第2節 テクノポリス構想−原型と経緯

はじめに

 テクノポリス構想が公にされ、各地で建設が進んですでに16年の歳月が流れた。それが初めて登場したのは、1980年の産業構造審議会の「80年代の通商産業政策のあり方に関する答申」であった。その後、国レベルの各種委員会での検討(「『テクノポリス90』建設構想について」1980年、「テクノポリス90建設の方向」1981年、「テクノポリス基本構想調査総合報告書」1982年)、地方自治体レベルでの基本構想(1982年)、開発構想(1983年)、開発計画策定(1983年)を経て、1984年3月の第一次指定(長岡、富山、浜松、広島中央、宇部、熊本、県北国東、宮崎、国分・隼人の九地域)を皮切りに、同年9月までには、残りの函館、吉備高原、秋田、宇都宮、久留米・鳥栖地域が、さらに1985年12月までには長崎、青森、西播磨、香川県西部も追加指定され、現在までのところ18地域19道県のテクノポリス建設が公的承認を得たことになる。
 事実上地域指定獲得レースを終わり、ここで、一斉に足並みをそろえたスタートとは言えないまでも、テクノポリス建設に向けての新たな幕が切って落とされたのである。テクノポリスの経緯、指定地域、各開発計画の概要については、順に表1−1、表1−2を参照されたい。また現在まで地域指定には至っていない和歌山県(御坊田園テクノタウン−きのくに健康テクノタウン−)についても、地域指定の実現を目指して努力が払われているところである。
 テクノポリスとは、「地域の文化・伝統と豊かな自然に先端技術産業の活力を導入し、『産』(先端技術産業群)、『学』(学術研究機関・試験研究機関)、『住』(潤いのある快適な生活環境)が調和した『まちづくり』を実現することにより、産業構造の知識集約化と高付加価値化の目標(創造的技術立国)と21世紀へ向けての地域開発の目標(定住構想)とを同時に達成しようとする戦略である」と言われ、各地の開発構想には必ずこの定義が盛り込まれ、その具体化に数々の試みがおこなわれている。
 本稿で分析しているのは、現代のいわゆる先端技術の展開が、地域経済・社会に如何なる影響を及ぼしているのかという点であり、これを、テクノポリス構想のプロトタイプ(原型)とされている、アメリカのカリフォルニア州サンタクララ郡内にあるシリコン・バレーについてみた。ついで、テクノポリス建設をすすめていく場合の法的根拠になっている「高度技術開発企業集積地域開発促進法」、いわゆる「テクノポリス法」と「同法施行令」、及び「高度技術に立脚した工業開発に関する指針を定めた件」(以下「措置法」と略)、テクノポリス指定地域でのヒアリング調査を主として踏まえながら、うえの問題意識に答える形で分析を試みている。 また、本稿では、現代先端技術の展開とそれを助長する国、地方自治体の政策によって、地域経済にどのような影響が及び、かつ地域経済が進展していくことになるのか、現代の先端技術のいわば、「光と影」を立体的に分析することに力点を置いている。そのためには、主として現地調査に頼らざるをえなかった。調査にあたって心よくヒアリングに応じていただいた、地元行政関係者、企業関係者、大学その他の研究者の方々、その他ここでは名前はあげないけれども70名にものぼる方々の協力に心から感謝する次第である。この場を借りて、ひと言御礼を申し述べておきたい。

表1−1 テクノポリス構想の経緯
昭和55.3.
80年代の通産政策ビジョン
55.7.
田園都市構想グループ報告書
55.6.
テクノポリス'90建設構想委員会報告書(産業研究所)
56.7〜57.3
基本構想策定
57.6.
テクノポリス委員会(立地公害局長私的諸問機関)中間報告
57.8〜58.5
開発構想策定
58.4.27
テクノポリス法成立
5.16
テクノポリス法公布
7.15
テクノポリス法及び同法施行令施行
10.15
開発指針の公表
11.21
開発計画の申請
12. 5
テクノポリス委員会
12. 6
開発計画ヒアリングの実施・開発計画の審査
59.2.10
開発計画の課題の公表
3.24
開発計画の承認(新潟県、富山県、静岡県、広島県、山口県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県)
5.21
開発計画の承認(秋田県、栃木県)
5.30
開発計画の申請(長崎県)
7.14
開発計画の承認(北海道)
8. 3
〃(岡山県)
9.17
〃 (福岡県、佐賀県)
60.2.20
開発計画の申請(青森県、兵庫県)
3.12
開発計画の承認(長崎県)
4.25
開発計画の申請(香川県)
8.14
開発計画の承認(青森県)
9.18
〃 (兵庫県)
12. 6
〃 (香川県)



 2.シリコン・バレーと地域経済

 テクノポリス構想との関連で、シリコン・バレーについては、それがテクノポ リスの原型だとされたにもかかわらず、いままでのところあまり多くは語られて こなかった。シリコン・バレーは図1―2にみられるように、アメリカ、カリフォ ルニア州、サンフランシスコとサンノゼの間に、サンフランシスコ湾に沿って、 延長48キロ、幅18キロで帯状にひろがっている、マイクロ・エレクトロニクスを中 心とした先端技術産業の世界的一大集積地であることは、今日ではよく知られて いる。

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 ここでは、ハイテクノロジー産業の花形である半導体をシリコンからつくられるチップとして主力にして生産していることから、ジャーナリストが造語したと伝えられている。いま,E・M・ロジャースとJ・K・ラーセンの著書『シリコン・バレーフィーバー』(1)によって、このマイクロエレクトロニクス産業の実態とその地域経済・社会に及ぼした影響をみてみよう。


表1−2 各地域の開発計画の概要
テクノポリス地域の特徴

道県名

地域名構成
市町村

面積
(万f)

母都市
(千人)

中核となる
大学

テーマ

北海道

函館
1市3町

 9.6
函館市
(320)

北海道大学

国際性がひらく北方園型
テクノポリス

青森

青森
4市2町2村

13.0
青森市
(290)

弘前大学

北の技術定住都市

秋田

秋田
1市2町

 9.1
秋田市
(285)

秋田大学

豊かな資源を未来につなぐ
秋田臨空港テクノポリス

新潟

長岡
1市

 2.6
長岡市
(180)

長岡技術
科学大学

世界に開く技術と文化の町
信濃川テクノバレーの形成

栃木

宇都宮
2市2町

 5.7
宇都宮市
(378)

宇都宮大学

先端技術がひらく田園都市

静岡

浜松
3市2町

 6.5
浜松市
(491)

静岡大学
浜松医科大学

音と光と色の未来都市
浜松テクノポリス−
国際技術情報都市の形成

富山

富山
2市4町

 7.3
富山市
(305)

