては、この経営体が赤字経営であることから、「公設民営」方式へ切り替えたり、地方税等の優遇措置を導入するなどの検討が必要と言うことになります。なお、一層の経営努力も求められます。
 観光施設や拠点の経営が公的に運営されていたとしても、それが経営体であるからには、「経営原則」が貫かれねばなりません。この点が曖昧であると、従業員の待遇を巡って不透明な部分が生じたり、不満となって現れることになります。優秀な経営体は、しっかりした財務体質を持っていなければなりません。       

表12 公共(行政)側の対応策





出典:中馬邦昭「民間活力の活用と第三セクターの現状」『地域    開発』1989年8月             


図6 損益の考え方





出典:中馬邦昭「民間活力の活用と第三セクターの現状」『地域開発』1989 年8月  


 (4) マーケティングを重視した総合戦略の必要性

 ア 様々な支援事業(制度)の有効活用

 以上見てきたように、地域産業と観光を結びつけて地域振興を図ろうとする場合、これまでの地域づくりの手法を、斬新な発想で変革することが求められます。また地域特産品の開発、流通対策、さらにはエコミュージアムにいたるまで、きわめて専門性の高い領域に関する知識が求められます。  
 本県にも、公的には産地診断事業、技術支援事業、地域づくりアドバイザー、ドウタンク、情報アドバイザー、地域プランナー、余暇プランナー、高齢者雇用アドバイザーなど、地域・産業振興支援関連の制度があり、様々な要望に応えています。
 都市と農村の交流を促進し、ユーザーと地域産業を結びつける高度な専門的知識と経験を有した人材によって、十分に地域振興に結びつけていくために、これらの支援事業(制度)を有効に活用していく必要があります。  

 イ マーケティングが求められる背景

 地域産業と観光を連携させ、内発力を高めていくためには、各種の支援事業(制度)、また次の項で述べる補助事業等を有効活用するとともに、経営規模の拡大による効率化、新商品やサービスの開発などを可能とする生産技術や企画力、デザインの向上、マーケティングを重視した経営・販売戦略の確立、さらには生産・流通基盤の整備が不可欠な条件となります。今観光をめぐる消費者のニーズは多様化・高度化しており、より高度なマーケティング力による、土産物(特産品)開発、観光拠点でのサービス提供などが何よりも求められています。
 そのためには新たな経営体の活用、人材と資金の確保が必要な条件となりますが、中山間地域にあっては人口規模が小さく、経営規模も小さな農林業が中心の産業構造であるほか、各種の地場産業、商業、漁業にあっても同様の状況に置かれているため、なかなかマーケティングという分野にまで、踏み込んだ展開ができないでいるのが現状です。

 ウ 具体的取り組み

 そこで、都市部や他地域に集積しているマーケティングや各種の経営ノウハウに関する知識や知恵を取り入れることのできる取り組みが必要です。具体的には、地域内での異業種交流、川上と川下の生産者と消費者の交流、観光やグリーンツーリズム、ブルーツーリズムなどによる都市と農村の交流、市町村同士の広域的な地域間交流などの様々な交流機会を設け、多様な人的ネットワークを形成する必要があります。
 このような取り組みの中で、地域の中から経営感覚に優れ、豊かなマーケティング力を持った人材を育成していくことが求められます。とくに若い世代を積極的に活用し、都市部のアンテナショップや観光・販売施設などで、マーケティングや企画力の向上を図る研修を実施し、地域に還元するなどの方策が考えられます。
 また近年地域へのUターン者や、農業への新規就農者、陶芸家などの定住者が増えていますが、地域振興事業をこうした人材とともに取り組むことによって、マーケティングや地域経営の新しい展開を図ることも考えられます。こうした新しい風を起こすことで、地域産業を利活用した観光振興方策も、より効果的かつ総合的な取り組みになると考えられます。  

 (5) 都市との情報ネットワークづくり

 ア 本格的な情報ネットワークが求められる背景

 都市部に住んでいて、一部マスメディアは別として、意外と地域の余暇・観光関連の情報が少ないことに驚かされますし、地域間の情報交換の欠如も目につきます。こうした情報発信とネットワークの改善が、都市と農山漁村との交流を推進するために不可欠であると同時に、地域間競争に勝ち残るための手段として重要です。
 今までに提案した取り組みを十分効果あるものにするためには、最近格段に普及し、簡便な情報通信手段として利用されるようになった、パソコンネットワークを活用した情報の一元化とその提供システムが考えられます。扱う情報の範囲と、構成するシステムの種類、及び誰が入力するかなどについては、大きな予算化が必要であり、難しい一面もありますが、当面は、宿泊施設、拠点施設のユーザー対象に、それぞれの設置者が主体となって、パソコン通信によるネットワークを作ることも可能です。また、手軽な情報発信の方法として、既存の全国的な通信ネットを有効に活用することも考えられます。  