富山大学
富山医科
薬科大学等

世界への跳躍を目指す
日本海の技術中枢テクノポリス

兵庫

西播磨
4市10町

12.6
姫路市
(446)

県立姫路工業
大学

クリーンシャワー・人間中心の
科学技術都市圏

岡山

吉備高原
3市5町

13.8
岡山市
(546)

岡山大学
岡山理科大学

ゆとりと人間中心の新しい町
吉備ライフサイエンス
コミュニティー


広島

広島中央
3市2町

 6.8
呉市
(235)

広島大学

学術と技術の融合を目指す
緑豊かな広島中央
イノベーションシティー

山口

宇部
4市4町

10.5
宇部市
(169)

山口大学

宇部フェニックステクノポリス
世界の工業開発未来博物館

香川

香川県西部
5市7町

 6.2
高松市
(320)

香川大学
香川医科大学

臨橋型田園都市

福岡
佐賀

久留米・鳥栖
2市5町

 3.1
久留米市
(217)

久留米
工業大学
久留米大学

筑後川流域文化圏の
未来を開く田園技術文化都市

長崎

環大村湾
3市3町

 6.9
佐世保市
(250)

長崎大学
長崎総合
科学大学

ナガサキ・グレイト・リング・
シティの形成

大分

県北国東
4市13町2村

12.3
大分市
(360)

大分大学
大分医科大学

富の国テクノポリス
広域点在正座型
ニューポリスの形成

熊本

熊本
2市12町2村

 9.6
熊本市
(526)

熊本大学
熊本
工業大学等

新火の国計画
緑豊かな分散型都市の形成

宮崎

宮崎
1市6町

 8.7
宮崎市
(265)

宮崎大学
宮崎医科大学

太陽の光に恵まれた豊かな
魅力ある技術集積都市
sunテクノポリス

鹿児島

国分隼人
2市12町

13.2
鹿児島市
(505)

鹿児島大学
九州学院大学

太陽と緑と海につつまれた
臨空国際産業都市


目標とする産業群

研究開発機能の強化

地域設備の方向

海洋関連、資源活用産業
(エレクトロニクス、メカトロ、
 バイオ等)

函館市工業試験所の拡充、
道工業技術センターの設立等

旭が丘ニュータウンの
    活用等

エレクトロニクス、メカトロニクス、
新素材、資源、エネルギー、
バイオテクノロジー、ソフトウェア

産業技術開発センターの設立

共和徳工業団地等
既存工業団地の
        活用等

エレクトロ・メカトロニクス、
新素材、資源、エネルギー、
バイオテクノロジー

県工業技術センターの拡充

秋田新都市
(地域公団)の整備・
        活用等

高次システム産業、
都市型(デザイン、ファッション)
産業、地域資源活用産業

長岡地域技術
 開発振興センターの設立
長岡情報研修センターの設立

長岡ニュータウン
(地域公団)の設備・
        活用等

エレクトロニクス、メカトロニクス、
ファインケミカル、新素材、
ソフトウェア

宇都宮テクノポリス
   情報センターの設立等

清原工業団地等の
    設備・活用等

光技術産業、高度メカトロニクス、
ホームサウンドカルチャー等

(財)電子化機械技術研究所立
     県工試拡充
(財)医療機器技術研究所の
設立

クラスター型の 
 産学住セット開発

メカトロニクス、新素材、
バイオ(医療等)、情報産業
県工業技術センターの移転、
生命科学研究センターの設立
先端技術交流センターの設立

太閤山ニュータウン、
八尾中核工業団地の
活用等

メカトロニクス、エレクトロニクス、
ニューセラミックス、ME機器
県立姫路工業大学の充実
先端技術研究開発センターの
              設立等
21世紀の兵庫づくりの
核としての新都市の形成等

バイオテクノロジー、
エレクトロニクス、
メカトロニクス
(医療医薬品産業)等

県工業技術センターの改革
バイオテクノロジーの研究所
の設立

吉備高原都市
(地域公団)の活用等


エレクトロニクス
メカトロニクス、新材料
バイオテクノロジー等

フロンティア技術センター
の設立
県工試の拡充

賀茂学園都市・
東広島中核工業団地
(地域公団)の整備・活用等

エレクトロニクス、
メカトロニクス、新素材、
海洋開発、バイオ等

県工試の拡充
県工業技術センターの設立
新素材研究開発機構の設立等

アカデミータウンの整備・活用
テクノロードの整備等

バイオテクノロジー、
メカトロニクス、新素材、
ソフトウエア

県工業技術センター等の
充実強化

宇多津浜工業団地等の
積極的活用等

メカトロニクス、
ファインケミカル、ファッション
次世代(バイオ)産業等

(財)地域産業振興センター内
情報センター開設等

広川中核工業団地
(地域公団)の活用等

エレクトロニクス、
メカトロニクス、新素材
海洋開発、資源エネルギー

公設試験研究機関の再編強化
大学との連携促進

針尾工業団地等
既存工業団地の活用等

エレクトロニクス、
メカトロニクス、
バイオインダストリー
ソフトウエア

高度技術開発研究所の設立
県工試の拡充
人材育成センターの設置

北大道路、空港道路、
周辺分散型開発

応用機械産業
バイオテクノロジー、
電子機器、情報システム産業

電子応用機械技術研究所の設立
県工試の拡充

空港を活用した
テクノ回廊状の開発

地場型(バイオ等)、
導入型(エレクトロ等)、
都市型(都市システム)

共同開発センターの設立
県工試の拡充

宮崎学園都市
(地域公団)の整備・活用等

エレクトロニクス、
メカトロニクス、新素材、
バイオテクノロジー

ファインセラミックス
製品開発研究所の設立
県工業技術総合センターの設立

テクノパークの整備・活用等




 1950年代のサンタクララ郡は、カルフォルニア州全体と同じように、一大農業地帯であり、約800人の製造業従業者しかいなかったところである。そのうちの半数はプラムの缶詰工場や、食品加工工場で働いていたといわれる。現在、プラムの果樹はすべて切り倒され、製造業従業者数も20万人の数になった。表1−3にみられるように、18万4000人の先端産業雇用者のうち40%に相当する7万4000人が半導体産業で働いており、あとはコンピュータ、計測器、通信機器、航空宇宙、ミサイル関係となっている。シリコン・バレーの最北部に、バレーの頭脳であるスタンフォード大学があり、その近くには、シリコン・バレーの隆盛に大きな役割を果たした、ヒューレット・パッカード社(H・P社)がある。スタンフォード大学は、R・スタンフォード上院議員夫妻が、大学入学寸前に亡くなった彼らの息子を偲んで、1891年に創立したものである。1940年代の後半に、スタンフォード大学は経営危機に陥ったが、その打開策の一環として、スタンフォード・インダストリアル・リサーチ・パークを建設した。1970年までに、H・P社を含む70社が入居し、大学の財政は好転した。

                  表1−3 サンタクララ郡先端産業雇用者数内訳
                                      (1980年) (%)
半導体産業
コンピュータ
計 測 器 
通信機器
航空宇宙、ミサイル関係
 74,000
 43,000
 31,000
 20,000
 16,000
(40)
(23)
(17)
(11)
( 9)
合 計
184,000人
(100)

                  ※ ロジャース&ラーセン、前掲書、p.278より。

 1955年には、トランジスタを発明してノーベル賞を授賞したウイリアム・ショックレイが、シリコン・バレーに半導体会社を設立したことが契機となって、ここからフェアチャイルド・セミコンダクタ社など数多くの企業がスピン・オフ(分割・独立)した。また、同年には、ロッキード社のミサイル・宇宙開発センターが開設され、シリコン・バレーの隆盛の要因をなした。このように、シリコン・バレーの誕生の初期には、スタンフォード大学と産業と連携が大きな役割を果たし、合衆国国防総省による半導体買い上げ量は、ひと頃はシリコン・バレーでの半導体生産量の40%もあったといわれる。今日では金額的には同じであるが、合計販売高の8%に低下しており、民需向けのものが急速に伸びたことを示している。
しかし、1981年にIBM、インテル、H・Pなどの基金をもとにスタンフォード大学に設立された、集積回路システムセンター(CIS)には、国防省が研究契約に800万ドルを支出しており、シリコン・バレーでは軍学民の共同研究は既成の事実である。
 このように、シリコン・バレーは、陽光に恵まれた温暖な気候と、スタンフォード大学(工科系学部をもつ大学)、それに軍需、すなわち、産・学・軍の共同連携に支えられ、旺盛な企業家精神、ベンチャー・キャピタルの存在の裏付けもあって急速に発展したのである。しかし、それは決して連邦政府や自治体の手による計画的育成によるものではなく、後者の役割も微々たるものにすぎなかった。それはあくまでも自然発生的な傾向、ロジャースとラーセンによれば、塊状集積傾向(agglom- eration)を意味している。
 ところで、マイクロエレクトロニクス産業の生産工場の他地域への立地(拡散)はどのような意味をもっているであろうか。ロジャースとラーセンは、いくつかの企業の分析を通じて、それは「マイクロエレクトロニクス帝国の領土」の拡大だととらえている。それはどういうことか。
 シリコン・バレーの企業は、当地で企業を設立し、それが数多くの企業をスピン・オフして、土地問題を引き起こし、今日では、P&D(研究開発)部門や本社をここに残し、新しい工場は人件費の安い第三世界の国々や,合衆国の他の地域に設置している。テレビ・ゲームメーカーのアタリ社は、1983年の不況時に、経費を削減して収益を維持するため、海外に組み立て工場を移すことにした。アメリカ人従業員の時間給9ドルに対して、香港では1ドル20セントであった。
 半導体の大手メーカーであるインテル社の最大のウェーハ生産工場は,インテル本社から40マイルほど東のリバモアにあり、そこで安い労働力を利用するため1973年に建設された。ここでつくられるウェーハの多くはマニラのA2工場へ送られ、若いフィリピン女性の手で細い金色の先が半導体チップにつけられる。このように、半導体企業の他地域への拡大は、その生産部門であり、シリコン・バレーの高地価を避け、安価な女子労働力を求めてのことであった。
 このように、マイクロエレクトロニクス産業の地方展開による地域経済への波及効果ということには限界がある。それどころか、それによって地域社会にさまざまな病理現象が現れるようになった。
 ロジャースとラーセンは、これを「パラダイスの中の問題」だとして、つぎのように述べている。 「2、3年前までは、シリコン・バレーのマイクロ・エレクトロニクス会社は、地域社会にとって、理想的な隣人のような産業だと思われていた」。事実、シリコン・バレー内各地方自治体は、過去に20〜30年間、地域への企業誘致に熱心で、産業開発一本で進み、住宅地域を産業用に編入してしまった。
 「しかし、1980年代になって、この幸福な一幅の絵にもひびがはいって来たのである。多くの人々は、シリコン・バレーの生活の質が、劣化していることに気づいている。ときおり、茶色いスモッグが、サンタクララ郡南部をおおう。これはその下の高速道路を走る無数の自動車からの排ガスのせいだ。こうした公害問題に加え、半導体チップ窃盗事件多発も重要問題となって来ている。さらにシリコン・バレーは、社会経済的に不平等が顕著なコミュニティーであることも明らかになってきた。
 バレーの北部地域は『仕事地帯』で、そこにはハイテク企業が集中し、たっぷりした広さの住宅に、エンジニアやマネジャー・クラスの人間が住む。一方サンノゼ中心の郡南部は、未熟練技能労働者の住むところだ。彼らは低賃金で単調きわまりない、ときには危険な仕事にこき使われる。多くは第三世界出身の女性たちだ。その実態を見るにつけ、シリコン・バレーはそれほど理想的なところとも思えない。
 もしシリコン・バレーが夢の楽園とするならば、この楽園は非常に重要な社会問題の犠牲の上に成り立つ楽園だ。」
 また、つぎのような環境問題も深刻である。一般に、マイクロ・エレクトロニクス産業は、「クリーン」な産業だと考えられてきたが、シリコン・バレーの半導体工場が、毎日25トンの有機排出物を出しているように、これも一つの神話である。この廃業物質は太陽光線に反応してスモッグを形成する。フィルターにかければ。、これらの汚染物質は除去できるが、これから10年間で3,700万ドルの投資が必要だといわれる。半導体製造にあたっては、一定の製造工程で有毒な化学物質が使用され、労働者がしばしば有毒ガスを吸い、病気になったケースも報告されている。(2)また、化学物質貯蔵タンクの腐敗により、大量の三塩化エタンで地下水が汚染され、それを飲料水にしていた母親から多数の出産障害が現れている。
 シリコン・バレーの最大の都市問題は、土地・住宅問題である。シリコン・バレーへの企業立地の増大とともに、サンタクララ郡への人口流入は増大の一途をたどり、1950年の29万547人から、1980年には125万6200人へと4倍になった。同期間に、住宅数が7万8000戸から46万6000戸へ増え、住宅価格は1974年から1979年の5年間で3倍の値上がりをみた。こうして、マイクロ・エレクトロニクス産業の拡大にとって、この土地・住宅問題が最大の障害となって、以後、他地域への外延的膨張の方向へ進んでいくことになるのである。
 現在合衆国には、表1−4にみるように、12 ほどの先端産業集積地が育ちつつある。これらの先端産業集積地=「新シリコン・バレー」は、シリコン・バレーに本社のあるマイクロエレクトロニクス企業の、応用機器製造施設という形で発生した。いまそれらの特徴を示せば表1−4 の通りである。企業本部とR&D機能つまり頭脳は、サンタクララ郡に残っており、製造機能は転出を続け、やがてアメリカ中に「新シリコン・バレー」を生み出し、シリコン・バレー本社は、ますます情報化社会のエッセンスになっていくだろうと、ロジャースとラーセンは結んでいる。
 以上みたように、現代先端技術の代表とされるマイクロ・エレクトロニクスの集中・集積とその地域的展開=外延的膨張は、地域経済・社会に、必ずしも好結果をもたらさなかった。アメリカ、シリコン・バレーの場合、それは地域に破壊的とも思える結果を引き起こした。しかしそのことは、如何なる先端産業にも、また如何なる国や地域にも必ず現れるというふうに考えるには、いまだ未知数が多いと言わざるを得ない。先端産業の地域的展開の一般的傾向を、シリコン・バレーにみたにすぎない。つぎにわれわれは、わが国のテクノポリス構想について、再度検討することにしたい。