 イ 静岡県観光データバンクの充実・発展

 静岡県では、すでに伊豆地域を中心とした観光振興のために静岡県観光データバンク「ゆうゆうネットIZU」を構築、実験段階から一般ユーザーの利用するところとなっています。交通渋滞など動態情報に不十分さは残すものの、観光情報発信の面で成果を上げています。
 そこで当面は、このネットワークを発展させ、より多くの人々が活用できるような方向を模索します。例えば、地域産業に関連した観光情報の拡充や情報の提供形態、弾力的なネット運用、また、情報発信の対象地域の全県への拡大などについて、伊豆観光21世紀プラン推進協議会や(社)静岡県観光協会と協力して検討します。  

 (6) 高齢者・女性の積極的な運営参加  

 ア 「一芸に秀でたシルバーマン」制度の創設

 今や人生80年時代を迎え、多くの人々が定年退職後の第二の人生として更に20年以上の時間を持つことが当たり前のこととなってきました。人は高齢になるに従い、どうしても社会との能動的な関わりが少なくなる中で、健康の問題とともに、長い高齢期における生きがいの充実ということが大きな課題となっています。
 農山漁村にあっては、高齢者でも健康である限り、何らかの形で農林漁業等の生産活動に従事していることが多いのですが、特に、都市部にあっては、第一線をリタイアしたまま生活している高齢者が多くなっています。
 これら高齢者の中には、現役時代の仕事等を通じて専門的な知識や熟練した技術を持っている人たちが数多くいます。また、趣味活動を通じて郷土史を研究したり、手芸・工芸などに秀でた能力を発揮している人たちもいます。農山漁村においては、地域の伝統や文化を受け継ぎ担ってきたのは主に今の高齢者たちであり、地域の古い歴史を知り、自然現象の変化を肌で読み取る知恵を持っているのはいわゆる古老と呼ばれる人たちです。
 個性的で魅力ある観光地づくりが求められている現在、地域に根差した様々な能力や技術を持った高齢者を積極的に活用していくことが必要であり、また、今後高齢者の観光客が増加することに対応した観光地のホスピタリティの向上という面からも重要です。
 そこで、例えば、地域レベルで「一芸に秀でたシルバーマン」といった形で登録制度をつくり、それぞれの能力に応じて生きがいをもって活躍できる場を様々な形で組み込んでいくことが必要です。すでに伊東市などでは、ボランティアで観光ガイドなどをしているお年寄りがいると聞きますが、その他具体的な活用場面としては次のようなものが考えられます。

地域の観光ガイド
農作業や漁業の体験の指導
地域の自然・環境の案内役(物知り博士)
新規特産物の研究開発
農産物や伝統工芸品の伝承と製作
伝統芸能など地域文化の伝承
地域の民話などの語り部
高齢者による企業         etc.


 イ 「男女共同参画」による地域振興

 おそらく、この調査で提案されていることが実現するためには、女性がカギを握っており、女性が前面に出てこないと、何1つとして実現しないと言ってもよいくらいに重要な事柄です。これまでは、女性があまりにも多忙で控えめであったことが、その能力を十分活かしきれない原因であったのではないでしょうか。もちろん、男性の理解と協力が不十分であったことも原因です。また女性の主体的な生き方や活動を阻んできた制度や社会的通念に問題があったことも事実です。
 これからは、女性が積極的に社会参加できる仕組みを整備するとともに、「男女共同参画社会」を地域においても積極的につくっていかなければなりません。そうした意味からも、地域産業利活用観光振興方策は、具体的な取り組みの重要部分に、大いに女性の参加を期待するものです。本県のみならず、全国での先進事例は、「男女共同参画」の必要性を共通の教訓として教えています。
 「静岡県農山漁村女性ビジョン」は、次のように女性の役割を高らかに宣言しています。 繰り返しになりますが、女性が地域において生活、経済あらゆる面で重要な役割を果たすようになるためには、子育て、介護、男性の理解など条件整備が必要不可欠です。

 (7) 各種補助制度等の有効活用

 本調査で提案した様々な観光振興方策を実際に推進して行くに当たっては、中には多額の事業費を要するものもあり、市町村やその他の事業主体だけで独自に財源を確保することが困難なケースが多くあります。そのため、事業を円滑に進めていくためには、国や県などの各種支援制度を積極的かつ効果的に活用することが必要です。
 こうした支援制度は、例えば観光振興、産業振興、地域づくりという分野で見ても、非常に多岐にわたっており、その所管部局も商工労働部をはじめとしてほとんどの部局に及んでいます。また、所管部局が異なる制度であっても、その目的や趣旨、対象施設等が共通していたり類似していたりするものもあります。
 従って、地域産業を利活用した観光振興事業を展開していく上で注意しなければならないのは、縦割りの行政分野の枠の中だけで考えていると担当している部局でない他の部局の支援制度は分かりにくく、せっかく活用できるものでもつい見落としてしまう恐れがあります。そうならないためにも、市町村においても観光振興担当課や産業振興担当課、地域振興担当課など横の連携を密にし、適用可能な支援制度を広く検討し、活用していく取組みが必要です。