表1−4 「新シリコン・バレー」の特徴
地域名
所在 (州)
大学名
主要産業
主要企業
ルート128
マサチューセッツ
マサチューセッツ工科大学
エレクトロニクス
レイセオン、ワング
リサーチ・トライアングル
ノース・カロライナ
ノースカロライナ大学、デューク大学、州立Nカロライナ大学
エレクトロ ニクス
IBM
バイオニック・バレー
ユタ
ユタ大学
メディカル・エレクトロニクス
E&S
東部シリコン・バレー
ニュー ヨーク
レンセレール工科大学
州立ニューヨーク大学
エレクトロニクス
GM
シリコン・プレーリー
テキサス
−−−
エレクトロニクス
TI、モステック
オースティン
テキサス
テキサス大学
エレクトロニクス
AMD、インテル、モトローラ
シリコン・マウンテン
コロラド
−−−
エレクトロニクス
H.P、DEC
北部シリコン・バレー
オレゴン
−−−
エレクトロニクス
H.P、インテル
シリコン砂漠
アリゾナ
アリゾナ州立大学
エレクトロニクス
モトローラ、IBM
ミネアポリス
ミネソタ
ミネソタ大学
エレクトロニクス
スペリー・ランド
シアトル
ワシントン
ワシントン大学
航空機、エレクトロニクス
ボーイング
オレンジ郡
カリフォルニア
カリフォルニア大学
エレクトロニクス
−−−

(備考) ロジャース&ラーセン前掲書より作成。

 3.テクノポリス建設地域の実態

(1)地方が主体の開発計画

 よく知られているように、今回のテクノポリス構想の場合、前の新産業都市建設の場合とは異なり、地方が主体ですすめられるもので、「地方の時代」にふさわしい地域開発計画だといわれている。それは第1に、テクノポリス建設をすすめるにあたっての財源が、財政危機下の国にはないので、各地方が創意工夫をこらしてすすめるものであること、第2に、計画の作成に関して地方が主体となっておこなうものであり、国は必要なガイドラインを示すにすぎないこと、つまり民間活力が大切であること、第3に、技術立国政策をすすめるといっても、それは地域技術(伝統工芸、地場産業などローカル色のある技術)の高度化にも重点をおくものであることの3点に集約しうるであろう。ここではまず計画作成過程に与えられた地方の「主体性」について、その実質を吟味しておきたい。 国土庁でのヒアリングによれば、「先の新産業都市建設、工業整備特別地域が、機関委任事務だとすれば、今回のテクノポリスは団体委任事務ないしは固有事務だ」とされる。なるほど、基本計画、開発構想と、それぞれ県(道)や市町村の地元自治体レベルが、その作成に深くかかわってきたことは事実であり、開発構想に地域、地域の実状が色濃くでていることは否定しがたい。
 そして形式的にみる限り、浜松地域テクノポリスのような、地域技術の高度化に重心を置いたものや、国分・隼人テクノポリスのような伝統工芸の技術向上を取り入れたものまでも許容したものになっていることも事実である。(3) しかし他方では、テクノポリス法の施行(1983年5月16日)、同法施行令(1983年7月14日)、開発計画策定(1983年12月)、主務四省庁(通産省、農林水産省、国土庁、建設省)による課題の呈示(1984年2月10日、表1−5参照)、課題にたいする回答の提出(1984年2月24日〜3月3日)、開発計画承認(同年3月24日第一次承認)に至る過程で、徐々に画一的なものへと統一されていったことも否定できない。開発計画は、「指針」に依拠することに急のあまり、開発構想の多様性に比して画一的である。
 通産省でのヒアリングによれば、今回の開発計画策定までのプロセスで、各地方から評価を受けた点は、「ものごとを自ら考えるようになったことだ」といわれる。しかし、最初はテクノポリスによらず独自の構想で地域の発展を考えていこうとしていた地域が、テクノポリスに乗るかたちでその自主性の芽を摘み取られるということもある。そして何よりも重要なことは、テクノポリスは技術立国政策という国策に如何に適合性をもつかという線で縛られており、この適合性のなかで認められた「自主性」にすぎないのである。
 従って、固有事務であるとはいえ、それは地方自治の構成要素のうち団体自治に傾斜したものであり、住民自治としての性格は極めて薄いといわざるを得ないのである。
 テクノポリス構想が、通産省−−県(商工部関係)・知事−−市町村のラインで強力に展開され、そこに議会や住民の関与がほとんどおこなわれなかったのも、うえのようなテクノポリス構想の性格に根ざすものといえよう。
「もし、これまでの国土開発のように、陳情型・迎合型の政策を取り続けるならば、確実に中央に搦め取られていき、新しい形の『中央支配社会』が再び誕生するにちがいない」(4) という評価は、少々厳しすぎる感はあるが、あながち的はずれでもあるまい。
 財政については、事は簡単で、要するに国家財政の現状からみて、主として地方財政で処理せざるを得ないということであり、母都市の都市機能を活用するなど、安あがりな内容を取らざるを得なくなっている。従って財政上の問題は、テクノポリスの場合、国家財政の問題もさることながら、地方財政の問題として考察されなくてはならない。
 特に、現在、「増税なき財政再建」の旗印のもと、高率補助金の消滅を中心に、地方への財政負担の転嫁がおこなわれ、さらに地方行政改革として、行政の民間委託など行政の「合理化」がおこなわれているおり、テクノポリスの財政負担が、地方行財政のあり方に深刻な影響を及ぼすことになる可能性がある。財政面で地方が主体とならなければならないとされたにもかかわらず、テクノポリス構想で財政計画が公表されたのは、宇部テクノポリスのみであり、それも問題の多いものであった。
(5)浜松テクノポリス構想も、その第三部として財政計画をもっていたが、一部開発区を除いていまだに公表されていない。
 技術の自主性については、つぎの項で分析しよう。

表1−5 開発計画にたいして国が提示した課題


地域

課題

函館

(1)企業誘致の進展に対応した工業用地の適正な確保を図るため必要な調整を行うとともに   企業誘致体制の確立を図ること
(2)住宅及び住宅用地の方針について明らかにすること

青森

(1)企業誘致関連施策・体制を整備すること
(2)地域企業の技術高度化のための産学官の共同研究体制の整備等
(3)青森市の母都市としての役割及び都市機能の向上のための施策
秋田

(1)秋田港芸技術センターとの連携を含め、地域企業の技術の高度化利用のための
   支援体制の整備を図ること
(2)高度技術工業の立地を円滑化するため、秋田空港周辺の内陸部における工業立地の
   着実な整備を図ること
長岡

(1)長岡技術科学大学等と地域企業との連携に配慮し、地域企業の新たな展開を
   図るための方策を明らかにすること
(2)計画推進に当たっては、周辺地域への経済的な波及効果が十分確保されるような
   方策を講ずること
宇都宮

(1)導入企業と地域企業の連携を図るため、地域企業の技術高度化利用のための
   支援体制の整備を図ること。なお、その一環として、公設試験研究機関等の
   機能強化について具体的な方針を早急に明らかにすること
(2)テクノポリスの核となる住宅及び住宅用地の供給の方針について明らかにすること
浜松

  テクノポリスの建設を進めるに当たり、必要に応じ用地及び関連公共施設の整備を
   図るための方策を明らかにすること
富山

  試験研究等地域企業の技術高度化のための諸施設の整備に当たり、
   それらの有機的な連携の確保のための方策を明らかにすること
西播磨

(1)都市開発(2000ha)を早期に実現するよう具体化すること
(2)産学の連携の強化の方策を明らかにすること
(3)企業誘致の具体的方策を明らかにすること
吉備
高原

(1)開発企画の中長期的な目標である吉備高原都市の開発に至る間、
   新岡山空港周辺部の整備による工業立地の促進等を中心とする事業を
   着実に展開すること。また、内陸部の工業用地及び住宅用地の有効な活用を図るため   関連道路の整備を図ること
(2)地域企業の技術の高度化利用のための支援体制の整備を図ること
広島
中央

(1)東広島中核工業団地の整備の方策を明らかにすること
(2)東広島中核の工業団地をはじめとする工業用地への工業用水の円滑な
   供給方策の具体化に務めること
宇部

(1)開発計画の後期における工業用水の円滑な供給方策について明らかにすること
(2)テクノロードの整備方針について明らかにすること
香川県
西部

(1)企業誘致関連の体制の整備に関する施策を明らかにすること
(2)産学共同関連の施策(地域技術の高度化)を明らかにすること
(3)本四道路橋のインパクトを活用した施策を明らかにすること
久留米・
鳥栖

(1)地域企業の技術の高度化利用のための支援体制の整備を図ること
(2)広川中核工業団地へ早期に企業誘致ができるように体制を整備するとともに、
   住宅及び住宅用地の供給の方針について明らかにすること
環大村湾

(1)地域内の有機的連携の方策を明らかにすること
(2)工業用地の確保な方策を明らかにすること
県北
国東

  広域分散型の企業立地を展開することに鑑み、関連企業の効率的な
   実態の方策を明らかにすること
熊本

  工業用地の供給に当たり、工場適地の効率的な活用の方策を明らかにすること
宮崎

  企業立地の進展に対応した地域関連企業の育成の方策を明らかにすること
鹿児島

  計画的かつ効率的な企業立地を図るため、圏域内の各工業用地の位置づけを
   明らかにすること

(備考) 青森,西播磨,香川県西部,環大村湾については,聞き取り調査。他の地域については,通商産業省他「テクノポリス開発計画の取扱について」(1984年2月)による。

(2)国土の均衡ある発展

 テクノポリス構想は、はじめシリコン・バレーのようなものを、全国に一箇所つくる予定で、その名称も「メカ・シティ」を考えていたといわれるが、その後国土庁の要望で、「国土の均衡ある発展」という角度から、「できるだけ芽のあるところは認める」ということになり、対象地域が広がったといういきさつがある。このことは、テクノポリス法第一条に、「地域住民の生活の向上と国民経済の均衡ある発展に資することを目的とする」とうたわせる形で表われている。またそのための一手段として、同法および「指針」では、研究施設を含む先端産業の地方立地を、地域企業の技術高度化と有機的に結合し、技術移転などの具体策の実施、展開如何に苦慮している。地元レベルでは、異業種交流事業、人材育成、研修事業、債務保証などが、自治体、大学、民間人で構成される産業技術振興機構(表1−6)によっておこなわれていることは周知の通りである。また、同機構はその運営経費を地元企業から精力的に集めているところであり、熊本テクノポリス財団のように、すでに20億5000万円もの巨額を集めているところもある。
 そこで、前項でみたテクノポリス推進の地方の主体性ということは、少なくとも事実としては否定できないところである。現にエレクトロニクスなど地域技術の高度化に対応すべく、地方公設試験場(所)の改組、拡充が相次いでおこなわれている。地方公設試の地域配置は、民間および国立の研究所、大学が大都市に集中しているのにたいして、そのバランスがよくとれており、地元中小零細企業のニーズに対応してきた実績をもつ。例えば秋田工業技術センターは地場産業の「内発力」に対応するものとして、1983年に改組したものである。だから、今回のテクノポリス構想は、そういう点で「国土の均衡ある発展」と言うことを目指したものだということができよう。
 しかし、テクノポリス構想は他方では、エレクトロニクスなど首都圏や大都市圏にある先端産業を、いかに地方へ分散させるか、その受け皿としての地方に期待をするという側面があることを忘れてはならない。テクノポリス構想のいわば「二重性」である。この点では、先端産業の地方立地が、ただちに地域技術の高度化や国土の均衡ある発展にはつながらないのである。シリコン・バレーの分析から明らかなように、マイクロ・エレクトロニクスの地方展開は、女子労働力雇用型の生産部門であり、日本でもその事情は同じである。IC、LSIメーカーで言えば、ちがうのはアメリカの場合、いわば半導体部門メーカーが主であるのにたいして、日本の場合は、NEC、東芝、富士通などの既成電気会社の半導体部門であり、ここで生産されたIC、LSIが大都市圏にある組み立て工場で、自社製品に組み込まれて販売されるということである。だから部品工場であることの基本的属性は、シリコン・バレーでみたのと同じことだと筆者は考えている。
 IC、LSIメーカーである秋田日本電気へのインタビューによれば、そこでの下請依存はメッキのみであり、しかも進出にあたって東京から連れて来ている。ICテスターと光計測器メーカーの安藤電気が、静岡県浜北市(浜松地域テクノポリス圏域の一つ)に進出したが、当地が自動車工業、繊維工業が中心で技術的に異なっているため、下請けの確保が困難であった。取引関係が広範囲に成立しない以上、技術移転を媒体とした地域技術の高度化は達成されない。九州日本電気の協力工場として、履物店からIC工場へ脱皮した原精機産業(6)のような例もあるが、これはごく一部の成功例である。 「指針」にも明記されているように、テクノポリスの開発効果は、周辺地域へ波及するものと考えられている。各地の開発計画でも、その点は強調されている。
 その例として、長岡テクノポリスは、もともと長岡市単独の構想としてすすめられてきたが、1984年8月、筆者がちょうど新潟県を訪れていた時に、テクノポリス圏域を周辺自治体へ広げることになったということがある。というのは、経済的波及効果をどうするのかという、国と県からの指導、それに地元の要請があり、長岡市としては不本意であったが、同テクノポリスが、゛信濃川テクノバレー゛という広域的なものを目指していたこともあり、やむを得なかったということである。
 宮崎SUNテクノポリスでは、宮崎を中心とした同テクノポリスのほかに、県北、県西、県南のそれぞれに、ミニ・テクノポリスをつくることを決定した。(7)しかし、「指針」に明記されているような経済的波及効果というのは、概して曖昧であり、実態的な裏付けに乏しい。
 「国土の均衡ある発展」ということでもう一つ問題になるのは、テクノポリス建設が、かつての新産都の臨海型と異なり、フットルースな先端産業の性格から、母都市と高速輸送手段への近接性があれば、内陸立地でもよく、このことから山村地域に比較的近いところで建設されることである。ここから、いわゆる過疎地域からの労働力人口の吸収が起こり、過疎を促進し、逆に都市と農村の対立を激化させる要因になるのではないかと思われるのである。浜松テクノポリスは、浜松市を母都市とし、浜北市、天竜市、引佐町、細江町、の3市2町を圏域とする「内陸型」テクノポリスである。天竜市は開発構想の段階で開発区域に編入されたものであるが、同市へのヒアリングによれば、天竜市でのテクノポリス建設については、北遠の過疎化を天竜市で食い止めるよう期待がかかっているといわれる。つまり春野町、竜山村、佐久間町、水窪町の四過疎町村から天竜市へは、マイカーによる通勤圏にあり、テクノポリスへの通勤を確保しようという意味に解される。しかし、都市部への出稼ぎ型の通勤は人口流出(拳家離村)を促進する要因になり期待とは逆の方向へ動いてゆく可能性がある。(8)「指針に」明らかなように、「農林水産業の健全な発展との調和」あるいは、「一村一品運動」にみられるような過疎対策が、テクノポリスと関連して課題になっており、(9)テクノポリスと過疎に関する立ち入った分析が必要とされる。
 
     表1−6 産業技術振興機構の概要


地域

産業技術
振興機構の名称

設立
年月

債務
保証

人材
育成

調査
研究

その他

函館

(財)テクノポリス
函館技術振興協会

59. 4




低利投資等

青森

(財)青森テクノポリス
開発機構

50.10




低利投資等

秋田

(財)秋田テクノポリス
開発機構

59. 2



研究開発
助成等

長岡

(財)長岡テクノポリス
開発機構

58. 3



低利投資等

宇都宮

(財)栃木県産業技術
振興協会

58.12



情報提供等

浜松

(財)ローカル技術
開発協会

56. 3



情報提供等

富山

(財)富山県技術
開発財団

58.12



技術研究
助成等

西播磨

(財)西播磨テクノポリス
技術振興財団

60. 3



低利投資等

吉備
高原

(財)岡山県新技術
振興財団

58.11



研究開発
支援等

広島
中央

(財)広島県産業技術
振興機構

58.10



共同研修
助成等

宇部

(財)山口県産業技術
開発機構

58.10



研究開発
助成等

香川県
西部

(財)香川県産業技術
振興財団

59.10



利子補給等

久留米
・鳥栖

(財)久留米・鳥栖地域
技術振興センター

58.10



低利投資等

環大
村湾

(財)ナガサキ産業技術
開発センター

59. 7



低利投資等
熊本

(財)熊本テクノポリス
財団

58.11



情報収集等

熊本

(財)熊本テクノポリス
技術開発基金

59. 4



低利投資等

県北
国東

(財)大分県地域技術
振興財団

58.11



低利投資等

宮崎

(財)宮崎県産業技術
振興機構

58.12



情報収集等
国分
隼人

(財)鹿児島県
産業技術振興協会

58. 6



低利投資等




(3)産学共同研究

 テクノポリス法は、テクノポリス建設の条件として、高速道路のインターチェンジ、新幹線、空港などの高速輸送インフラの存在のほかに、自然科学系の大学ないし学部の存在をあげている。そこでここではまず、テクノポリス関連諸法で、大学を中心とした学術研究体制がどのように位置付づけられているかをみておこう。
 まず、テクノポリス法では、「高度技術に立脚した工業開発」を行なう地域の地域指定の条件として、「その地域又はその近傍に高度技術に係る教育及び研究を行う大学が存在すること」(法第3条の6)をあげている。他方テクノポリス法が想定する工業開発の促進は「立地している企業について」、高度技術の開発または生産に利用する企業への成長、および「高度技術の開発を行う企業の立地の促進を図る措置」の2つである。
 それでは、その地域または、その近傍に存在する大学は、この2つの工業開発の促進の方法とどのように係わっているのであろうか。この点はテクノポリス法には何ら明記されておらず、不明確であるので、前途の「指針」を参考にしなければならない。「指針」は、テクノポリス開発構想を策定した全国19地域が、テクノポリス開発計画を策定するに当たって、国土庁、農林水産省、通産省、建設省が共管で定めた告示であり、ガイドラインであった。「指針」ではテクノポリス建設の必要性について、つぎのように述べている。
 「最近のエレクトロニクスに代表される技術革新の進展には目覚しいものがあり、 これに伴いわが国の産業構造の知識集約化が近年急速に進展してきている。しかしながら、いわゆる大都市地域においては高度技術の開発及び利用により高い生産性を有する企業が相当集積しており、自律的に産業が発展しうる基盤が形成されているのに対し、それ以外の地域においては高度技術の開発及び利用が不十分であり、この結果いわゆる大都市地域とそれ以外の地域の企業の生産性には大幅な格差がみうけられる。
 わが国が今後貿易摩擦、資源エネルギーの制約、財政上の制約等の厳しい情勢の下で、内需の拡大を図りつつ、国民経済の均衡ある発展を遂げていくためには、各地域の産業が技術革新の一層の進展に即応し得るよう、そのための基盤を形成することが重要であり、特に地域経済の振興の観点から大都市地域以外の地域においても積極的に対応していくことが不可欠である。」
 このように、企業の地方への立地促進とならんで、地域企業を高度技術開発企業または高度技術利用企業に成長させることがテクノポリスの重要なねらいになっていることは否定できないのである。 すなわち、先にあげた表1−5によって、各地域の開発計画に対して国が提示した課題をみると、秋田、長岡、宇都宮、富山、吉備高原、久留米・鳥栖、西播磨および香川県西部でそれぞれ指摘されていることが分かる。さらに石川久雄氏は、創造的技術立国の成功のためには、立地企業が共有でき、相互を横につなぐ媒介項として機能しうる強力で魅力あ る外部経済、つまり非営利組織の開放性の高い基礎研究機能が必要だとして次のようにのべている。
 「地方圏にひとつの、強力・大型の拠点工業系大学あるいは研究機関の創設が必要である。その意義は近代文明の一挙導入という課題に直面した明治政府が、複数の『帝国大学』をもって対応した状況に相似する。」(10)
 地域技術水準向上の核となる高度技術開発企業の立地を促進するために、大学などとの連携を重視するとともに、つぎのような条件が必要だとしている。第1に、地域企業が「大学、国公立試験研究機関等との連携」を行なった実績を有すること、第2に自然科学系の学部、学科等を有する大学であって対象地域の企業活動等の特色に対応した高度技術に係る教育及び研究を行なうものが対象地域内に存在すること、第3に、大学が対象地域の中心から既存の交通施設によっておおむね30分以内に到達することができる地域に存在することにより、地域企業との共同研究の実施、地域企業の人材の再教育等高度技術の開発または利用に関する地域企業と大学との連携が可能であることの3点である。 いずれにしても、テクノポリス法における大学の位置づけは、共同研究、人材の再教育など、地域企業と大学の連携の実績があり、かつ今後も可能であることである。テクノポリスの成・否が、これら研究機関と地域企業との連携の如何という、まさにこの一点にかかっているといっても過言ではないのである。
 スタンフォード大学がシリコン・バレーの発展に果たした役割、いいかえれば、 産学共同研究の原型についてはすでにみた通りである。これをシリコン・バレーという地域の技術高度化への貢献と言いかえることもできようが、テクノポリス構想がこの地域技術の高度化によせる期待は大きいといわねばならない。一般に、大学が研究、教育その他の面で、地域社会に貢献したり、時代の進展にともなって、学部、学科の改組、あるいはカリキュラムの改変をおこなって、時代の要請に応えていくことは必要であり、何人も否定しないところであろう。しかし、それのみにとどまらない重大な問題が、今回の産学共同研究には含まれていることにも注目しなければならない。
 それは、シリコン・バレーの分析をまつまでもなく、特定企業や集団の経済的利益のみに結びついたり、軍事研究に走る危険性が指摘されているからである。熊本大学理工系大学院博士課程構想のように、「大学の企業化」(ロジャースとラーセンの前掲書ではスタンフォード大学は「企業」といわれているとされている)ともいうべき事例が報告されている。また、筑波研究学園都市で、テクノポリス構想が出てから、工業技術院研究機関への自衛隊、防衛庁技術研究本部などの見学、研修の名目での立ち入りが目立ちはじめているといわれる。(11)「高速計算は即軍事利用になる」と言われ、「民間技術と軍事技術の間にはいまや峻別できる境界線は何もない」とさえ言われている。(12)
 もちろん、こうした軍事研究はテクノポリス構想の予定するところでもないし、現におこなわれている実態もない。問題は、大学が地域技術の高度化のためにどれだけの編成替えがおこなわれていくかであるが、この点では、1984年に文部省から全国の大学等にだされた「共同研究取扱規則」が制度化されたこと以外には、まだみるべきものはないというのが現状である。

(4)マネー・セイビングな開発計画

 今回のテクノポリスが、マネー・セイビングな開発計画だということはすでに述べたが、このテクノポリス建設に必要な財政措置の問題は重要な問題である。
 テクノポリス関連諸法が与えている、テクノポリス建設に対する財政・金融上の優遇策は、債務保証、研修・指導などをおこなうテクノポリス開発機構への基金の損金算入の特例(租税特別措置法・テクノポリス法第七条)、試験研究用償却資産に対する固定資産税の不均一課税(軽減措置)をした場合の減収の地方交付税による補填(テクノポリス法第八条・同法施行令第四、五条)、地方債の弾力的活用(テクノポリス法第九条)、特定の先端産業企業がテクノポリス地域内に新増設(10億円以上)した工業用機械等(30%)建物等(15%)の特別償却(1984年度改正租税特別措置法)、地域技術振興特利制度の拡充(日本開発銀行、北海道東北開発公庫の同特利を1984年から7.3%へ引き下げ)、地域フロンティア技術開発事業(中小企業庁、通産省、8.9億円)、工業再配置補助金(通産省、5億円)、テクノホポリス推進調査費(通産省、1000万円、以上1984年度予算)の八件である。
 これらは、税制、地方財政、補助金といった既成の政策−−いずれも戦後の高度成長を支えた税・財政政策−−の活用であり、目新しいものではない。むしろ、現在、国・地方を通ずる財政危機に面して、租税特別措置の整理・合理化、高率補助金を中心とした補助金カット、およびそれにともなう起債の増大という事態が進行している折、こうした税・財政政策とは別の問題であり、安易なかたちでこれら措置が拡大されていくとすれば、それは問題なしとしないであろう。
 国家財政よりも問題になるのが、地方財政に与える影響である。「指針」では、工業用地、工業用水道、下水道の整備の具体化を義務付けているが、財政計画の立案を義務付けていない。恐らく、「既存施設の積極的な活用を図る」とされていることから、道路計画にしても、テクノ関連のものとそうでないものとの区別が不明確であるためと解かされるが、宇部テクノポリスを除いて、財政計画が明示されていないのは、いかにも不自然である。

 4.テクノポリスの不均等発展

 テクノポリス構想について評価を与えようとするならば、いわゆるテクノポリスという狭義でとらえられるものと、もっと幅広い広義のテクノポリスというものを区別しなければならないと思われる。前者の狭義のテクノポリスは、前の章で考察した、通産省などがすすめているものであり、後者の広義のテクノポリスは、第二章で考察したシリコン・バレーや先進諸国の集積地(フランスのソフィア・アンティポリス、イギリスのバース・スウィンドン先端技術都市)(13)である。従ってテクノポリス構想という時も、実態的にこれに類するものを含めて考えなければならないように思える。
 このようなものとして、現在、表1−7のような構想が発表されている。これら大都市圏に計画されているビッグ・テテクノポリスにたいして、地方の中小の都市で計画されているミニ・テクノポリスまで、3段階のテクノポリスを考えておくべきだと思われる。しかし、最も重要な点は、テクノポリスが当初計画された時の、また定義の本来の意味あいから言うと、首都圏こそが厳密な意味でのテクノポリスだと考えられるのである。「厳密な意味でのテクノポリス、したがって、シリコン・バレーやエレクトロニック・ハイウェイと似た先端産業のコンプレックスは三大都市圏とくに東京圏に形成されていることが明らかであろう。『テクノポリス』の表現を捩っていえば、東京圏は世界的規模の『テクノポリタン・エリア』なのである」(14)といわれる。
 この「テクノポリタン・エリア」から、先端産業諸機能をいかに分散させるかが問われている訳であるが、現在までのところ、ポリスの側面は大きく後退し、テクノの側面、したがって工業開発の側面だけが目立っている。さらに問題なのは、表1−8にみるように、生産量のシェアと生産額のシェアの乖離であり、これを換言すれば、「分散してきたこれらの工場は、地方の安い労働力を利用するような低付加価値・量産工程のものが多く、高付加価値の加工・組み立て工程は関東にとどめられるという分業パターン」(15)である。
 前にも述べたように、シリコン・アイランド九州では、 安価なICの生産(後工程)がおこなわれており、高付加価値のIC(前工程)は首都圏に集中している。(16) ICそのもの、およびICを搭載したコンピュータなど先端産業製品は、主として富士通、NECなど大手企業の手で国内外市場を目指して販売されてゆく。
 付加価値はこうして首都圏に実現され、生産基地=テクノポリスの経済的地位の相対的低下をもたらすであろう。地元にとっては、固定資産税を減免したところでは、税収のうま味が薄れ、期待される女子労働力雇用も、深夜労働ができないので限界がある。こうして、ロジャースとラーセンのいう、首都圏の「情報化社会のエッセンス」としての性格はますます強まってくるものと思われる。テクノポリスの不均等発展が顕在化し、期待に反した結果を招来することにもなりかねないのである。

表1−7 三大都市圏におけるテクノポリス型開発構想
名称

概要

つくば科学技術関連都市群構想 (茨城県)
千葉新産業三角構想 (千葉県)
マイコンシティー構想 (川崎市)
みなとみらい21構想 (横浜市)
東海環状テクノベルト構想 (中京圏)
京阪奈学術研究都市構想 (京都府、大阪府、奈良県)
先端産業の導入、情報機能整備等
先端産業の導入、学術研究機能整備等
マイコン関連産業の導入等
国際文化都市形成等
先端技術の導入等
国際的学術研究拠点等

(備考) 日本立地センター『先端技術と地域開発』より作成



表1−8 九州におけるIC生産の実績

実数

実数

対全国比(%)

対全国比(%)


数量(千個)

金額(百万円)

数量

金額

1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
81,533
71,165
95,416
250,410
302,251
486,800
690,532
937,129
1,240,784
1,638,561



22,867
43,209
50,586
71,786
98,532
135,503
174,602
227,015

25.9
20,9
39.2
40,2
14.6
45.6
38.2
35.2
35.5
37.4



19.6
21.9
24.3
25.5
25.7
23.8
27.3
27.2


1.本表は九州中村学園大学木下武人教授が第40回日本経済政策学会での研究報告に際し、資料として配付されたものの一部である。
 なお、1982年の全国生産は数量で43億8,107万7,000個。金額で8,348億8,300万円である。

2.村田喜代治「テクノポリスの形成と条件」より引用。

(注)
 (1) E.Mロジャース、J.K.ラーセン著、安田寿明き、アキコ・S・ドッカー共訳『シリコン・バレ ー・フィーバー』講談社、1984年。以下、とくにことわりのない限り、本書に依拠している。
 (2) NEWSWEEK,MAY2,1984
 (3) 「新工芸の村」建設を参照。『国分隼人テクノポリス開発構想』1983年3月、 36 ページ
 (4) 大薗友和『発進テクノポリス構想』エヌシービー出版、1983年、280ページ。
 (5) 鈴木茂「テクノポリスと行財政問題」『テクノポリスと地域開発』大月書店、1985年参照。
 (6) 熊本県水俣市、渡辺茂監修『地球技術の時代』通商産業調査会、1982年、163ページ以下。
 (7) 「西日本新聞」1984年9月27日。
 (8) 拙稿「天竜川水系過疎地域実態調査について」静岡大学法経短期大学部『法経論集』第56・57号、1986年3月。
 (9) 平松守彦『テクノポリスへの挑戦』日本経済新聞社、1983年。また「一村一品 運動」については、同氏の『一村一品のすすめ』ぎょうせい、1982年。
 (10) 石川久雄「テクノポリス構想と都市経済」『都市問題』第74巻3号、61ページ
 (11) 学園都市問題研究会編『筑波研究学園都市』大月書店、1985年、230ページ。
 (12) 宮崎正弘『軍事ロボット戦争』ダイヤモンド社、1982年、10ページ。
 (13) 時事通信社『世界通報』1984年10月9日のテクノポリス特集号を参照。
 (14) 村田喜代治「テクノポリスの形成と条件」『産業立地』1983年11月 14ページ。
 (15) 池本清「テクノポリスと地方の国際化」『世界通報』19ページ。
 (16) 前掲『テクノポリスと地域開発』 (日本科学者会議編)75ページ。

〔追記〕
 本稿は、1984・85年度文部省科学研究費補助金(一般研究A)による共同研究(同研 究課題「現代先端技術の展開と地域経済−−浜松テクノポリス構想と地域経済へ の影響−−」研究代表静岡大学人文学部上原信博教授)の成果の一部である拙稿「テクノポリスと地域経済・地方自治体」(静岡大学人文学部『現代先端技術の展 開と地域経済−−浜松テクノポリス構想と地域経済への影響−−』昭和61年3月) に、自治体問題研究所のテクノポリス研究調査活動の成果をふまえ、大幅な削除 、加筆、修正を加えたものである。

<テクノポリスのその後>
@高度技術立国への体制整備が敷かれた
A地域が自らの頭で産業作りを考えるようになった
B地域の技術基盤が高度化し、交流が活発化した
C大学(試験研究機関)と地域産業との連携が密になった
D地域に人材が定着し、育つようになった